第56話 YOUは何しに? その4
ゆみに聞き返された泰葉は自分の近況を口にします。その言葉を聞いた彼女はこの間の事を思い出して返事を返しました。
「ああ~。仲良くやってるんだ」
「うん、彼女いい子だもの」
泰葉とナリスが仲良くしている事が確認出来たところで、最後のメンバーから電池切れの言葉が漏れます。
「ぷしゅ~」
「鈴香!もうちょっと、もうちょっとだから!」
この予測された非常事態に対して、すぐに並走していたゆみが彼女を支えました。その後も自転車は快調に進み、やがて目的の神社に到着します。
この神社は猫好きの間でこそある程度有名でしたが、地元でも氏子でない人々にはそこまで有名な神社ではありません。ただ、だからと言って無人の神社ではなく、そこそこの参拝客が訪れる中規模程度の神社でした。そんな訳で5人の中でこの神社を訪れた人はひとりもいません。
でも、だからこそみんな新鮮な気持ちで参拝に臨む事が出来ました。神社の駐輪場に自転車を止めながら泰葉はみんなに話しかけます。
「この神社、初めて来るよ」
「私も」
セリナもこの言葉にすぐに同意しました。続いてゆみも神社の印象を口にします。
「何かいい雰囲気はするね」
「参拝する人はそこまで多くないっスね。猫で有名って話だったからもっと人がいるのかと思ってたっス」
ルルが神社の印象をそう表現したその次の瞬間でした。鈴香が神社の境内に動く影を発見し、それを追いかけ始めます。
「猫さん~」
「あ、ちょ、鈴香っ!」
鈴香の異変に素早く気付いたゆみが彼女を追いかけて行きました。残りの3人はやれやれと言った感じで後からゆっくりと歩いて神社に入っていきます。
猫で有名なだけあって神社内を歩いていると猫はすぐに見つかりました。泰葉は得意気に猫を見つけて声を上げます。
「お、第一住人猫発見!」
「ひい、ふう、みぃ……すぐ目につくだけでも6匹もいる」
セリナは目についた猫を数え始めます。そしてその数の多さに感心していました。この調子だと見えないところにも沢山の猫は潜んでいる事でしょう。
神社のあちこちでは猫好きな参拝客がお参りもそっちのけで猫を写真に収めています。
「流石は猫神社っス」
「でも本来の目的は猫じゃないからね」
みんなが猫に感心が向く中、ひとり泰葉だけは本来の目的を忘れませんでした。この名所巡りは海外の観光客を見つける事が一番の目的です。
しかしそれなりに広いこの神社の境内をどれだけ見回しても、それらしき人は見当たりそうにありませんでした。
鈴香を追いかけていたゆみは彼女を見失って泰葉達に合流します。彼女はキョロキョロ周りを見渡しながら歩く挙動不審な泰葉に声をかけました。
「何やってんのよ……もう普通に参拝しただけでいいんじゃない?」
「そうだね。そもそもこの場所に行くのを決めたのは鈴香の……鈴香は?」
「あ、そうだった!」
ゆみが合流したのは鈴香がもしかしたら戻って来ているかも知れないと思ったからです。その予想が外れていたので今度は全員で彼女を探す事になりました。大声で名前を呼びながら迷子の捜索が始まります。
「鈴香ー!」
「すーずーかーっ!」
泰葉とゆみが大声を張り上げながら神社内を歩き回ります。声が届かないのか、このアクションで彼女が姿を現すと言う事はありませんでした。同じくセリナも鈴香を探します。流石に彼女は声を上げるのを恥ずかしがって黙って神社内を探し回ります。
「いない……。一体どこに……」
「いたっスよー!」
4人の中で神社の死角になりそうな場所を重点的に探していたルルがついに鈴香を発見します。彼女は神社裏の軒下で猫と一緒にすやすやと眠っていました。その光景を目にした泰葉は感心したように口を開きます。
「まったく、とんだ才能だよ」
「ほら、鈴香、そんな所で寝ない!」
「ふえ……?」
ゆみに起こされた鈴香は寝ぼけ眼で返事を返します。こうして5人は無事全員合流出来ました。メンバーが揃った所で改めて神社に参拝する事にします。
お賽銭を入れて祈念した後はみんなで運試しと言う事で神社の定番のおみくじを引く事に。最初におみくじの結果を目にしたのはセリナでした。
「う……小吉」
「やった、中吉だよ」
セリナの次に結果を目にしたのは泰葉です。彼女はセリナより運が良かったので小さくガッツポーズをしました。
「吉が出たっス」
「私は……と、吉だった」
「一緒っスね!」
どうやらルルとゆみは同じ運勢だったようです。運勢は同じでも書いているメッセージは違うので、2人はお互いのその内容を読み合いました。
こうして4人はおみくじ談義に花が咲いたのですが、最後のひとり、鈴香の顔がどうにも優れません。それに気付いた泰葉が彼女に声をかけます。
「どうしたの鈴香?表情が暗いけど」
「どうしよ~私、凶だよ~」
何と、一番運の良さそうな鈴香のおみくじの結果が最悪の凶だったのです。この結果にはその場にいたみんなが一斉に驚きました。セリナも鈴香の出した運勢を聞いて思わず声を上げます。
「ええっ?鈴香の事だからてっきり大吉だと思ってた」
「おみくじって結べばいいんだっけ?ほら、鈴香、結んじゃえばいいんだよ!それに今が凶って事はこれから良くなるばかりだから!」
予想外に悪い結果が出て慌てている鈴香を慰めようとゆみが必死にフォローします。
「ふえぇ~、どうかこれで運勢が良くなりますように~」
泣きながらおみくじを結ぶ鈴香を筆頭に、みんなもそれぞれ自分のおみくじを境内の然るべき場所に結びました。こうして名所巡りの二番目の目的地、猫神社――本当は正式な神社名が別にあるんだけど――を後にします。
神社の駐輪場で出発の準備をしていると、時間を確認していたゆみがみんなに話しかけます。
「もうそろそろお昼だし、先にご飯食べちゃおっか」
「だね。そう言えば食べる所決めてたっけ?」
この言葉に泰葉が答えます。この質問に少しの間が空いてゆみはしまったと言う顔をしながら口を開きました。
「あ、決めてなかった」
「って、おい」
セリナがその言葉にコントのようなツッコミを入れます。ゆみはすぐにスマホを取り出して操作を始めました。
「ちょっと待って、今からちょっと検索するよ。みんなは食べたいもののリクエストとかある?」
「私は何でもいいよ」
特に好き嫌いも今すぐにどうしても食べたいものもない泰葉は質問者が一番困る返答を気楽に返します。
「私も」
「同じくっス」
何も考えなくていいのでセリナとルルもまた泰葉の作った流れに乗っかりました。
「じゃあ猫カフェ~」
「ちょ、猫カフェはランチメニューないから却下!」
「そんなぁ~」
鈴香の鈴香っぷりにみんな笑います。そこで場はほっこりと和んだものの、みんなが丸投げするのでセリナは場所決めに困ってしまいました。それで取り敢えず該当するお店を幾つか出して、そこから決めてもらおうと考え、まずひとつ目のお店を読み上げます。
「えっと、道中にセルフのうどん屋さんがあるけど……」
「別にいいよ」
「そこ行こうよ」
「うどん、いいっスね」
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