第55話 YOUは何しに? その3

 プランを決めるのはゆみでもこれは飽くまでも泰葉が言い出したものです。彼女の意見を尊重して名所巡りで行く場所はここまでに出た3つと言う事に決まりました。


「で、最後は猫カフェ~」


「いや、行かないって」


 最後に鈴香のボケにゆみがツッコミを入れた所でこの会議はコントのように終わったのでした。


 そうして月日は流れて次の休日になり、いよいよ名所巡り当日となります。その日は朝から天気が良くていい行楽日和となりました。今回はかなりの距離を移動するので泰葉達は自転車で待ち合わせ場所の駅前に集まります。

 アリスを除いた5人は待ち合わせの10分前には全員が揃っていました。


「ふう~、今日はいい天気になって良かったぁ~」


 泰葉が今日の天気の感想を口にしながら背伸びをしていると、今回のツアープランナーのゆみが早速今日の行程の確認をします。


「じゃあ行き先の確認をしよっか。まずは近場からって事でお城に行って、それから神社、で最後に……」


「猫カフェ~!」


 どうしても猫カフェに行きたい鈴香がまたしてもここでそれを口にします。ゆみは呆れたようにその願望を却下しました。


「いや、市民の森だからね」


「ゆみのいけずぅ~」


 拗ねる鈴香をスルーして、泰葉は本来の目的を思い浮かべながらそれを口にします。


「でもさ、これらの何処かに海外の人っているのかな?」


「行ってみないと分からないっスよ」


「だね、じゃあ出発しよっか」


 出発の時間となってみんなは自転車を漕ぎ出しました。駅前からお城までは自転車で約10分です。近場と言う事もあって、あっと言う間にお城に着きました。

 地元のお城は昔からのお城がそのまま現存している訳ではありません。昔あったお城の城跡に、最近になって当時の設計図をもとに復元したものです。なのでどこか映画のセットのような作り物感を感じてしまう部分はありました。


 5人は駐輪場に自転車を止めてみんなで雑談しながらゾロゾロとお城の門をくぐります。みんなの中で最初に口を開いたのは人生で2回目のお城体験のセリナでした。彼女は両手を広げながら少し大げさに言います。


「小学生の頃ぶりだぁ~」


「私は毎年春には来てるよ」


 感動しているセリナを横目に泰葉は自分の事を口にします。セリナは何故彼女がそうしているのか疑問に思いました。


「春?何で?イベントか何かあるの?」


「お花見だよ。このお城のお花見は結構賑やかなんだよ。屋台も出るし」


「知らなかった。初耳だよ」


 そう、天守閣の前の広場は何本も桜の木が植えられていて、毎年春になるとそりゃもう賑やかなお花見会場となります。地元の人は春にお城でお花見をするのがある種の恒例行事となっていました。なのでそれを知らなかったセリナにゆみもツッコミを入れます。


「お城のお花見を知らないなんて逆に珍しいよ」


「そうそう、私もお城にお花見に来るっスよ」


 5人の中で春のお城を知らないのはセリナだけだと言う事が判明し、彼女はその春の情景に興味を持ちました。


「そうかー。じゃあ来年の春は来ようかな?」


「じゃあさ、来年の春はみんなで来ようよ、お花見、きっと楽しいよ」


 こうして奇しくも来年の春の予定が埋まります。この約束を忘れないようにしなくちゃと5人の誰もが記憶に刻みつけるのでした。秋のお城はそんな春のお城に比べてPRポイントはあまり多くありません。だからでしょうか、お城を訪れる人もまばらで休日の朝と言う条件を加味しても少し寂しい感じでした。

 キョロキョロと周りを見回して観光客の人達を物色していた泰葉は困った顔をしながらその感想を口にします。


「うーん、けどこの時期は人が少ないね。有名なお城じゃないからかな」


「折角だしお城にも上ってみようよ。城内ならもしかしたら海外の人もいるかも知れない」


「よし、行こう!」


 がっかりしている泰葉を見てゆみがお城に上る事を提案します。そこに希望を見出した彼女はすぐにその意見に賛同しました。5人は観覧料金を払ってお城に入ります。復元されたお城だけあって中では郷土資料が展示されていたりして、お城と言うよりお城っぽく建てられた郷土資料館と言った風情です。

 5人はそんな展示物を眺めながら上へ上へと階段を登り、やがて天守閣へと辿り着きました。


 天守閣から外の様子を眺めた泰葉はそこから見下ろす街の景色を堪能します。


「ふーっ。やっぱりここからの眺めはいいね」


「肝心の海外の人はいなかったけど」


 手すりに両手を置いて景色を眺める彼女にゆみは突っ込むように言葉を続けました。


「そこはちょっと残念だったね」


 ため息を付きながら目的が不発に終わった事を泰葉は少し残念がります。その言葉を受けて隣で同じように景色を堪能していたセリナが口を開きました。


「私お城に上ったのは初めてだったけど、中はこんな感じだったんだ。色々新鮮で面白いね」


「ここはセリナが喜んでくれたから良しとするか」


「だねー」


 それから5人は30分程この景色を堪能してお城を後にしました。駐輪場まで戻って来て、すぐに泰葉は次の場所の確認をします。


「じゃあ次は神社だね。ここから遠いんだっけ?」


「えーと、確か自転車で30分ってところかな」


 場所について下調べしていたゆみが彼女の質問に答えました。その言葉を聞いた鈴香が早速弱音を吐きます。


「うえ~。まぁまぁ距離ある~」


「そこはサイクリングを楽しむって事で。みんなで走れば楽しくてあっと言う間っスよ」


「そうそう、時間なんてすぐだよ」


 行く前から気弱になっている彼女に対し、ルルとゆみが何とか励まします。同じくインドア派で体力のないセリナはその雰囲気に自分もちょっときついとは言い出せなくなっていました。その雰囲気を察した泰葉はにっこり笑って無言で彼女を励まします。


 出発前にちょっと問題も発生しましたが、ともかく5人は次の目的にの神社に向けて出発しました。今日は天気も良かったのでみんな快適に自転車を漕いでいきます。走りながら風を感じたゆみはその感想を口にしました。


「いやぁ~、本当に天気がよくて良かったぁ~」


「行楽の秋って感じだね~」


 泰葉もゆみの言葉に賛同します。サイクリングは順調に進みますが、やはり片道30分の長丁場、最初こそ黙って真面目に自転車を漕いでいましたが、やがてみんなその沈黙に耐えられなくなってきます。そこで泰葉が一緒に走ってるみんなに声をかけました。


「最近のみんなの調子はどう?」


「ん?別に何も?」


 突然話しかけられたセリナはそっけなく返事を返します。それがあまりにそっけなかったので泰葉は閉口しました。


「調子はいいっスよ。部のみんなとも仲良くなれた感じっス」


「お、いいね~」


 次に答えてくれたルルの言葉に泰葉は嬉しくなって返事を返します。後ろを走っていたメンバーの返事が聞こえなかったので、彼女は振り返りながら声をかけました。


「ゆみは?」


「特に可もなく不可もなくかなぁ~?そう言う泰葉はどうなのよ?」


「私はほら、ナリスって新しい友達が出来たから退屈しなくなったよ」

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