YOUは何しに?
第53話 YOUは何しに? その1
夜、泰葉はナリスと一緒にテレビを見ていました。ちょうどアニメ番組が終わって次の番組が間髪を入れずに始まります。それは日本を訪れる海外の人にインタビューしてどう言う目的でやって来たのかを教えてもらう結構人気のバラエティ番組でした。
「おお、海外の人が日本の田舎を旅してるわあ」
(そんなに珍しいですか?)
テレビを見てツッコミを入れる彼女にナリスが質問します。この質問にスナック菓子を袋からひとつまみ探りながら泰葉はつぶやくように答えました。
「まぁね。こっちは田舎だから。身近な外国人ってアリスくらいかなぁ。彼女も純粋な白人じゃないけど」
彼女のその何気ないつぶやきを聞いたナリスは何故だか不機嫌になりました。
(私がそうですよ!)
「あ、そっか、そうだよね。こんな身近にいたよ。ごめん、気付かなくて」
(ううん、構わないわ)
彼女が海外生まれの人形だと言う事を泰葉はすっかり忘れていたようです。自分の主張が認められて、ナリスもその後は元のようにすっかり大人しくなりました。
番組を見ながらの彼女の独り言はその後も続きます。
「地元で海外の人を見かけるとしたら仕事関係の人ばかりでつまんないな。観光の人とか全然見ない」
(この街に名所とかはないの?)
「うーん。何もないとは言わないけど、地元の良さって地元住人にはちょっと分からないものなんだよね」
ナリスに地元の名所を聞かれて泰葉は答えに少し詰まってしまいます。確かに観光名所に行けば観光目的の海外旅行者の姿もあるのかも知れません。
けれど地元の住民って、いつでもそこに行ける安心感もあって結構地元の名所とかって積極的に行こうって思わないものなんですよね。
きっとこれって地元名所あるあるでしょう。泰葉もこの心理に見事にハマっていました。
(身近過ぎると気付かないって言うの、よくある話よね)
「そうそう。きっとそんなものが面白いの?って言うものが珍しがられているんだと思う。どう言うものがそうなのかは分からないけど」
(でもこの街だって魅力に溢れていると思うわ。私はこの部屋の中くらいしか知らないけれど……)
ナリスのこの言葉は泰葉の心にずっと残ったのでした。
次の日、ずっとその事を考えていた彼女は休み時間も無意識につぶやきます。
「この街の魅力かぁ……」
「街の魅力?」
「そう、何があるかなって思って」
泰葉のつぶやきにゆみが反応します。彼女が話に乗って来たので泰葉はそのままその話を広げる事にしました。
「普通にそれなりのものはあるし、有りがちだけど自然とか?」
「でも自然って全国的に有名ってのはないじゃん」
「誰か有名人の出身地だったり、映画とかのロケ地だったり?」
有名人の出身地や物語の舞台となった場所、そう言うのは今では聖地と呼ばれ、結構な観光名所となります。ゆみの口から出たその言葉に泰葉は目を輝かせました。自分が知らないだけで地元にもそんな場所があるなら知りたいと思ったのです。
「そんな話知ってるの?!」
「ごめん、知らない」
興味津々の彼女の言葉の圧を受けてゆみは少し引き気味にその質問に答えます。どうやら彼女もそう言う場所を知っているのではなく、そう言う場所があったらいいな、程度の願望を口に出しただけのようでした。結局求めていた答えの得られなかった泰葉は酷く落胆します。
そんながっかりした彼女の様子を見たゆみは慌てて言葉を続けました。
「探せば魅力はそれなりにあると思うけど、今突然聞かれてもね」
「急にどうしてそんな事を思ったんスか?」
この地元の名所談義に興味深そうにルルが参加して来ました。折角なので泰葉はどうして自分がそんな事を考え始めのか、その理由を説明します。
「いや、昨日テレビで日本に来ている海外の人が出ているやつを見てね」
「ああ、最近流行りの日本はすごいんだぞ番組?」
「うーん、ジャンルで言えばそうかもだけど……」
泰葉が見ていてテレビ番組は、見ようによっては確かに日本すごい番組と言えなくもなかったのですが、彼女自身はそんな番組と思って見ていなかったので、このゆみの言葉には少し納得の行かないものがありました。
ただ、あまりその事で討論する事でもないだろうと泰葉はその違和感をぐっと胸の奥に押し込みます。
「で、その番組が何か?」
「いや、考えたら地元で海外の人って見ないなあって」
そう、彼女は観光で地元を訪れる海外旅行者の姿を見てみたい、ただそう思っただけなのでした。泰葉の住む街はそれなりに開けた街ではあったものの、観光名所的な部分ではあまり特筆するべき名所もなく、どちらかと言うと地味な街と言う印象です。
その真意を上手く説明出来ないまま話が進んでいたところで、この会話に新しい人物が参加して来ました。
「私、たまに見マスヨ」
「そりゃだってアリスはお父さんがそうだもの」
「それだけじゃないデスヨ!」
泰葉の無粋なツッコミにアリスが少し強めに反論します。いつもより主張が強いので泰葉もちょっと驚いて聞き返しました。
「え、そうなの?」
「父の会社の従業員は3割が海外の人デス」
「ああ~、だろうね~」
海外の社員のいる会社ならその社員の海外人比率が高いのもある意味当然の事でしょう。アリスの言葉を聞いた泰葉は遠い目になって、うんうんとうなずいて納得します。
その薄い反応を横目で眺めていたセリナは彼女の態度に思わず突っ込みを入れました。
「何でそこでそんな反応になってるのよ」
「仕事で地元に来ているのはたまに見かけるんだけどさ、そうじゃないんだよね~」
自分の言いたかった事と泰葉の求める答えが違うものだと知ったアリスは、思わず彼女の言葉を聞き返します。
「えッ?」
「この街が好きでそれで訪れているような海外の人。そう言う人を見かけないって事なんだよ」
「ああ、それでこの街の魅力を気にしてたのか」
泰葉の真意が分かったセリナはそう言うとひとり納得します。しばらく会話を黙って聞いていたゆみはここでまた口を開きました。
「別にこの街だって魅力に溢れていると思うよ。御飯も美味しいし、温泉もあるし、神社仏閣もお城もあるし……」
「たださ、あるにはあるけど……日本でここだけにしかない!って有名なのって……」
「う……」
最初は調子良く喋っていたものの、泰葉にツッコミを入れられてゆみは言葉に詰まってしまいました。彼女もまた地元の名所については薄い知識しかなかったようです。地元民地元の名所に薄い説は地元あるあるでも結構上位に来る有力な説ですが、このやり取りによって図らずもそれを実証された形となりました。
突っ込みついでに泰葉は更に自分の意見を補強します。
「そう言うのがあったらとっくに観光客でごった返しているはずだよね」
ここまで言われてしまったゆみは何とか自分の立場を立て直そうと泰葉にある提案を持ちかけます。
「じゃあさ、この街の魅力を探しに行こうか。それでネットとかで拡散すれば観光客が増えるかも」
「それはどうかな~」
積極的なゆみに対して泰葉はどこか諦め気味な返事を返すのでした。
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