第54話 YOUは何しに? その2
そのやり取りを見ていたセリナは根本的な疑問を口にしました。
「って言うか、泰葉は結局何がしたい訳?外国人の観光客に会いたいの?」
「会いたいかと言えば……うーん、特にそんな事もないかな。そう言う所がちょっと羨ましいと思っただけかも」
この街の魅力に何処か懐疑的なものを感じるやり取りを会話から感じたアリスは、その認識を払拭しようと自分の想いを主張します。
「私はこの街が好きデス。過ごしやすいデスシ、みんないい人デスシ」
「ありがと、アリス」
アリスの言葉に余計な気を使わせたと感じた泰葉はすぐに彼女に感謝の言葉を返しました。それから泰葉は窓の外を眺めて頬杖をつきながらつぶやきます。
「はぁーっ。こんな見慣れた景色も見る人が見たら魅力的なのかなー」
「そりゃそうだよ。観光客だっていない訳じゃないよ。前の話の続きじゃないけど、名所にはそれなりに人がいるんだから」
そのつぶやきにゆみが反応します。どうやら彼女は泰葉より地元について詳しいようでした。地元の名所の事を力説するゆみに泰葉は言葉を返します。
「そこだよね。私らって普段そんな所に行かないじゃん」
「私はたまに行くよ」
「え、そうなんだ……」
ゆみは地元の名所にたまに足を運ぶようです。この返事を聞いた泰葉は思っても見なかったその言葉に少し呆気にとられるのでした。
「泰葉って基本インドア派でしょ」
「ま、まあね……」
ゆみに自分の行動パターンを読まれた泰葉は少し引き気味に反応します。そんな彼女を見たゆみはひとつ提案を出しました。
「じゃあ次の休みの日に観光名所廻ってみようよ、地元の。この街も魅力を再発見するよ、きっと」
「うーん、そうだね」
このアイディアを聞いた泰葉はどこか他人事のような気の抜けた返事をします。この反応にゆみはツッコミを入れました。
「何でやる気がないのよ」
「休みの日は用事が……」
「どーせアニメの消化とか寝だめとかそんなんでしょ」
ゆみの言葉に図星を突かれた泰葉は動揺します。それでも悟られないようにふざけて返事を返しました。
「お、お主、心を読んだな?」
「どれだけ付き合いが長いと思ってんの?」
泰葉とゆみは幼いお頃からの腐れ縁です。なのでお互いの事は細かいところまで知り尽くしていました。彼女の提案した観光名所巡りについて、泰葉はこの話に乗るかどうかしばらく思案を巡らせます。結果、条件つきで話に乗る事にしました。
「うーん。じゃあそっちが全てプランを練ってくれるなら行ってもいいよ」
「何で上から目線なのよ……」
その物言いにゆみはまた呆れながらツッコミを入れます。泰葉はゆみの言い出したその話に対して自分の要望を口にしました。
「でもどうせならみんなで廻ろうよ」
「私は最初からそのつもりだよ」
「良いプラン、期待してるからね」
話がうまくまとまったと言う事で泰葉はにっこり笑ってそう答えます。
一方、全てを丸投げにされたゆみは積極的に動き始めました。名所巡りを少しでもいいものにしようと、まずは意見交換から始めます。
「そんな訳でみんなの意見を聞きたいと思うんだ。折角ならいいものにしたいし」
「あの……絶対参加デスカ?」
やる気満々なゆみに対し、アリスが恐る恐る質問します。
「いや、行けるメンバーだけでいいんだけどね」
「次の休みは用事があッテ」
「うん、分かった。アリスはそっちを優先して」
「すみマセン。次の機会があれば参加シマス」
こうしてゆみ主催地元名所巡りにアリスは不参加と言う事になりました。そんな訳で残りのメンバーで話を進めます。
「となると、参加者は全員地元民か。みんな行きたい所とかある?」
「そう言えば結構地元の名所って名前は知っていても滅多に行く事はなかったりするっスね」
「猫カフェ行きたいにゃ~」
ここで突然鈴香が参戦します。空気を読まない彼女は早速自分の行きたい場所をリクエストしました。
「いや、猫カフェは名所じゃないから……」
「そんにゃあ~」
自分の意見が秒速で却下されて鈴香は落胆します。あんまりがっかりしていたのでゆみは救済策を考え始めました。
「あ、そうだ!猫ならお寺だったか神社だったかにたくさんいたはずだよ!」
「じゃあそこにする~」
猫のたくさんいる場所があると知って、鈴香はすぐに復活します。これで行くべき場所のひとつは確定しました。
「猫のいる神社仏閣と、これは後でちゃんと調べるか。他には?」
「私も行った事はないけど、やっぱお城は行くべきじゃない?」
次に場所の提案をしたのはセリナでした。
しかし、その意見に周りはざわつき始めます。泰葉がすぐにツッコミを入れました。
「セリナ、まさか一回も行った事がないとか?」
「え?そうだけど。あ、プライベートでだよ!学校の遠足では行ったから!」
「それって小学校の遠足でしょ。アレくらいしかないのか、珍しいね」
泰葉はセリナの地元のお城に行っていないっぷりに逆に感心しました。地元ではお城の見学を小学生の時に遠足で体験します。なので地元の人なら確実に一度はお城に行った事がある訳です。
けれど、それっきりお城に足を運ばない地元民って言うのもほぼいません。何故ならやっぱりお城は地元の誇りですし、みんな年に一回くらいは訪れるのが普通だったからです。
珍しがる泰葉の反応を受け、セリナは当然のように気を悪くしました。
「人を天然記念物みたいに言わないでくれるかな?」
「じゃあお城とお寺と、後はどこがいい?」
2人のやり取りは普通にスルーされて、ゆみはさらなる目的にのリクエストを求めます。この質問にルルが思った事を口にします。
「古い建物ばっかじゃないっスか」
「観光名所なんてそんなもんだよ。だってここ田舎だし」
ルルのツッコミには泰葉が答えました。この言葉を受けてゆみも続きます。
「都会なら最新のプレイスポットとかあるんだろうけどね」
「ここら辺のそう言う商業施設って全国展開しているところばっかりで珍しくも何ともないもんね」
2人の田舎談義を聞いてセリナもこの話の流れに乗っかります。ここまで聞いたルルは諦めたように自分の答えを述べました。
「じゃあ後は自然っスね。山にするか川にするか……」
「今回自然は別にいいかなぁ」
この意見に対しセリナが速攻でその意見を否定します。流石生粋のインドア派。自分の意見を却下されたルルはそれでもめげる事なく、すぐに代替案を提案します。
「そうだ!この時期いい感じの景色が見られる場所があるっスよ」
ルルの言いたい事を察したゆみがその場所の名前を口にします。
「市民の森?」
「そうっス。あそこは一年中景色がいいっスよ」
「ま、定番だけどこれも入れとくか」
こうして名所巡り候補は3つ決まりました。ここでずっと話を聞いていた泰葉がポツリと感想を口にします。
「でもこれどんどん候補地入れていくと全部廻りきれなくならない?」
「じゃあこのくらいにする?」
「そうだね、数を増やして駆け足で廻るよりじっくり廻れた方がいいよ」
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