第51話 呪いの人形 その4

 ナリスの断言するように話すその言葉の圧に泰葉は少し引き気味に返事を返します。


「う、うん。よろしくね」



 次の日、学校に行った泰葉の周りに集まったリンゴ仲間達は次々にナリスについての話を話し始めます。最初に話しかけたのはゆみでした。


「それでどう?人形との生活は」


「ナリスね。全然問題ないよ」


「一応おばあちゃんに報告はした方がいいんじゃない?」


 ゆみは全く平気そうにしている泰葉にアドバイスをします。この言葉を聞いた泰葉は不安に感じたのか思わずゆみに聞き返しました。


「やっぱそうなのかな?」


「何かあってからでは遅いって」


 次に話しかけてきたのはセリナでした。彼女がナリスをあまり良く思っていない事がその口調から感じられた為、泰葉は気を悪くしました。


「ナリスは悪い子じゃないよ!」


「それはそうかも知れないけど……」


 語気の荒い反応をされて彼女が怒っていると感じたセリナは思わず声が小さくなります。そこでこの会話にアリスが割って入りました。


「あんまりそう言う事は言わない方がいいデス」


「あ、そうだね、ごめん」


 ルルにそう言われ、セリナは泰葉に謝りました。謝られた彼女は言葉だけではナリスへの誤解は払拭出来ないと一計を案じます。


「こんなに可愛いんだから!」


 泰葉は急にそう言ったかと思うと机の中からアンティークな年代物の西洋人形を取り出してみんなに見せます。この彼女の突然の行為に集まっていたリンゴ仲間達はみんな驚き、場は騒然となりました。


「えっ!」


「ちょ……」


「持って来たの?」


 泰葉がどこからも人形を持って来た気配を見せていなかった為、みんなの反応は予想通りでした。驚くリンゴ仲間の顔を見渡した彼女はみんなを納得させる為に種明かしをします。


「ナリスは空間移動が出来るの。私が来て欲しいって願えば来てくれるんだよ」


「嘘……?」


 泰葉の言葉にセリナはそう言って絶句します。彼女はこう言った不思議関係の話があまり得意ではないのです。当の泰葉はそんなセリナの反応を気にするでもなく、突然出現した人形と見つめ合いながら独り言のように言葉を続けます。


「うんうん、そうだよね。ごめん、誤解を解きたくて……」


 その彼女の言葉が誰に言っているのか分からず、セリナは困惑します。


「泰葉、何言って……」


「しっ、これがそう言う事なんだよ」


 すぐに泰葉の言動の意味を察したゆみが手を上げてセリナを止めます。泰葉は更に独り言を続けました。まるでこの人形と会話をするように。


「え?大丈夫。みんな信用出来る私の友達だよ」


 最初は混乱していたセリナも、その言葉を聞いてようやく泰葉が何をしているのか理解しました。


「泰葉、あんた……」


「ゆみにもナリスの言葉は聞こえない?」


 視線を人形からゆみに移した泰葉は彼女に質問します。質問されたゆみは首を横に振って答えます。


「私が聞こえるのは人の霊だけだからね」


 その会話の意味が分かったアリスは恐怖に顔が引きつります。


「ひッ!」


「アリス、気を確かに持つっス!」


 ルルはそんな彼女の肩を優しく抱いて落ち着くように促します。リンゴ仲間の混乱状態が落ち着かない為、この状況を収めようと泰葉は改めて自分が呼び出して今膝の上に乗せているこの人形をみんなに紹介します。


「改めて紹介するね。人形のナリス、私の新しい友達だよ。ちなみに名付けたのは私」


 泰葉からまるで人間の友達のようにナリスを紹介されたリンゴ仲間達はそれぞれ困惑しながらもナリスに挨拶を返しました。


「よ、よろしく……」

「よろしく……ね」

「よろしくっス」

「よ、よろしく……デス」


 全員からの挨拶が終わったところで泰葉は改めてナリスにリンゴ仲間を紹介し直します。


「えっと、そっちからセリナにゆみにルルにアリス……昨日言った通りみんな私の友達だよ。……うん、そう言ってもらえると嬉しいな」


 ナリスの言葉は泰葉にしか聞こえない為、彼女がなんと言ったのか疑問に思ったセリナが泰葉に質問します。


「あの……、ナリスはなんて……?」


「そっか、やっぱりみんなには聞こえないんだ?みんないい人達そうだねって……」


「そ、それは良かった」


 泰葉の返事にセリナはそう言ってぎこちなく笑う事しか出来ませんでした。


「さあ、お披露目も終わったし、また部屋に帰ってね」


 泰葉がそう言ってナリスを机の中に押し込むと、もうその古い人形は彼女の部屋に戻ったようでした。この状況にしんと場が静まる中、恐る恐るルルが泰葉に声をかけます。


「か、帰ったっスか?」


「うん、もうここにはいないよ?」


 彼女の質問に泰葉は明るい声で笑いながらきっぱりと答えました。異様な雰囲気に飲まれ、それから誰も次の言葉が出ない中、場違いな明るい声が突然背後から聞こえて来ます。


「みんなぁ~。おはよぉ~」


 突然の鈴香の登場にみんなびっくりしました。その中でも腐れ縁のゆみが彼女に声をかけます。


「わっ、驚いた。何だ鈴香か」


「どうしたのぉ~?」


 何だか場がおかしな雰囲気になっている事に流石の鈴香も疑問を抱きます。うまく説明の出来ないゆみは誤魔化すように返事を返します。


「いや、ちょっとね」


「変なのぉ~?」


 その彼女の言葉に鈴香がいまいち納得出来ないでいると、泰葉が鈴香に声をかけます。


「鈴香、貴女にも後で紹介してあげるね」


「え?うん、分かったぁ~」


 鈴香は頭にはてなマークを浮かべながら泰葉に返事を返すのでした。


 この異様な雰囲気にリンゴ仲間達は泰葉から少し距離を置きます。そう言う訳で、ゆみを中心とした泰葉対策チームが急遽結成され、彼女を元に戻す為の話し合いが始まりました。手始めにゆみがセリナに声をかけます。


「ねぇ、泰葉をどう思う?」


「いやぁ、ちょっと危険かも」


 セリナの発言にゆみもうなずきます。みんなここまでは同じ認識でした。ここでまた会話が途切れ、それから今度はセリナがゆみに質問します。


「で、どうするの?」


「どうするって、そんな呪いを解く方法なんて……」


 セリナに問い詰められたゆみは言葉に詰まります。自身の能力が霊感系なので詳しいと思われているようですが、彼女は呪いに関しては全く知識がありません。

 メンバーの誰からも何ひとつ役に立ちそうな話が出ない中、焦ったルルが声を上げます。


「このままじゃ泰葉っちがやばい事になっちゃうっス!」


「そんな……それはダメデス!」


 このルルの言葉にアリスが感情を露わにして続けます。このまま何の策も出せないまま泰葉がおかしくなっていくのを止められないのかとみんなが絶望しかけたその時、この問題の解決方法を考え続けていたゆみが唐突にあるひとつの方法を思いつきます。


「あ!手がない訳じゃなかった、泰葉のおばあちゃん!」


「うん、それしかないね」


 そうです、元々の人形の所有者だったならば、この問題の解決方法を何か知っているかも知れません。彼女のアイディアにセリナも同意します。それで言い出しっぺのゆみがこの作戦の実行を担当する事になりました。

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