第50話 呪いの人形 その3
「でね、今その人形が部屋にあるんだ」
学校に着いた彼女は早速リンゴ仲間達にナリスの事を伝えます。この話を聞いて心配しないリンゴ仲間はいませんでした。最初に口を開いたのは心配そうな顔をしたセリナです。
「大丈夫なの?」
「呪い、の人形なんデスヨネ……?」
セリナとアリスのこの質問に泰葉は笑いながら答えます。
「でもおばあちゃんの話だからねー」
「泰葉のおばあちゃんって占い師なんだっけ?」
次に質問を飛ばして来たのはゆみでした。彼女も当然のように不安そうな表情です。泰葉はそんな彼女達の不安に対し、まるで何も問題ないと言わんばかりに明るく笑いながら質問に答えます。
「うん、今は。あれ?引退したんだっけかな?それと昔から色々してたみたい」
「おばあちゃんにその人形の呪いについては聞かなかったっスか?」
次に口を開いたのはルルでした。この質問にも泰葉はあっけらかんと答えます。
「えっと、持ち主を不幸にするんだって」
「やっぱやばいやつじゃん!」
不幸の人形と聞いてすぐさま反応したのはゆみでした。そんな反応した彼女の方に泰葉は顔を向けると何かを閃いたように声を上げます。
「あ、そうだ!」
「何?私はやらないよ」
すぐにその言葉の先を察したゆみは牽制するように言葉を続けました。先手を打たれた形になった泰葉は口を尖らせます。
「ブー。まだ何も言ってないのに」
「浄霊してとか言うんでしょ?私にそんな力ないから」
ゆみは不服そうな顔をしながら腰に両手を添えてそう言います。この言葉を聞いた泰葉は焦ったように手を振りながら口を開きます。
「違う違う、彼女の無実を証明して欲しかったんだよ」
「無実?」
彼女の言葉から出た無実と言う言葉に対してゆみは思わす聞き返しました。そこでちゃんと言いたい事が伝わっていないと感じた泰葉は、改めてさっきの言葉の意味を詳しく説明します。
「ナリスはそんな悪い子じゃないと思うんだよね。だから……」
「って言うか、泰葉声聞けるんだから私いらないじゃん」
「そ、それもそうだけど……」
説明の途中でゆみからの鋭いツッコミが入り泰葉は言葉をつまらせます。その様子を横目で見ていたセリナが彼女に更に鋭い指摘をします。
「泰葉が聞けるって事はさ、実はその人形に宿っているのは動物霊って事じゃないの?犬とか猫とか……」
「私、今まで生きた動物としか話した事ないんだけど?」
セリナのこのツッコミに泰葉は今までの経験から得た事実を冷静に口にしました。これらのやり取りを黙っていたルルはポツリとつぶやくように口を開きます。
「まぁ、泰葉っちが不幸にならなければそれでいいっスけど……」
「私は大丈夫だよ」
一連の会話を通じてリンゴ仲間達が心配している事が十分伝わった為、彼女はみんなを安心させようと自分は平気アピールをします。
けれど、仲間達の間に芽生えたその不安感は泰葉の言葉と態度だけではどうしても拭えはしないのでした。
「ただいまー」
(お帰りなさい、泰葉)
帰宅後、泰葉が自分の部屋に入ると、待ち構えていたようにナリスが彼女に声をかけました。彼女はベッドの脇にちょこんと可愛く座っているナリスに向かって質問をします。
「ねぇ、聞いていい?」
(何?)
「あなたは人を不幸にするの?」
泰葉は学校でのリンゴ仲間達の反応に少し影響を受けていました。彼女自身はナリスをそんな風には思っていなかったのですが、ナリス自身はその事についてどう感じているのか知りたくなったのです。
この質問を聞いたナリスは人形らしく無表情のまま答えます。
(いいえ?私は人を不幸にする力も、逆に幸福にする力もないわ)
「だよね。私もそう思う」
ナリスの答えに泰葉もうんうんとうなずき、同意します。
(千代子が貴女にそう言ったのは知ってる。私もそれが理由であんな所に閉じ込められたって自覚はある……)
「あっ……」
その後に続けたナリスの言葉に泰葉は自分が彼女の思い出したくない過去を思い出させてしまったのではないかと少し後悔します。
(でもそれは私のせいじゃないの。例え私と交流してそうなったのだとしても、それは私が何かした訳じゃない。それだけは信じて……)
「うん、それは分かるよ。ナリスから悪い雰囲気は感じないもの。だから信じるよ」
(有難う、泰葉)
ナリスを理解しようとする泰葉は彼女の言葉を理解しようと努めます。その気持ちをナリスもしっかりと受け止めるのでした。
それから少しの間会話は途切れ、沈黙が泰葉の部屋を包みます。何か話さなくちゃと思った彼女はそこでひとつ思いついた疑問をナリスに伝えます。
「ところで、そもそもナリスはどうして意思を持っているの?」
(それは……私にも分からない。気がついた時にはもう私は私だったから)
泰葉の疑問に明確に答える術をナリスは持っていないようです。本人が知らないのだからこの話題はもう広げようがありません。仕方なく彼女は別の話題をナリスに振ります。
「じゃあ突然私の前に現れたのはどうして?私はあなたを抱いてみたりはしたけど元の場所に戻したのに」
(私は触れた人のもとに飛べるの。理由は分からないけど)
「やっぱり普通の人形じゃないんだ」
これで泰葉の疑問はひとつ解消しました。やはりナリスは特殊な人形のようです。自分の秘密をひとつ話したところで彼女自身も不安になったのでしょう。今度はナリスの方から泰葉に話しかけます。
(私の事、嫌いになっちゃった?)
「ううん、全然。むしろすごいって思ったよ」
(ふふ、私もそうだけど貴女も相当な変わり者ね)
「よく言われる」
会話を重ねて理解し合えた2人はここで笑い合います。和やかな笑い声はしばらく続きました。
「ねぇ、もうひとつ聞いていい?」
(何?)
「あなたはいつ誰に作られたの?作られてすぐに意識があったの?」
(私の作り主……多分最初の私は多くの他の人形と同じだったんだと思う。その頃の私に意識はなかった。もしかしたら……私は最初からこの人形に宿っていた訳じゃないのかも知れない……)
泰葉の素朴な疑問はナリスを悩ませてしまいます。答えあぐねる彼女の様子を見た泰葉は質問がまずかったと思いすぐに謝りました。
「そう……なんだ。ごめんね、色々聞いちゃって」
(いいの。会話が出来るだけで幸せだから。泰葉は優しいのね)
自分を気遣う泰葉を見たナリスは彼女の優しさを感じます。この言葉を聞いた泰葉は心がむず痒くなって照れ笑いをしました。
「えへへ。……あ、そうだ。人と会話するのは私が初めてなの?」
(それは違うわ。話せるようになってからは、私の持ち主となった人とは全て私と話が出来たの)
「おばあちゃんとも?」
持ち主になった人全てと言う言葉に真っ先に泰葉が思いついたのは彼女のおばあちゃんでした。ナリスはこの質問に即答はしませんでしたが、一呼吸置いてそれから喋り始めます。
(……千代子は私の声を聞かなかったわ。きっと敢えてそうしたのね)
「そ、そうなんだ」
(泰葉は私の声が聞けたから、今の私は貴女のものなの)
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