第43話 海へ その3

 みんなが何のトラブルもなく無事に集まれたのは久しぶりにリンゴ仲間が全員揃うのと、何より海と言う言葉の魅力が大きかったからなのかも知れません。


 アリスの家に辿り着くと彼女のお母さんが笑顔で出迎えてくれました。


「初めまして皆さん。いつもアリスがお世話になっています」


 流石親子だけあってその笑顔はアリスによく似ています。みんなは彼女にペコリを会釈をして借りてきた猫のように大人しくしていました。するとアリスのお母さんは玄関前に止めてあったワゴンのドアをスライドさせてみんなに乗るように勧めます。


「さ、どうぞ乗ってください」


「うわ~ワクワクするね~」


 全員が乗ったのを確認して車は動き始めました。どうやらアリスのお母さんが運転してみんなを海に連れて行ってくれるようです。

 車窓からの流れる景色を眺めながら、やっと気分が落ち着いて来たみんなはそれぞれに口を開き始めました。夏休みに入って今までどうしていたのかとか、これから行く海の事とか、変幻自在に変わっていく流れの中で話題が水着の話になり、早速泰葉がセリナに話を振ります。


「スク水持って来た?」


「だまらっしゃい!……去年のを持って来たよ」


「予算が間に合わなかったんだ、どんまい」


 セリナの返事を聞いた泰葉は同情するように言葉を返します。

 出発の時間が良かったのか車は特に渋滞にハマる事もなく順調に目的地の海へと走っていきます。窓側の席に座ったルルは車が走り出してからずっと窓から外の景色を眺めていました。


「いいっスね~車窓からの景色って大好きなんスよ」


「ぷしゅ~」


「鈴香……」


 車に乗ると眠気が襲うと言いますが、その効果が特に顕著だったのが鈴香でした。一度まぶたが落ち始めた彼女は結局海に着くまでずっと眠リ続けます。

 きっとこの時間は普段も眠っている時間だったのでしょう。みんなもうそう言うのに慣れっこだったので今更それで文句を言う人は誰もいませんでした。


 2時間ほど車は走り続け、やがて目的地の海に辿り着きます。駐車場は満杯に近かったですが、何とか空きを見つけその場所に駐車します。ドアを開けて外に出たルルは手足をピンと伸ばして灼熱の空に向けて大声で叫びます。


「海、キター!」


「うーん、いい風~」


 穏やかに吹く潮風を受けて、泰葉は海の雰囲気を胸いっぱいに吸い込みます。それから一行は海の家へと向かいました。まだ時間的に早い事もあって更衣室もそこまで混んではいません。荷物の中から水着を取り出しながら泰葉はみんなに話しかけます。


「みんなどんな水着持ってきたの?」


 みんなが着替え始める中でそれぞれが持ってきた水着が気にかかった泰葉は、着替えながら周りをキョロキョロと見回します。


「お、良いね、おニューだ」


 着替え終わったゆみの水着を見て泰葉は声をかけました。ビキニタイプの水着は彼女の健康的な身体をより魅力的に見せています。


「に、似合ってる?」


「いいよ、いい感じ」


 泰葉がゆみの水着を褒めていると今度はルルの姿が目に入ります。その姿を見たゆみが彼女の水着の感想を述べました。


「やっぱルルはスタイル良いね、背も高いし」


「さ、サンキューっス!」


 ルルは仲間の中で一番背も高いし一番スタイルが良いのでみんなつい目で追ってしまいます。その水着はスポーツ少女らしく、ビキニタイプながらシンプルなデザインでそれがまた清潔感を演出していていい感じなのです。


 その隣ではアリスも着替え終わっていました。彼女の水着もビキニタイプでフリルが可愛らしいアイドルっぽい可愛さが強調された水着です。

 この水着を見たセリナが彼女の水着を見て感想を口にします。


「アリス、アイドルみたい」


「あ、ありがとうございマス!」


 セリナに褒められたアリスは顔を赤らめながら感謝の言葉を述べました。


「おおっ、鈴香、色っぽ~い」


「えへへ~」


 鈴香は結構大胆目なビキニの水着を着用していました。同級生なのにこの色気の差は何?って言うくらいアダルトな感じです。泰葉はそんな彼女の水着姿を見て自分との差を感じるのでした。


 そんなこんなで泰葉も鈴香もセリナも水着に着替え終わり、すっかり準備は整います。ちなみに2人の水着は地味目のワンピースタイプです。たいけ……性格が現れていますね。


「じゃ、海行こっか!」


 泰葉の掛け声と共にみんな一斉に海へと繰り出します。その後姿を見守りながらアリスのお母さんが優しく声をかけるのでした。


「みんなナンパに気をつけるんだよ!」


「ぷしゅ~」


「ああっ!鈴香っ!」


 みんなが海に出て数分後、早速鈴香の充電が切れました。いきなりの夏の熱気にやられてしまったのでしょうか。倒れかけた彼女をゆみが必死に支えます。


「暑さでダウンしたかぁ~。私、日陰に連れてくね」


「悪いね、お願い」


 充電の切れた鈴香をゆみに任せて泰葉達は準備運動を済ませて早速海へと向かいます。

 任されたゆみはと言えば鈴香に肩を貸しながら海の家まで向かいました。そこでくつろいでいるアリスのお母さんに彼女を見てもらうようにお願いします。


「おばさん、鈴香がダウンしたんで、見ていてくれますか」


「いいわよ。彼女は私に任せて遊んで来て」


「有難うございます」


 その頃、海に足を踏み入れたルルは思いっきりはしゃいでいました。


「ひゃっほうー!」


「ルル、やっぱり思いっきり体を動かしたいのかも」


 そんなはしゃぐ彼女を見て泰葉はポツリと呟きます。自分のせいで彼女を運動部から退部させてしまった事をまだ気に病んでいたのです。

 鈴香を預けた後、急いで海に入って来たゆみはそんな泰葉の言葉を聞いてフォローするように言葉をかけました。


「書道部も十分体育会系だとは思うけどね」


「みんなも泳ぐっスよ~!」


 海を満喫して泳ぎ始めたルルが共に海に浸かっている泰葉とゆみに声をかけます。このお誘いを受けてゆみが泰葉に声をかけます。


「行こっか」


 そうして2人は泳いでいるルルに追いつくように泳ぎ始めました。


「ねぇ泰葉」


「ん?」


「魚とも話が出来たりとかする?」


 海と言えば魚と言う事で、ゆみは泰葉の能力が魚にも通じるのか興味を持ったようです。

 しかし泰葉も試した事がなかったので上手く答える事が出来ません。


「ん~、試した事ないから分かんない」


 彼女のこの答えを聞いたゆみはニヤリと笑って泰葉に提案します。


「じゃあ今から試してみない?」


「ちょ、浅瀬に魚はいないんだけど?沖にでも出るつもり?」


「バナナボートとかそんなのを海の家で借りてさ……」


 ゆみは折角海に来たのだからと泰葉の能力を試したくて仕方がないようでした。そんな興奮気味の彼女に対して当の泰葉はあまり乗り気ではありません。

 それに魚がいるような沖に出るのを彼女は嫌がりました。泰葉は泳げない訳ではありませんが、プールと違って海では何が起こるか分かりません。折角連れて来て貰った手前、危険な事をしてアリスの家族に迷惑はかけたくないと言うのが彼女の本音なのでした。


「あんまり沖には出たくないな」


「え~、それつまんない」


 ゆみがちょっとしつこいので泰葉は一計を案じ、彼女自身について能力的にしんどいんじゃないかと声をかけます。


「って言うか、ゆみこそこう言う海ってきついんじゃない?」

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