彼女達の日常 再び
海へ
第41話 海へ その1
月日は流れて7月下旬になりました。泰葉達の通う高校ももう少しで夏休みに突入します。そう言う訳でみんなもうすぐ来る夏休みを前にしてかなり浮足立っていました。そんな浮かれた気分は泰葉達リンゴ仲間もまた同じです。連日夏の暑さでバテ気味ではあるものの、そこは持ち前の若さで休み時間ともなればみんな集まって楽しい雑談を繰り広げていました。
泰葉が椅子に座ったまま背伸びをしているとゆみが話しかけてきます。
「いやーもうすっかり夏だねー」
「おっとっと、夏だぜ」
「は?」
彼女のネタフリに泰葉は以前ネットで読んだネタを披露したものの、元ネタを知らなかったゆみはぽかんとしてしまいます。昔流行った歌のサビだと言う事を説明したところで結局理解してくれないかも知れないと思った泰葉はしれっと話題を変える事にします。
「えっと、夏と言えば……」
「山!」
泰葉の言葉に隣りにいたセリナが速攻で答えます。この突然の言葉の乱入に泰葉は思わずセリナのいる方に顔を向けて言葉をこぼします。
「え……?」
「だって、新しい水着買ってないもん。それに紫外線が……」
セリナは泰葉の質問に山と答えた理由を説明します。この言葉を聞いた泰葉は早速ツッコミを入れました。
「紫外線は山も一緒でしょ」
「泳いだら日焼け止め流れちゃうでしょ」
「あー」
泰葉の突っ込みにも負けずにセリナは言い返します。その言葉に納得した彼女は思わず相槌を打ちます。そんなこんなで3人で話を続けていると他のリンゴ仲間も次々と泰葉の周りに集まって来ました。
「海、いいデスネ」
「海に行く予定があるっスか?」
「う~み~」
「おおっ、何だ何だ?」
急に大所帯になってゆみが大袈裟に驚きます。どうやら全員海に興味がある御様子。ゆみの言葉を受けてアリスが返事を返します。
「皆サン、海に興味津々みたいデスネ~」
「泰葉が言い出したんだから、海についていい話があるんでしょ?」
思わぬ海の話の盛り上がりに、ゆみは夏の話題の言い出しっぺの泰葉に質問を飛ばします。この質問を受けた泰葉はこの思わぬ展開につい口ごもってしまうのでした。
「や、特にそう言う話じゃ……」
「なーんだ、つまんない」
予想通りとは言え、当たり前の話の展開にゆみはつい本音をぶちまけます。これでまた話題がリセットされるかと思った次の瞬間、思わぬところからこの話題を引き継いだ話が出て来ました。
「じゃ、じゃア、私が皆さんを招待したら来てくれマスカ?」
そう、それはアリスです。彼女はみんなを海に招待してくれると、そう言ったのです。この言葉を耳にしたリンゴ仲間達は全員動揺を始めます。
「アリス?」
「マジで?」
「景気のいい話じゃない」
「嬉しぃ~」
「招待されたなら行くに決まってるっス!」
当然のように全員がアリスの言葉に賛同します。突然仲間全員から注目された彼女はその圧に思わずたじろいでしまいました。
「あの……、今思いついただけデ、上手くいくかはまだ分かりませんケド……」
「そっか、無理しなくていいよ。泳ぎたくなったらプールにでも行くからさ」
アリスのその態度を見て事情を察した泰葉は彼女を気遣うように口を開きます。泰葉に続いてセリナもすぐにフォローするように言葉を続けました。
「ほんとほんと、大体、海に行くとなったらまず水着の調達からだから……今月あんま余裕ないんだよね」
「セリナはもうスク水でいいじゃん。需要あるよ」
セリナの水着についてゆみが普通にツッコミを入れます。その言葉に気を悪くした彼女は語気荒く反論しました。
「や、スク水って……そっちの需要はノーサンキューだから」
しかしその言葉を受けてなお、ゆみは悪びれもせずに更に言葉を続けます。
「セリナ、インドア派だし趣味的に近いじゃん」
「私を何だと思ってるのよ」
ゆみの言葉から自分が誤解されていると感じたセリナはそう言いながら顔を背けるのでした。あんまり彼女の機嫌を損ねるのも良くないと感じたゆみは改めて自分の素直な考えを彼女に伝えます。
「って言うかさ、水着なんて去年のでいいんじゃ……」
「私に妥協しろと?」
ゆみのその考えはセリナに冷徹に否定されます。その冷たくて強い口調にゆみは恐ろしいものを感じ、思わず同意せずにはいられないのでした。
「い、いや……そうだね、水着、大事だもんね」
形勢逆転したと感じたセリナは次にゆみに対して反撃を開始します。
「そういや、ゆみってダイエットするって言ってなかったっけ?」
「ダイエット?まぁ現状維持が出来ていればいいかなーって」
以前自分が口にしていた言葉をそっくり返されて、ゆみは精神に大きなダメージを受けました。ただ、それを表には出すまいと彼女は平静を装いながら軽口を叩きます。この言葉にセリナはポツリと一言こぼしました。
「妥協だね」
「うん、妥協」
セリナの言葉に泰葉も同調します。2人の言葉のナイフを胸に受けたゆみは大声を上げました。
「妥協言うな!」
そんなこんなで楽しいやり取りは休み時間が終わるまで続き、また時間は過ぎていきます。やがてアリスの言葉もみんな忘れかけた頃、1学期の終業式の当日がやって来ました。
全校集会が終わり教室に戻って来たみんなは明日からの夏休みを前にテンションMAXです。泰葉は抑えられないその気持ちを歌に託して大声で口ずさみます。
「あ~夏休みぃ~♪」
「あ、それ知ってる。昔の歌だよね」
「私もサビしか知らないんだけどね」
その歌を聞いたセリナがすぐに反応しました。ゆみと違ってちゃんと元ネタを分かってくれて泰葉はにっこり笑顔になります。それから話は自然に明日からの夏休みの話題に変わります。泰葉は集まったみんなに話しかけました。
「夏休みどうする?」
「だから、山でしょ」
「山はこの間登ったじゃん」
セリナが相変わらず山を強硬に主張するので泰葉は溜息をつきながらその言葉にツッコミを入れます。不服そうな彼女を見て今度はセリナの隣りにいたゆみが次の案を口にします。
「じゃあクーラー効いた部屋でゲームとか?」
「それもいいけどねぇ~」
夏休みに涼しい部屋でゲーム。それは有りがちな夏の過ごし方の定番です。ただ、余りに普通なので泰葉は少し物足りなさを感じるのでした。
この案にもいい顔をしない彼女にゆみは、それならばと休日の過ごし方の定番を提案します。
「それじゃ、街で買い物とか……」
「うーん、何かいいイベントはないものか……」
ゆみの提案する数々のアイディアに今ひとつピンとこなかった泰葉は、ついその事に対して不満を漏らしました。そこで横で話を聞いていたセリナが何を思いついたように口を挟みます。
「バイトしないの?バイト」
確かにバイトと言うのもまた女子高生の夏休みの定番の過ごし方のひとつではありました。
けれどこの言葉にも泰葉は難色を示します。
「あ~、でも今からじゃいいバイト先見つからないでしょ」
この彼女の言葉は正論でもあり、セリナは思わず希望を込めた言葉で返事を返します。
「探せば何かいいのあるって。私達女子高生だよ!引く手あまただよ!売り手市場だよ!」
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