第39話 衝突!それぞれのリンゴ仲間達 その4

 林檎に言われていちごもその方向に顔を向けます。そこには確かに自分達と同世代の女の子の団体が店に入って来るのが見えました。


「本当だ、でもそれがどうかしたの?」


「何か引っかかるんだよ。ちょっと聞いてみる」


「え、ちょ、林檎!」


 いちごが止めるのも聞かずに林檎はその団体に話を聞きに向かいました。よっぽど彼女には自信があったのでしょう。

 一方、ちょうど店に入ってきた泰葉達もまたその会話が耳に入り何か引っかかるものを感じたのでした。


「え?リンゴ?」


「あの、すみません……」


「はい?」


 お店に入った途端に突然知らない女子に話しかけられて泰葉は戸惑います。話しかけた方の林檎はそんな彼女にお構いなしにグイグイと話を進めます。


「この街で特別な力を持った女の子達がいるって話を聞いたんですけど、何か知りませんか?」


「あの、それを知ってどうするんですか?」


 彼女が探しているのが自分達の事だと直感した泰葉はどうしてそんな事をしているのか逆に尋ねました。この質問に林檎は何ひとつ隠す事なく素直にそう行動した理由を泰葉に話します。


「その子達、どうやら私達を探していたみたいなんですよ」


 そんな林檎の行動を見つけたわさびは彼女の行為に気分を悪くしました。


「あ、聞き込みは昼で終わりって言ったのに!」


「ちょっと待って、何か面白い事が起きそうだから」


 林檎を止めようとするわさびをレモンは面白そうだと言って止めます。普段なら行動を止められて憤慨する彼女も他ならぬレモンがそう言うのだからと少し様子を見る事にしました。

 この騒動を受けて何か気付いたセリナは泰葉に声をかけます。


「泰葉、もしかして……」


 この言葉を聞いた泰葉は無言で頷いて、改めて話しかけて来た林檎に声をかけます。


「あの……あなたはもしかして……」


 泰葉のこの言葉を聞いた林檎は今日この街に来た理由を述べました。


「私達はその話を聞いて今日は全員でこの街でその子達を探し回っていたんです。どうしても言いたい事があったんで」


「ご、ごめんなさい。私達、噂が流れて来たんで真相を知りたくなっただけなんです!」


 その口調から相手が怒っている事を感じた泰葉はすぐに林檎に謝罪しました。この言葉が聞けた林檎は今日の目的が果たせた事で、落ち着いてそこからは表情も口調も穏やかに話し始めます。


「……やっぱりそうなんだ。じゃあ聞かせて、どうして私達の事が気になったの?」


「そ、それは……」


 まさか自分達も似たようなものだからとは中々言い出せずに泰葉は口ごもってしまいます。話が途切れたところでその会話にみかんが参戦しました。


「隠し事をしても私には無駄よ。心が読めるから」


「……っ!」


 この突然の伏兵の登場に泰葉は戦慄します。向こうの能力者の中に本当にそう言う能力者がいると知って隠し事は出来ないと悟ったのです。

 林檎はみかんの方に顔を向けてすぐに話を聞きました。


「で、どう?」


「ビンゴ。この子達がこの街の能力者達。リンゴの力で目覚めてる」


「やっぱり」


 みかんの言葉を聞いて林檎はうなずきます。泰葉の隣でそのやり取りを聞いていたセリナがここで急に声を上げました。


「やっぱりはこっちのセリフだよ」


「ちょ、セリナ」


「こんな所で会えるなんて、偶然てあるもんだね」


 少し喧嘩腰になりながらセリナは林檎達に挑発的に声をかけました。場の雰囲気が悪くなって来たのを感じたアリスをそれを収めようと声をかけます。


「お、落ち着いてクダサイ。皆さん、ドウカ……」


「私も別に……変に嗅ぎ回られたのがちょっと気持ち悪いって思っただけだから」


 アリスの困った様子を見た林檎は自分達の取った行動の理由をこぼします。彼女達の気持ちを知った泰葉は改めて彼女達に謝罪するのでした。


「ごめんなさい。私達が皆さんの気持ちも考えずに勝手に……」


「ねぇ、今から勝負しない?お互いをよく知るために」


 このままでは埒が明かないと感じたレモンは、泰葉達の前にやって来てひとつの提案をします。この言葉を聞いた泰葉は戸惑いました。

 もしこれが能力者同士の勝負と言う事であれば、戦闘系の能力をほぼ持たない自分達に勝機はありません。それで何とかそうなる事態を避けようと口を開きます。


「勝負?でも私達……」


「何も能力で勝負しようって言うんじゃなくてさ。ここはお互いフェアに」


 未来を知っているレモンが無駄な事をするはずがありません。能力勝負では自分達が有利過ぎる事を彼女は当然のように知っていたのです。

 それに見えているビジョンでそう言う勝負をしていない以上、レモンはその見えているビジョンに従う選択肢を取るのは当然の流れでした。


「フェアって……何を……?」


 能力を使わない勝負と聞いた泰葉はそれがどんな勝負を意味するのか見当もつかず、思わずレモンに尋ねます。そこで彼女は得意げにそれが出来る方法を泰葉に提案するのでした。


「確かこのショッピングモールの近くに総合アミューズメントセンターがあったよね。ボーリングとか出来るやつ。お互い能力の使用はなしで、純粋に楽しまない?」


「そう言うのなら!」


 こうして2組のリンゴ能力仲間達は意気投合し、ボーリングや各種ゲーム、カラオケなどが楽しめる総合アミューズメントセンターに向かいます。そこはこの街でもつい最近出来た人気のプレイスポットでもありました。

 そこに向かう道中でお互いに会話をしながら交流を深めます。


「へ~、泰葉さんって言うんだ」


「フルーティーズって言う名前いいですね、こっちは何も統一感ないですし……って言うかグループの名前すらないです」


 歩きながら泰葉と林檎がお互いの情報を交換しあいます。出会ったばかりでお互い敬語なのですが、きっとこのゲーム対決を通じて仲良くなれる事でしょう。

 その話の流れでみんなスマホを取り出してアドレス交換をする流れになりました。言い出しっぺはセリナです。


「みんな、連絡先交換しない?」


「いいね、しよう」


 彼女の言葉に同意したのがみかんでした。そうしてみんなお互いの情報を共有しました。この状況にアリスが感動の声を漏らします。


「さっきまで何も知らなかった二組の団体が、偶然にも出会い、交流を深めてイク……素晴らしいデス」


「ま、僕には全てお見通しだったんだけどね」


 みんなが興奮しながら会話をする中、レモンはただひとりまるで他人事のような反応をするのでした。やがて目の前に目的の建物が見えて来ます。

 総勢11人の団体は吸い込まれるように建物に入って行きました。


「俺、ボーリング負けないから」


「お手柔らかに頼みますう~」


 ボーリング対決を前にわさびが強がりを言うと鈴香が気の抜けた声で返事をします。


「あの、よろしくお願いします」


「え、あ、こちらこそ……」


 セリナが挨拶をするといちごが少し控えめに答えます。


「私、ボウリング初めてなんだけど……」


「奇遇だね、実は僕もなんだ」


 ゆみがボーリング初体験な事をカミングアウトしたところ、レモンが同調するように答えました。

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