第38話 衝突!それぞれのリンゴ仲間達 その3

 ゲージの中にいるまだ幼いハリネズミはショップを訪れている多くのお客さん達に見つめられながらスヤスヤと眠っていました。

 泰葉とアリスがハリネズミに見とれている中、鈴香が別の動物を見てみんなに呼びかけます。


「こっちにはフェレットもいるよ~」


「子犬や子猫もいいけど、みんな可愛いね」


 ペットと言えば犬と猫がその代表格ですが、ペットショップにはその他にも多種多様な動物が売られていました。魚や昆虫、哺乳類に鳥達、みんなお店でまだ見ぬ飼い主さんを待っています。泰葉は動物の声が聞えるのもあってその全てを愛しく思うのでした。


「みんないい飼い主さんと出会えるといいですヨネ」


「本当だよ」


 場面は変わって場所はショッピングモール内の大型書店。レモンが雑誌を読んでいると、そこに他のフルーティーズのメンバーが集って来ていました。


「どうしたんだい、みんな集まって来ちゃって」


 このレモンの問いかけに林檎が少し申し訳なさそうに答えます。


「うん、色々廻ったんだけど……」


「やっぱ一番暇潰しになるのは書店って事だね」


 中々最後まで言い切れない彼女の言葉にレモンはニッコリ笑って答えました。林檎はレモンが書店でどう過ごしていたのか気になって声をかけます。


「レモンは何か読んでいたの?」


「ああ、この棚の雑誌を一通りざっとね」


 この質問に彼女は書店の雑誌の棚一列を指して少し自慢げに言いました。そこは趣味の雑誌の並んでいる棚でファッションからアイドル、映画情報にゲーム、PC関連など、とても濃い雑誌の並んでいる棚です。並んでいる本の濃さに林檎は絶句しました。


「うわあ……」


「何?視線が痛いなあ」


 この彼女の視線をレモンは軽口でかわします。その頃、書店に来てすぐに漫画の単行本をチェックしていたいちごは、そこに並んでいる単行本を見て思わず一言こぼしました。


「あ、あの漫画の新刊、もう出てたんだ。買おっかな……」


 みかんもまた書店内をぐるぐると見て回っていたのですが、そこで集中して本を立ち読みしているわさびを発見します。それはラノベのコーナーでした。

 この事について彼女は隣りにいた桃に話しかけます。


「いつもはうるさいあの子もここじゃ静かだね」


「意外な一面を見ちゃった感じだよ」


 普段なら自分の噂には地獄耳のようにどんな小声でも反応するわさびが、本を読んでいる間は全く何も反応しません。よっぽど集中しているんだと感心した2人は彼女に声をかけるでもなく、その場をそっと離れていきました。

 書店内でのフルーティズの滞在はそれから20分程続きます。


 しかし書店に余り耐性のないメンバーもいる訳で、やがて別の場所に移動しようと言う気運が高まってきます。代表として林檎がこの先の事を考え始めました。


「でもいつまでもここにいるのもね……」


 この言葉に、集中して立ち読んでいるわさび以外のメンバーが全員集まって考えを巡らします。みんなが集まったところで改めて林檎が口を開きました。


「どこ行こっか、次」


「みんながそこそこ楽しめて、買い物も出来たりすると場所と言えば……」


 林檎の言葉にみかんはそう言って考えを巡らします。やがてある程度立ち読んで購入する本を決めたわさびが、会計を済ませてメンバーに合流しました。

 その後で全員で希望を出し合って次に行く場所を決めました。どうやらバラバラだった全員の希望に沿う場所があったようです。


 場面は変わって、泰葉達のグループもみんなが見てみたかった大体のお店を周りきったところです。次にどこに行こうと言う話になり、泰葉がみんなに話しかけます。


「ふ~。色々廻ったし、次はどこに行こうか~」


「ここはひとつ、100円ショップに行かないかい」


「賛成~!」


 泰葉の問いかけにゆみが反応します。その提案に鈴香がすぐに賛同しました。この100円ショップと言う言葉を聞いたアリスが疑問を投げかけます。


「あの、100円ショップっテ……」


「え?向こうにはなかったの?全商品100円で売っているお店」


 この質問には泰葉が答えます。お店の説明を聞いたアリスはなぜ自分が疑問に思ったのかその理由を口にしました。


「いえ、そう言う感じのお店、あるにはあるんデスガ、雰囲気の悪い場所でシタ。こんなきれいなショッピングモールにも出店しているナンテ……」


 アリスの話によれば、向こうの100円ショップはあまり綺麗な場所には出店してはいないとの事でした。泰葉はそう言う違いに文化の差を感じ、感心しながらその事について思った事を答えます。


「へええ、日本と海外とじゃ違うんだね。日本の100円ショップはおっしゃれ~な感じだよ」


「案ずるより産むが易し、行こっ!」


 セリナは戸惑っているアリス背中を押して強引に彼女をこのモールの100円ショップの前まで連れていきます。泰葉達も後について行きました。

 やがて店頭にまで辿り着くと、少々大袈裟気味にセリナはアリスに日本の100円ショップを紹介します。


「ここが日本の100円ショップだよっ!」


「うわ、オシャレで入りやすいデスネ」


 日本の100円ショップを見たアリスは、そのお店の清潔感と入りやすさに感動しました。向こうの同じお店は入店するのに勇気が必要なくらい雰囲気が悪いお店が多いのです。こちらのお店なら気軽に入る事が出来るとアリスは思ったのでした。


「まぁ、売っている商品の品揃えはあんまり変わらないかもだけどね」


 セリナは感動しているアリスに期待し過ぎないように一言付け加えます。後から付いてきたメンバーも揃って、一行はそのままお店に入って行きました。


「う~ん、あれもいいしこれもいいし……」


「全部100円でも全部買う訳にもいかないから結局悩むね~」


 その頃、フルーティーズのメンバーも同じく100円ショップに来ていました。店内に入ったみんなは、それぞれ興味のある商品の所にバラけて品定めをしています。

 そんな中、メンバーのひとりである桃は小さな人形を手にとって悩んでいました。そこで一緒に行動していたみかんが声をかけます。


「え、桃、それ買うの?」


「む、悪い?」


「いや、そんな事ないけど」


 桃とみかんは仲良しではあるものの、物の好みは違う為、たまに意見が衝突する事もありました。今回の事例はまさにそれで、桃の思考にみかんの意見が混じり、彼女の悩みは中々解決に辿り着けそうにないのでした。


 文具の棚を物色していた林檎は他のメンバーの動向を遠目に眺めながら、思った事を口にします。


「こう言う時、性格って出るよね」


「そうそう、やたら小物ばかり集めたり、便利用品にご執心だったり、とにかく元を取ろうと高そうなのを選んだり、逆に他でも100円で売っていそうなのを選んでしまったり……」


「この店内にも色んな思惑のお客さんがいるんだなって思うと思わず人間観察をしちゃうね~」


 林檎の言葉にいちごが返事を返します。2人が買い物より人間観察に興味を抱き始めたところで彼女は少し珍しいお客さんを発見しました。


「ねぇ、ちょっとアレ!」


 興奮した林檎はいちごの肩を叩いて同意を求めます。


「私達みたいな団体さんだよ、アレ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る