第37話 衝突!それぞれのリンゴ仲間達 その2

「用事って言われるとちょっと困っちゃうんだけど、昼まで自然の中だったじゃない?じゃあ昼からは別の雰囲気の場所がいいかなって、それだけ」


 この話からセリナがショッピングモールに来たがったのに深い理由はあんまりないようでした。この答えを聞いた泰葉は納得したような顔になってドーナッツをひと口かじります。その席の中で早速鈴香の充電が切れました。


「ぷしゅ~」


「あ、こら、お店の中で寝ないでよ」


「鈴香サ~ン」


 テーブルに突っ伏して微動だにしなくなった彼女を見て焦ったゆみとアリスが揺り動かしました。少し大袈裟なその行動に鈴香は姿勢はそのままで顔をくるっと動かして口を開きます。


「寝てはいないよ~」


「そっとしとこ」


 この彼女の態度にセリナが少し憐れむように口を開きます。みんなその意見にうなずいて、この会食の間、鈴香はノータッチと言う事になりました。


 それからそれから4人は他愛もない話をしながら軽食を楽しみます。世間話から趣味の話、昨日見たテレビドラマの話とかをしながら細やかに盛り上がりました。

 みんながそれぞれ買ったものを胃袋に収めきった頃、泰葉がみんなに向けて声をかけます。


「折角来たんだしさ、色々お店回ってみようよ」


「そうだね、そうしよう」


 この提案にセリナが賛同します。異論を唱える人もいなかったのでこの案はそのまま採用されました。

 さて、お店を回るとなればここはショッピングモール、見たい場所はいくつもあります。先にここに来ていた林檎達はバラバラで見て回る方法を取りましたが、泰葉達はどんな結論を下すでしょう?


 早速言い出しっぺの泰葉がみんなに問いかけます。


「お店回る順番とかどうしようか?」


「近いところから回っていけばいいんじゃない?」


「だね~」


 彼女達は林檎達と違ってここで意見が割れる事はありませんでした。最初に案を出したゆみの言葉にみんな同意したのです。

 そんな訳で眠りかけている鈴香を起こして泰葉達は早速店内巡回を始めました。歩きながら不安そうな表情になったゆみが泰葉に話しかけます。


「ねぇ、お金とか持って来てる?今日は山を登るだけだと思っていたから……」


「私も一緒。残念だけど今日は見るばかりになっちゃうね」


 当初、泰葉達は山を降りた後は誰かの家に集まって遊ぶか、そのまま解散するか、とにかく昼からお店に繰り出そうって事は考えてもいませんでした。

 なのでみんなお金をあまり持参していません。泰葉とゆみはお互い顔を見合わせて苦笑いをしました。この話を聞いたセリナは話に割って入ります。


「そう言うのもいいんじゃない?」


「ウィンドウショッピングも楽しいデスヨ~」


 セリナの言葉にアリスも続きました。何も物を買うばかりがショッピングではありません。色々見て回って刺激を得るのもショッピングの楽しみのひとつです。

 みんなはこの意見にうんうんとうなずきながらまず最初のお店の雑貨屋に入ります。入ってすぐにゆみが声を上げました。


「あ、この小物、いいかも」


 それは棚に飾ってあった可愛らしい人形でした。ひょいと覗き込んだセリナはつい口を挟んでしまいます。


「100円ショップでも似たようなのあるよ」


「う~、それはそうかも知れないけど~」


 彼女の余計な一言にゆみは地味にショックを受けるのでした。落胆する彼女の顔を見て罪悪感を感じたセリナは取り繕うように口を開きます。


「じゃあ、100円ショップにも後で寄って似たようなのがあったら買うって言うのは?」


「あ、それはいいかも!」


 このアイディアを聞いたゆみの顔に明るさが戻ります。彼女の機嫌が治ってセリナはほっと胸を撫で下ろすのでした。


「色々欲しいものがあって目移りしちゃうね~」


「殆ど買えないけどね~」


 店内の別のコーナーを眺めていた泰葉は陳列されている商品を眺めながらため息をついています。彼女の嘆きに鈴香が同調しました。

 店内の商品を眺める彼女達の嘆きの内容がみんな同じ内容だったので、ゆみがつい願望を口にします。


「あ~お金持ちのイケメン捕まえて全部買ってもらいたい」


「出会いがあればねぇ」


「そんなイケメンがいたらもっとお嬢様を狙うんじゃない?」


 ゆみの愚痴に泰葉とセリナも参戦します。ゆみの言葉に同意する泰葉に対し、セリナは少し挑発する意見を出しました。この言葉にムッとしたゆみはすぐに反論します。


「何言ってるの、意外と私みたいなのに需要があるんだって!」


「だといいねえ」


 別に喧嘩をするつもりのないセリナはこの彼女の言葉をサラッと流しました。雑貨屋の商品をあらかた見終わったみんなは次に服屋さんに向かいます。

 ブランド物の服の並ぶお店に入ったみんなは展示されている服を見ながら感想を語り合いました。


「服もすっかり夏物ばかりだね」


 泰葉が並んでいる服の話を始めると同じように服を眺めていたゆみが口を開きます。


「ダイエットしようかな~」


「ええッ?」


 この彼女の宣言に泰葉は驚きます。何故ならゆみは見た目スラリとしていて痩せる要素はどこにも見られなかったからです。彼女がダイエットを始めようものなら、それより肉付きのいい泰葉はもっと真剣にダイエットに励まなければいけなくなります。

 そんな訳で彼女の言葉に泰葉が動揺しているとセリナがサラッときつい一言を告げました。


「夏はすぐそこだよ、ちょっと遅かったんじゃない?」


「むう~、きっと間に合うもん」


 このセリナの言葉にゆみは顔を膨らませて反論します。少し雰囲気が険悪になって来たと感じた鈴香がこの場を収めようと口を開きます。


「みんなそんな気にする程じゃないよお~」


「鈴香、ありがと」


 彼女の一言でダイエット談義は大きな争いに発展する事もなく自然消滅しました。事の経緯を見守っていた他のメンバーも騒ぎに発展しなくて良かったとみんなほっと胸を撫で下ろします。

 そうしてあらかたお店の商品を見終わった一行は次のお店へと向かいました。そのお店の前に来て一番最初に声を上げたのは珍しく鈴香です。


「次はペットショップだね~」


 みんながペットショップに入って一番最初に目に飛び込んできたのは可愛らしい子猫たちの姿でした。その可愛らしい子猫たちの姿を見てみんな少し前の子猫騒動の事を思い出していました。子猫を見ながら泰葉がその事を思わず口にします。


「前の子猫、可愛かったよね」


「酒井んちで元気にしてるかな」


 泰葉の一言に懐かしそうな顔をしながらゆみが続きます。その言葉を聞いたセリナは少し強い口調で口を開きました。


「私達から奪っていたんだから報告義務が生じるよね!」


「そーだそーだ」


 彼女の言葉にいつも酒井先生にビビらされているゆみも同調します。みんなが子猫騒動の話題で盛り上がる中、ひとりだけ会話に参加せずにじっと動物を眺めているアリスを見て泰葉は声をかけます。


「どうしたの?アリス」


「いえ、可愛いなーって思っテ」


「お、ハリネズミ、いいね~」


 アリスの視線の先にいたのは可愛らしいハリネズミでした。ハリネズミは最近の流行りのペットのひとつです。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る