第30話 ピクニック その2
「鈴香が乗り気!」
そこに現れたのは昨日の会議に参加していなかった鈴香でした。いつものんびりしていて体を動かすのが苦手そうな彼女が乗り気の言うのもちょっとした事件です。そこで急遽鈴香もピクニックに参加する事が決まりました。セリナが決めた七つ森と言う場所に文句を言う人は誰もいません。
七つ森とはそう言う名前の山の事で地元では割と有名な初心者向けの登山スポットです。景色も良くて休日には登山客で賑わう所でした。
この結果を受けて泰葉は口を開きます。
「じゃあ決まったようなものだね♪」
これで99%決まったようなものの、念の為泰葉は一応メンバーに確認を取る事にしました。
「アリスもゆみもいいんだよね?」
「うん」
「勿論デス」
予想通り2人から確認の取れた泰葉はこのセリナ案を採用する事にします。そして日程もすぐに決めました。
「じゃあ、次の休みの日にピクニック決定だ!」
こうして前日のセリナの予想通り、次の休みの日にみんなでピクニックに行く事になりました。土日のどちらかは多数決で土曜日に決まり、後はその日を待つばかりです。
そして時間はあっと言う間に過ぎ去り、すぐにピクニック当日になりました。天気予報は外れる事なく当日の朝から気持ち良く晴れて、興奮で早起きした泰葉は窓を開けて朝日を浴びながら背伸びをします。
「う~ん、いい天気になったねぇ~」
今日の予定はまずみんなで駅前に集まって、そこから電車で目的地の七つ森に向かうと言う段取りです。支度をした泰葉が駅に向かうと、既にメンバー全員が集まっていました。いつも遅刻しがちな鈴香でさえ待ち合わせ時間ぴったりに駅に現れたのです。これにはその場にいた4人全員が驚いたのでした。
駅で切符を買って電車を待つ間、セリナは泰葉に話しかけます。
「いいピクニック日和になって良かったよ」
「本当だねー」
次はゆみが泰葉に話しかけます。
「実は私、友達だけでピクニックとか初めて」
「奇遇だね、実は私もだよ」
最後にアリスが満面の笑みで話しかけました。
「今日は楽しみまショウ!」
「だね!楽しもう!」
こうしてみんなこのピクニックを楽しみにしている事が分かりました。時間通りに電車がやって来て、みんなそれに乗り込みます。幸いな事に席が結構空いていたので、みんな固まって座る事が出来ました。窓から流れる景色を眺めながら泰葉はつぶやきます。
「車窓からの景色っていいよね」
「本当デスネ~」
泰葉の隣りに座ったアリスも彼女に意見に同意しました。まだこの地に越して間もない彼女にとって、この車窓からの景色はとても新鮮に写った事でしょう。その後、泰葉が見飽きた後も彼女はずっと車窓を眺め続けていました。
「むにゃ……」
「鈴香め……速攻で寝るとは……」
寝心地のいい座席を確保した鈴香は座った数秒で眠ってしまいました。その神業を見て隣りに座ったゆみは関心します。電車は順調に走り続け、リンゴ仲間にのんびりとした時間が流れていきました。電車に揺られながら2駅ほど過ぎたあたりでしょうか、セリナがみんなに声をかけます。
「今日の予定って山に登ってお弁当を食べるだけ?」
「うーん、簡単に言えばそうなるけど……」
今回のピクニックの具体的なプランを特に考えていなかった泰葉は彼女の質問にそう答えました。この答えを聞いたセリナは待ってましたと言わんばかリに自分の意見を主張します。
「あのさ、山を降りてからでいいんだけど、街で色々と廻ってみない?」
「まぁ、確かにそのまま帰ってしまうのも何か勿体無い気もするね」
このセリナプランに泰葉はそう言ってうなずきます。ドヤ顔のセリナの顔を見たゆみがそこで口を挟みました。
「その口調だともう行きたい場所は決まっているっぽいけど……」
「てへへ。まぁそれは追々と」
図星を突かれた彼女はそう言って笑って誤魔化します。このやり取りを見た他のリンゴ仲間もつられて笑いました。流れる車窓の風景が田園風景から自然の景観へと変わっていきます。その様子を眺めながら泰葉は口を開きます。
「こうして窓をから外を見ていると目的地に近付く感じがして良いね~」
「あ、降りるの次の駅だよ、鈴香を起こさなきゃ」
電車はいつの間にか目的地のひと駅手前の駅を過ぎていました。次の駅がリンゴ仲間達の目的の駅です。起きているみんなは各自が気をつければいいのですが、眠っている鈴香は誰かが起こさないといけません。さしあたって言えばそれは彼女の隣りに座っているゆみの役目でした。
「むにゃ?」
ゆみが眠っている鈴香に声をかけようとしたその時です。何と彼女のまぶたが自主的に開きました。この現象に彼女とは付き合いの長いゆみも流石に驚きます。
「すごい、ここで自然に目を覚ました」
アリスもまた鈴香のこの目覚めるべき時に目覚める能力を目の当たりにして思わず言葉を漏らしました。
「本能……でしょウカ?」
そのやり取りを見ながら泰葉はニンマリと笑って独り言のようにつぶやきます。
「鈴香は間に合う系女子だから」
その様子を見ていたセリナも鈴香の間に合いっぷりに黙っている事は出来ませんでした。
「さすが……」
みんなが自分の事を話題にしている事に全く気付いていない鈴香は、目が覚めた後のこの不思議な空気感に疑問を抱かずにはいられなかったようです。
「どうしたの~?」
この事をどう説明したいいのか分からなかった泰葉は彼女に誤魔化すように言いました。
「あ、うん。次の駅で降りるから」
「了解~」
泰葉の連絡を聞いた鈴香はほんわか癒やし笑顔で答えます。電車は無事七つ森の最寄りの駅に着き、みんなは揃って電車を降りました。
駅を出た泰葉はまず胸に息を目一杯吸い込むと急に大声で叫びます。
「うわぁーっ!」
「何?急にどうしたの?」
この突然の行為にセリナはびっくりして彼女に尋ねました。すると泰葉はキョトンとした顔でさっきの自分の行為の理由を説明します。
「え?天気のいい青空の下にいるって実感すると大声で叫びたくならない?」
「それって泰葉だけだよ……。あ、ルルも同じタイプかもね」
少し冷ややかな視線でセリナは泰葉に答えました。彼女の言葉に出てきたルルと言う言葉に泰葉は残念そうに返します。
「あの子がいないのが本当残念だよ。絶対アウトドア派なのに」
「逆にインドアの私がいるって言うね」
「あ、あはは……」
このセリナの自虐的な返しに、泰葉は苦笑いをするばかりでした。
駅を出て七つ森に向かうバスを使って最寄りのバス停で降りると、もうそこは山の入口です。泰葉はもう一度深く深呼吸して息を整えると、改めてみんなに言いました。
「じゃ、行こうか」
そこから早速山登りが始まります。慣れない山道を登りながらセリナはひとりつぶやきます。
「そういや、バーベキューってどうなったんだっけ?」
「いやそれ色々と準備がいるでしょ。こんな軽装じゃ無理だよ」
泰葉はセリナの言葉にそう答えました。ゆみがすぐにその説明の補足をします。
「車でキャンプ場に行くとかだったらって事だよね?」
「なーんだ、残念」
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