ピクニック
第29話 ピクニック その1
そろそろ梅雨に入ろうかと言う6月上旬、まだ週間予報も晴れの方が多いこの時期は意外と行楽日和だったりします。そんな訳で何かを思いついた泰葉はみんなが集まっているその時に突然提案しました。
「そうだ!ピクニック行こうよ!」
「この時期に?」
泰葉の言葉にすぐに反応したのはセリナです。彼女は泰葉のこの突然のアイディアに困惑している様子。セリナ以外のリンゴ仲間もざわざわとざわつき始めます。この雰囲気に泰葉は口を開きました。
「みんな都合悪いのかな?」
この言葉にセリナが腕を組みながら反応します。
「アップルパイパーティーはどうしたのよ?」
「うんまぁ、それもいいんだけどね」
彼女の言葉に泰葉はちょっとつまらなさそうな顔をしました。2人のやり取りを聞いていたゆみは自分の考えを述べます。
「私はどっちでもいいよ」
その話の流れで次にルルが手を合わしながら答えました。
「あの、土日は部活があるので申し訳ないけどパスっス」
「ああ、うん、無理に誘っている訳じゃないから。部活、頑張ってね」
その謝罪するような彼女の様子に逆に悪い事を言っちゃったかなと反省した泰葉はルルに気にしなくていいと伝えます。このやり取りの後でハァとため息を吐き出したセリナは改めて泰葉に質問しました。
「大体何でピクニックなの?」
「いやぁ、高校に入ってから自然の下で楽しむ系のイベントをまだやってなかったなあって思って」
そう、泰葉はりんご仲間でアウトドアイベントを楽しみたかったのです。この真意を聞いてアリスがアウトドアイベントの思い出を語ります。
「ピクニックと言えばバーベキューでしょうカ?私、向こうにいた頃はよくやってマシタ」
「アリスの家のバーベキューは本格的っぽいよね」
彼女の話を聞いた泰葉はアメリカンなバーべキューの様子を夢想します。すると次にゆみが具体的な話を始めました。
「で?ピクニック行くとしたらどこに行くの?近場にそんな場所とかあったっけ?」
「うーん、まだそう言うのは考えてないんだ。参加者もいない内から考えても仕方ないでしょ」
泰葉が思いついたのはついさっきだったので、彼女自身具体的な事はまだ何も決めていません。こうしてみんなで相談しながら決めていこうとそう思っていたようです。この彼女の言葉を聞いたセリナが少しイラッとしながら口を開きました。
「じゃあさっさと候補地を選定してよ。そうしないとこっちも答えは出せないから」
この意見を聞いた泰葉はすぐにその言葉の裏にある真意に気付きます。
「それって、場所が良かったら参加してくれるって事?」
泰葉の鋭い指摘を受けてセリナは言葉をつまらせながら答えます。
「うん、まぁ……。ピクニックも楽しそうな気もしない訳でもないし……」
「て言うかそれなら逆にセリナが行きたいところをピックアップしてよ。そうだ!みんながそれぞれに行きたい所を発表してそれで決めるって言うのは?」
今までのやり取りで一番面倒な相手がセリナだと思った泰葉は彼女の意見をベースにする事に決めました。自分を含む残りの3人は場所に関して誰も文句を言っていなかったからです。この雰囲気の中で最初に口を開いたのはゆみでした。
「う~ん、私はどこでもいいからなぁ……特に場所のこだわりもないし。決まった所に着いていくよ」
「私も同じくデス。決まった場所に従いマス」
「って、言ってるけど?」
3人の意見が一致したと言う事でみんな一斉にセリナの顔をじいっと見つめました。この圧に彼女はプレッシャーを感じます。
「何でみんな一斉に私を見るの?言っとくけどインドア派は休日に外に出るだけでハードルが高いんだよ」
「だからセリナの行く場所にみんなが着いていくって言ってるんだよ?」
泰葉は目的地をセリナに任せる理由をそう言いました。ハメられたと思ったものの、もう後には引き返せない彼女は腹を括ります。
「はぁ……そう言う流れね。分かったよ、ちょい調べて検討してみるから。その代わり!いい場所が見当たらなかったら私は不参加だからね!」
このセリナの言葉を聞いた泰葉はニッコリと笑います。それで彼女に笑顔のまま話しかけました。
「うん、それでいいよ。でもきっといい場所が見つかるって信じてる!」
「うう……」
ピクニックの場所の候補地を決める。残りのメンバーがみんな主張しなかったとは言え、これはちょっと責任がのしかかります。彼女はぼそっと呟くように誰にも聞こえないような小さな声でこぼしました。
「大体そんな都合のいい場所がすぐに見つかる訳がないって言うのよ……」
放課後、家に帰ったセリナは自分のPCの電源を入れて近場でピクニックに相応しい場所がないか調べ始めます。数種類の行楽系サイトを比較して自分の希望に合った場所がないか探し始めると、調べる前に感じていた懸念がすっかり晴れていきました。
「あれ……?ここ、いいかも……」
そう、実は泰葉の住む街の近場にはセリナの希望が叶えられそうな具合の良い行楽ポイントがいくつもあったのです。インドア派の彼女は今まで行楽なんて頭の中になかったので単に知らないだけでした。
彼女はすぐに自分の希望に合いそうな場所をピックアップして、その中から最適解を導き出します。場所の選定が終わった所で、セリナにはまだ不安な事がありました。それは時期の問題です。
「って言うか休みの日に天気が良いとも限らない訳だし……梅雨時だよ今……」
ピクニックに行くのは休日です。多分泰葉はすぐに行こうって言い出すだろうから、今週末に行こうなんて言い出すはず。果たしてその日は天気がいいのでしょうか?
彼女はすぐに天気予報サイトを開いてその日の天気の予報を確認します。候補地を選んだ時は少し行く気になっていましたが、やはりインドア派の彼女は出来ればあまり行きたくはなかったのです。少しでも降水確率が高かったらみんなに中止を勧告するつもりでした。
「あ、一日中晴れマークだ……」
天気予報サイトの週間予報を開くとセリナの思いとは裏腹に土日のどちらの週間予報も降水確率0の丸一日晴れの予報でした。ここまで来たらこれは運命だと彼女はピクニックに行く決心をします。
次の日、みんなが集まった所で泰葉はセリナに声をかけました。
「おはようセリナ、いい場所は見つかった?」
「ふふふ……偶然が重なる事を奇跡って言うのよね……」
急に意味深な事を言い始めた彼女に泰葉は唖然としてしまいます。
「何?どうしたの?」
「奇跡が起こったの!もうこれは行くっきゃないでしょ!」
セリナは行楽地を調べて自分の希望にあった場所が見つかった事と、週末のどちらも行楽日和だった事でそれを奇跡と位置付けたのです。強い口調で拳を握りながら話す彼女を見て、泰葉は素直な感想を口にしました。
「おお……セリナさんが熱い……っ!」
早速セリナが昨日決めたピクニック候補地をスマホの地図アプリで提示すると、みんながそれに注目します。その中でにゅっと横から顔を出す少女がいました。彼女はのんびりとした口調で喋ります。
「へぇ~七つ森かぁ~。あそこはいいよね~」
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