第28話 フルーティーズ 後編
ようやくそれが真意だと確信出来た林檎はわさびに対して感謝の言葉を述べました。
「ありがと、恩に着る!」
「何それ、大袈裟だなぁ」
やっと話がまとまったと思った林檎が不意に教室の時計を見ると、その表示板は昼休みの終わりの時刻を示していました。これはいいタイミングだと林檎はニッコリ笑うとわさびを誘い出します。
「あ、そろそろ時間だよ、一緒に戻ろ」
「ん……」
この言葉にわさびは素直に従いました。2人は仲良く音楽室を後にします。こうして昼休みミッションは無事成功を収めたのでした。
全員の了解を得たところで次はスケジュール調整です。次の日の昼休み、林檎はまず身近に集まっている仲間に話を持ちかけました。
「それじゃあさ、日程を調整しようか」
「私達はいつでもいいけど……」
みかんも桃も最初から特に用事はないため、後で決まった日時に合わせるようです。ここでいちごから事前に話を聞いていたらしいみかんが林檎にその事を伝えました。
「急用が入らない限りいちごも大丈夫みたい」
3人がこの相談をしていると急に背後から声が聞こえて来ます。
「私もいつでもいいぞ」
みんなで一斉に振り返るとそこにいたのはわさびでした。
「わ!わさび!」
この突然に珍客の登場にみんな驚いてしまいました。気分屋の彼女は今までまともに彼女達の輪に入る事はなかったからです。林檎達の態度に気を悪くしたわさびはへそを曲げてしまいました。
「何だよ。そんなに珍しい?」
「いや、ごめん」
林檎はすぐに取り繕うように彼女に謝ります。その様子を横で見ていたみかんがわさびに話しかけました。
「わさびさ、一緒に遊ぼうよ、普段からさ」
この言葉に対して、わさびはつまらない顔をしながら自分理論を振りかざします。
「そー言うの苦手なんだよ。こっちが遊びたい時はちゃんと来るからさ、それでいいじゃん」
「いいよ、それで」
彼女の性格を知っている林檎は改めてその話を受け入れます。これで予定を聞いていないメンバーは後ひとりになりました。その事を受けて桃が言葉を続けます。
「後はレモンかぁ……」
その言葉に林檎は昨日屋上で話していた事をみんなに伝えます。
「もう話は付けて来た。レモンはみんな知ってたから改めて聞く事もないよ」
「ああ、予知ってたんだ。便利だよね」
林檎の報告を受けて桃も感心するように感想を言います。するとまた突然背後から声が聞こえてきました。
「いや、案外これが不便だぞ。常にネタバレ状態だからな。驚く事がない。退屈な日々だよ」
「うわっ!」
噂をすれば何とやら、それは今話に出たばかりのレモンでした。突然の彼女の登場にその場はちょっとしたパニックになります。
みんなが驚いてすぐに言葉が出せない中、みんなの代表で林檎が彼女に問いかけます。
「いつからいたの?」
「最初から」
この質問にレモンは当然のような口調で返事をします。最初からいたのなら誰かは気付くはずで、みんな納得の行かない顔をしていました。それから少しの間、奇妙な沈黙の時間が流れます。この雰囲気を察して彼女はすぐに前言撤回しました。
「……なんてね。ついさっきだよ」
この微妙な悪ふざけにみんな愛想笑いをするばかりです。その結果も知っているのでしょう、レモンはそんなみんなの態度に対して何も言いませんでした。
小さなトラブルはあったものの、これでみんなの意見が出揃ったので日程を詰める事が出来ます。用事のある人が誰もいない事が確認出来たので、林檎は改めて自分の考えたプランをみんなに言いました。
「みんな差し迫った用事がないなら早い方がいいね。今週末でいい?」
実行は今週末、話が決まって一番早い休日にそれを実行しようとする意欲的なスケジュールです。この話を聞いたみんなはそれぞれに返事をしました。
まずは普段から林檎と距離の近いみかんと桃から。
「いいよ」
「りょーかい」
それからワンテンポ置いてわさびとレモンも返事を返します。
「おっけ」
「承知」
この場にいる5人からの了解はこれで取れました。この結果を踏まえ、林檎が残りのひとりに話をつけに行く事にします。
「じゃあ私はこの事をいちごに言いに行くね」
「いってらー」
みかんに見送られ、林檎は自分の席でぼうっとしているいちごの元へと向かいます。
「あ、そう、決まったんだ。いいよ、その日は空いてる」
林檎の報告を聞いていちごはすぐにその提案を受け入れてくれました。全員の了解が取れたと言う事で林檎はニコっと笑ってつぶやきます。
「これでフルーティーズ全員集合だ!」
フルーティーズとは林檎が名付けた青リンゴ仲間グループの名前です。偶然にもみんな果物関係の名前だったのでフルーティーズ。あ、わさびは命名後、最後に加入したのでそこは大目に見てください。
この言葉を聞いたいちごは少し遠い目をして林檎に言いました。
「いつぶりくらいだろうね」
この言葉に答えようと林檎が記憶を遡っていると、いちごは更に言葉を続けます。
「最初に一緒にいられなくなったのって私だよね。ごめんね」
そう、それまでは毎日ではなくてもみんなでそれなりに会ったりはしていたのです。いちごの能力が警察の捜査にも役に立つと分かって、難解事件の度に時には学校を休んでまでも捜査協力するようになって、段々林檎たちと会う機会が減っていってしまったのです。
そう話すいちごの顔は申し訳なさで曇っていました。その雰囲気を察した林檎はフォローするように彼女に声をかけます。
「いちごが謝る必要はないよ。だってお父さんの手伝いをしてるだもん」
「ありがと」
林檎の心遣いを感じていちごは感謝の言葉を述べます。これでこの話題にケリが付いたと判断した林檎は改めて彼女に言いました。
「じゃあ、日曜は思い切り遊ぼう」
「え?人探しじゃないの?」
いきなり集まる趣旨が変わっていたので、驚いたいちごは林檎に聞き返します。その当然の反応に林檎は笑いながらそう言った理由を話しました。
「きっとみんなで集まればすぐに見つかっちゃうよ」
林檎のこの言葉に言いたい事が分かったいちごは、笑う彼女につられて自分も笑いました。
「それもそうだね」
久しぶりに全員集まれると言う事で、みんなその日を楽しみに過ごす事になります。それから日曜までの時間はあっと言う間に過ぎていきました。
果たして林檎達は泰葉達に会う事は出来るでしょうか?それについては予知能力を持っているレモンが何も言わなかったので何も分かりません。
眩しい陽射しが教室に射し込んで、それはまるで何かを予感させるようです。何事も起こらなければいいのですけどね。
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