第27話 フルーティーズ 中編
そんな訳でまずは彼女を探しに林檎は階段を駆け上ります。
「レモンは……屋上かな?」
そのひとりはレモンと言いました。レモンこと神崎 レモンはひとりが好きで、特にひとりになれる屋上がお気に入りです。彼女が教室で見当たらない時、高確率で屋上で黄昏れています。ある意味分かりやすいですね。見た目も背が高くて美しい黒髪のロングヘアなのでこちらも分かりやすい。
だからひとりが好きなのかも知れません。教室にいると目立ってしまいますからね。その知的な風貌はかけている眼鏡もあって隠れファンも多いって噂です。実際の学力は見た目ほどではないのですが。
屋上に上がった林檎はレモンを探します。この学校の屋上、入れる事を知っている生徒は少なく、誰かがいれば高確率でそれは彼女でした。林檎はすぐに黄昏れているレモンを見つけ、声をかけました。
「おーい」
その声を聞いた彼女はすぐに振り向きます。この時、まるでシャンプーのCMのように長い髪がサラリと揺れました。
「おお、やっと来たね」
「呼ぶの分かってるなら教室にいてよ」
自分が来るのが分かっていたようなレモンの態度に林檎は少し愚痴っぽく言います。この言葉に全てが分かっていたレモンはさらっと言いました。
「ここにいても呼びに来るのが分かってるんだから教室にいる意味はないだろ?」
「まぁ、そうなるの……かなぁ?」
このレモン理論に林檎は納得してしまいます。このやり取りで分かる通り、彼女には未来が分かると言うリンゴ能力がありました。勿論万能と言う訳ではありません。見通せるのは数カ月先までだし、自分に近い事しか見通せません。
しかしその条件下なら的中率はほぼ100%にもなりました。変えられない未来を知っていると日々をつまらなくしてしまいます。彼女がこのリンゴ能力を発現した時、寂しい顔をしていたのを林檎は今でも強く覚えています。
そんな彼女は段取りをすっ飛ばして、いきなり先の話をして来ました。
「それで?予定はもう決まったのかい?」
「やっぱ見えてたの?」
このレモンの言葉に林檎は驚きと納得の言葉を告げました。そんな彼女に対し、レモンは自分の能力について改めて彼女に説明します。
「そりゃま当然。僕の力は受動的なんだよ。見たくなくても見えてしまうからね」
そう、彼女は僕っ子でもありました。その容姿と相まって男装の麗人とかが似合いそうです。胸も少し控え目だし……。だから女子のファンも多いのだとか。
レモンが林檎の話を受け入れていると言う事はそれがうまくいくと言う証でもあります。林檎は彼女にその確認を取りました。
「じゃあ私の計画はうまく行くんだ?」
この話に彼女はまたしても林檎の心を先読みして応えます。
「後はわさびの都合を聞くんだろ?早くしないと休み時間が終わるぞ」
「わさび、拒否らない?」
わさびとはまだ話をつけていない青リンゴ仲間最後のひとりです。林檎のこの反応で分かる通り、どうやら一筋縄ではいかない相手のようで。
その彼女への交渉を躊躇している林檎に対して、レモンは見えている未来を素直に伝えました。
「それは林檎の交渉次第だな。居場所は音楽室だ。この時間の内に話しかけないと厳しくなるぞ」
「分かった、行ってくる。ありがと!」
「健闘を祈る!」
こうして心強いアドバイスを得た林檎はその言葉通りに音楽室に向かいます。昼休みの音楽室は人がいなくてとても静かです。その環境を利用してひとりの少女が机に突っ伏して眠っていました。彼女こそが林檎の探していた青リンゴ仲間最後のひとり、わさびです。
清水 わさびは本能で生きる少女です。自分の感情に素直な為に周りは振り回されてしまう事が多いのでした。一言で言えばワガママなのですね。
身長は155cmとちょい低めで髪はボサボサのショートカット。スポーツ少女のような性格ですが、基本的に怠惰で筋力も余りありません。
そんな彼女に運命の神様は発火能力と言う危なっかしいリンゴ能力を授けてしまいました。それでも基本怠け者の彼女はこの能力を初めて発動したその時以来一度も使っていません。ワガママではあるけど粗暴ではなく、優しい性格がそうさせているのでしょう。
彼女を発見した林檎は大声で名前を叫びます。
「わさび!」
この叫び声に夢見心地だった彼女も目を覚ましました。流石に寝起きすぐは意識がぼうっとしているようです。
「んあ?」
目が覚めたわさびは少しずつ状況を理解していきます。ようやく目の前の少女が林檎だと分かると頭を掻きながら口を開きました。
「何か用?あ、もうチャイムが鳴る?起こしてくれてサンキュ」
「いや……えっと、後10分あるけど」
根が真面目な林檎はわさびの言葉に誠実に答えていました。この言葉に起こした理由が別にあると感じたわさびは彼女に質問します。
「何?何か頼み事なんでしょ」
「あのさ、噂で聞いているかもだけど……」
林檎がどう話していいか切り出し方に戸惑っていると、その態度にイライラしたわさびが声を荒げます。
「何?ハッキリ言ってよ」
「私達を調べてるって子達がいるって話!」
話を急かされて林檎は少しキレ気味に言いました。この噂、実はわさびにも届いていたようで、彼女はこの事について自分なりの見解を述べます。
「ああ、でも気にしなくていいじゃん。相手に敵意がある訳じゃないんでしょ。ほっとけほっとけ」
「興味ない?」
「全然」
取り付く島がないというのはこう言う事を言うのでしょう。確かさっきレモンはこの時間になら説得出来ると言っていた気がします。つまりこの機を逃せば彼女を説得するのはもっと難しくなるのでしょう。なので必死になってわさびが興味を持てるように話を続けます。
「これ、みんな賛同してるんだよ」
「何それ、全員集合?」
この言葉にわさびは興味を示したようです。ここで後ひと押しだと感じた林檎は彼女に対してトドメの言葉を言いました。
「後はわさびだけ」
これでわさびも落ちたと、林檎が確信したその時でした。当の彼女は意地悪そうな表情を浮かべると口を開きます。
「ふーん。じゃあ私が拒否ったら計画はおじゃんと」
そう、わさびは天邪鬼なところがあったのです。みんなが期待していると、敢えてその逆の行動を取ると言う事が多々ありました。彼女との交流が中々難易度が高いのはそう言う面があるからなのです。
対応に困った林檎は正攻法で素直な心情を訴えます。
「意地悪言わないでよ。たまにはみんなで行動してもいいでしょ」
わさびはそう言うりんごの顔をまじまじと見つめます。余りに見つめられて彼女はつい視線をそらしました。その様子を面白がっていたわさびは十分堪能出来たのか態度を改めて、彼女に了解の意思を伝えます。
「別にいいよ」
急に態度を変えたわさびの言葉を林檎はすぐには信じられませんでした。なので思わず聞き返してしまいます。
「えっ?」
自分の言葉が信用されていないと感じたわさびは林檎の目を見ながらもう一度ハッキリと言います。
「だから、その遊びに乗ってあげるってったの。これでいいんでしょ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます