もうひとつのリンゴ仲間

フルーティーズ

第26話 フルーティーズ 前編

 昼休み、林檎はいつものように友達と他愛もない話をしています。友達は前も一緒だった桃とみかん。青リンゴ仲間はまだ他にもいるのですが、残りのメンバーは今日も彼女達とは別行動です。ちょうど話題が切れたところで2人に対して林檎が次の話題を切り出します。


「そろそろまたみんな集まれないかな?」


 前も集めようと失敗していますが、まだ林檎は諦めきれていないようです。この話を聞いて桃が頬杖をつきながらその理由を尋ねます。


「んー、何で?」


「前に言ったじゃない、私達を探ってる奴らを逆に探し出すんだよ」


 そう、林檎はずっと泰葉がこの街で林檎たちを探していたのが気になって仕方がないようです。この提案に今度はみかんが口を挟みました。


「何も全員集まらなくてもいいじゃない」


 2人から責められる格好になって林檎はその立場を悪くしていました。

 けれどそこで簡単に自分の意見を引っ込める彼女ではありません。すぐに林檎は何故そう思ったのかその根拠を話します。


「集まった方が見つけやすいじゃん。数は力だよ」


 彼女の話にはそれなりになるほどと思わせる説得力がありました。

 けれどみかんはそれが難しいと言う根本的な問題を林檎に訴えます。


「そもそも全員集まるの?って言う話」


 この彼女の話に更に桃が続きます。


「暇3人組と気まぐれ2人と仕事持ちひとりが都合良く集まるって……ねぇ」


 そう、残りの3人はちょっと一筋縄ではいかない人物だったのです。そもそも仲が良ければこの団体の中に一緒に集まっていた事でしょう。

 現時点で3人しか集まっていないところにこの計画の難しいところがあったのです。その解決策としてまず林檎はひとつ自分の案を口にしました。


「集まる日はその仕事のスケジュールに合わせればいいじゃない」


 そう、用事のある人は逆にそのスケジュールを把握すれば確実に空いている時間を調整できます。彼女の都合に合わせればいいのです。

 この計画を聞いて桃はひとり納得してつぶやきました。


「じゃあ気まぐれメンバーだけが問題か」


 ここまで話が進んでみかんはすぐにこのプランの穴に気付きます。それですぐにその事を口にしました。


「ちょっと待ってよ。まずスケジュールを詰める前に全員の了解を取った方がいいんじゃない?みんな乗り気とは限らないよ」


 話を聞いてみかんの言う事も最もだと思った林檎はすぐに意見の聞ける2人に了解を取る事にします。


「じゃあまず桃とみかんは大丈夫だよね?」


「まぁ……私らの正体を探ってるのがいるって言うのはちょい不気味だし、正体は知りたくはあるね」


 話を振られたみかんは少し戸惑いながら自分の考えを林檎に伝えます。彼女が応えたので今度は桃の番です。


「私は面白そうだからこの話乗るよ!」


 彼女は陽気に笑いながら林檎の作戦に賛同しました。これで2人の了解は得た事になります。こうして次は残りの3人を説得させる段取りに移る事になりました。彼女は教室を見回して残りのメンバーを探します。


「じゃあ、次は仕事持ちか……いちごは……いた!」


 残りのメンバーのひとり、森野 いちごは窓際の自分の席でぼうっと窓の外を眺めていました。彼女は長髪ロングの所謂美少女にカテゴライスされている存在です。物静かな雰囲気を漂わせていて周りからは近寄りがたいオーラを発生させていました。

 勿論それは彼女の本質ではありません。話せば彼女も心優しい普通の女子高生です。


 けれどその近寄りがたいオーラは彼女に心地よい空間を発生させていて、それ自体はいちごも気に入ってるようです。人付き合いの苦手な彼女はそうして心の平穏を保っていました。

 いちごの青リンゴ能力は物に宿った記憶を読むサイコメトリー。警察関係者の父の依頼でたまに難解事件の解決に協力しています。そう、仕事持ちのメンバーとは彼女の事なのです。


 林檎はつかつかといちごの席の側まで行くと早速話を切り出しました。


「くつろいでるところ悪いんだけど、話を聞いてくれない?」


 突然話しかけられたいちごは少し戸惑ってしまいます。すぐに林檎の顔を見て驚いたように口を開きました。


「え?何?」


「もう噂で知ってるかも知れないけど、私達を探ってる子達がいるみたいなんだ」


「ああ、隣町の子達らしいね」


 自分達を探している少女達の話は彼女の耳にもしっかり届いていました。この話を聞いた時、きっと林檎が黙っちゃいないだろうなと密かにいちごも思っていたのです。なのでやっとその話題が出たと言う事で彼女もちょっと安心した感じになっていました。

 このいちごの反応に林檎は説明する手間が省けたと感じます。それでいきなり本題を話す事にしました。


「ちょっと今度は私達が調べに行かない?」


「気になるんだ?」


「当然っしょ」


 林檎の性格はいちごも知っていたので彼女にとってこう言う展開になることは織り込み済みです。なのでごちゃごちゃ言わずに林檎の話に彼女は乗る事にしました。

 その為に自分のスケジュールの事を聞きに来たんだと察したいちごは早速林檎に尋ねます。


「いつ行くの?」


「それは今から詰めるんだけど……最近忙しい?」


 林檎はここで少し心配そうにいちごに尋ねました。最近は彼女の力も認められて忙しそうだったからです。自分を心配する素振りを見せる林檎に対していちごは嬉しそうにニッコリ笑うと今の自分の状況を説明しました。


「最近は暇だよ。飛び入りの仕事はあるかもだけど」


「そっか、分かった。あとで日程固める時にまた聞きに来るね」


 いちごのスケジュールを把握したリンゴは早速この場から離れようとします。それを少し淋しく感じた彼女は林檎を引き留めようとしました。


「もう行くの?」


 林檎も本来なら久し振りに話すいちごともう少し長くいたい気持ちもあったのです。

 でもまだ話を聞きに行く相手が後2人います。出来れば昼休みの間に全員に会っておきたい彼女はここで長居する訳にも行きませんでした。


「あ、レモンとわざびにも聞かないといけないから」


 この返事を聞いたいちごはその時思った事を素直に口にします。


「まさか全員で行く気?」


 いちごの言葉を聞いて何か不都合でもあるかのような印象を持った林檎はその真意を確かめました。


「何か不都合でも?」


 この彼女の反応に何か誤解させてしまったと感じたいちごは今度は誤解を招かないようにしっかり思いを伝えます。


「いや、いいんだけど。最近全員で集まった事ってなかったじゃん」


 いちごの真意が分かった林檎はほっと胸を撫で下ろしました。それで彼女も想いは同じだと言う事を告げます。


「だよね~。だからこれはある意味チャンスかと思うんだ」


「まぁみんな仲いいはずだからきっかけがあれば集まれるはずだよね」


 そう言ったいちごはニコっと笑いました。赤リンゴ仲間と同じように青リンゴ仲間達もまたお互いの仲はいいのです。ただ、普段集まりがそんなに良くないと言うだけで。話も終わったと言う事で林檎はいちごに言葉をかけました。


「そう言う事。じゃあ行くね」


「うん、またね」


 これでいちごとの話は終わったと感じた林檎は他のメンバーに声をかけるべく教室を後にします。残りのメンバーは後2人、すぐに行き先が思いつくのはその内のひとりでした。

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