おばあちゃんの話
第23話 おばあちゃんの話 前編
泰葉は久しぶりにおばあちゃんの家に遊びに来ていました。もう高校生ですからね、勿論ひとりで交通機関を乗り継いでやって来たんですよ。実は彼女がひとりでおばあちゃんの家に来たのには理由がありました。どうしても聞きたい事があったのです。
おばあちゃんの家に着いた泰葉は挨拶を済ますとおやつの準備をしているおばあちゃんに話しかけました。
「ねぇ、おばあちゃん。前から聞きたかった事があるんだけど」
「何だい泰葉、藪から棒に」
棚から買い置きのお菓子を出しながらおばあちゃんは聞き返しました。少し大きめのお皿に個包装のチョコビスケットを並べて泰葉の前に置きます。
飲み物は冷蔵庫からカルピスを取り出して、それを水で薄めました。少し濃い目のカルピスが氷と共にコップに注がれ同じように置かれます。
用意されたお菓子を手につまみながら泰葉は口を開きました。
「あのさ、あのリンゴってどこから買ってるの?」
そうです、食べると不思議な能力に目覚めるあのリンゴについて詳しく行こうと彼女はひとりでここにやって来たのです。
「買ってないよ。あれは売り物じゃないんだ」
泰葉の質問におばあちゃんはそう答えます。考えて見れば特殊なリンゴなのですから、普通に売っている訳がありませんよね。
けれど売っていないとすれば、どうやっておばあちゃんはそのリンゴを手に入れているのでしょう?リンゴ農家に知り合いでもいるのでしょうか?
リンゴの入手方法について全く想像がつかなかったので、彼女はさらに質問を続けます。
「どう言う事?」
「いい機会だから話してあげるよ」
おばあちゃんは自分の分のカルピスを一口飲むと、遠い目をしながらこのリンゴを手にするようになった話を聞かせてくれました。泰葉のカルピスの入ったコップの氷が少し溶けてカランと鳴ります。
「あれはまだ私が若い頃だったねぇ……」
それからおばあちゃんの昔話が始まりました。その話は遠い遠い昔のおとぎ話のようでにわかに信じられるものではありません。
何故なら話の最初からおばあちゃんはとんでもない事を言い始めたのです。
「え……?おばあちゃん蛇だったの?」
「そうだよ。信じられないだろう?じゃあ話を続けるよ」
おばあちゃんは昔、黒い小さな蛇だったのだそうです。その頃はライラと言う名前でした。彼女は生まれた地を離れ、楽園を目指して旅を続けていました。
この世のどこかにある楽園は、全ての生き物が幸せに暮らしている愛と平和に満ちた場所です。様々な困難を乗り越えてライラは楽園らしき場所に辿り着く事が出来ました。
「やった!ついに楽園に辿り着いたよ!」
ライラは楽園に着いてそれはもう感動していました。ここの来るのに苦労の連続だったのだから当然です。楽園では目に入るどんな生き物もみんな楽しそうに平和に暮らしています。肉食動物も草食動物も仲良しで、日々笑って踊って歌って暮らしていました。彼女もすっかりこの場所を気に入ります。
ある日の事、この楽園を隅々まで知りたいとライラが歩きまわっていると、小高い丘にその場所にそぐわないくらいの立派な木を見つけました。
「すごい大きな木だねえ……実もなっているよ」
楽園は植物もみんな瑞々しく育っていて、見た目にも立派で美しい物ばかりでしたが、その中でもこの木の造形の素晴らしさは特別でした。この木を見つけた彼女はひと目で気に入ってしまいます。しばらく木を眺めていると彼女に語りかけてくる声がありました。
「おお、蛇よ、この木が気に入ったのか」
「ああ、気に入ったよ、とても立派じゃないか」
どこからともなく聞こえてきた声は、しかし声以外は全く分かりません。声の主がどこにも見当たらないのです。それはまるで空から声が降ってくるような感じでした。それでも彼女はその声に恐れを抱く事もなく、普通に接しています。それはその声がどこか親しみのある優しく慈愛に満ちた声だったからなのかも知れません。
その声はこの木を気に入っているライラに頼み事をして来ました。
「じゃあ儂の代わりに見守っていてくれぬか。最近はこの木を狙う者が多くてな」
「なんでこの木が狙われるんだい?確かに見た目は立派だけど、他の木とそんなに違うようには見えないよ」
その声の頼みはこの木を守って欲しいと言うものでした。何故守らなくてはいけないのか分からなかった彼女は声にその理由を求めます。
「この木は特別な実が実る。みんなその実がお目当てでな。守ってくれたら実った実を好きなだけ食べていい」
「いいのかい?」
どうやらこの木に実る実の為に監視役が必要と言うの事のようです。見返りは実ったこの木の果実、それも欲しいだけ食べていいと言います。この気風の良さにライラは心を動かされました。声は彼女を説得しようと監視の必要な理由を更に続けます。
「ああ、いいとも。この実は実り始めるといくらでも実る。だが実る前に荒らされるとひとつも実が熟さないのだ」
「実を食べるのが目的なら、実が出来るまで誰も荒らさないんじゃないのかい?」
改めて木を見上げると幾つもの実りかけの実は青い色をしています。きっと熟すともっと鮮やかな色になるのでしょう。声の言葉が本当なら、この青い状態の実を食べようとする生き物がたくさんいると言う事になります。
しかし普通に考えて、果実と言うのは熟した方が美味しいに決まっています。ライラはそれを疑問に思ったのです。わざわざ未熟の果実を好んで食べようとする、その理由が分かりませんでした。
「この実は熟す前に食べるとすごく強い力が手に入る。みんなそれが目的なのだ」
「いい事を聞いたよ。私もその熟す前の実を食べたいねえ」
声が言うには、未熟な状態の青い実を食べるとすごい力を得られる為に、その力を欲しがるものが後を絶たないと、そう言う事のようでした。この話を聞いた彼女はちょっと冗談交じりに返事を返します。ライラの言葉を聞いた声はすぐにそれを戒めるように青い実の真実を語りました。
「青い実は強い力も与えるが毒でもある、力と引き換えに早死にしたいのか?」
「そうなのかい?それは御免こうむるよ。しかしみんな死と引き替えにしてでも力が欲しいんだねえ」
声が言うには青い実は力と引き換えに寿命も縮めると言うものでした。いくら力を得られても長生き出来ないのじゃあ割に合いません。彼女はすぐに青い実を食べようと思うのを止めました。そうして声はこうも続けます。
「熟した赤い実も弱いが食べればちゃんと力が手に入る。しかもこちらは副作用なしだ。味もうまいぞ」
「どんな力が手に入るんだい?望みでも叶うって言うのかい?」
この言葉を聞いたライラは俄然熟した果実の方に興味を抱きます。楽園に来たのは力を手に入れる為じゃなくて、幸せに暮らしたかっただけなのですが、ここまで話を聞いてしまった以上、もう湧き上がる好奇心を留める事は出来ませんでした。
「実の力が体に合えば望みも叶うだろうよ。どうだ?やってくれぬか?」
「面白そうだねえ。分かった、やったげるよ」
ここまで聞いてやる気が出て来た彼女は、その声の頼みを聞く事にしました。この木に実る実が熟すのが楽しみになっていたのです。
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