第22話 その名は林檎 後編
そんな沈黙の中でふと何かを思い出した桃が2人に対して最近耳にした噂を何気なく話し始めました。
「そう言えばさ……」
沈黙の後に話し始めたせいもあって、彼女の話に一緒にいた2人は自然と注目します。
「この間私達の事を嗅ぎ回っていた女の子達がいたらしいよ」
「えっ、マジ?」
これは先日泰葉達がこのリンゴ達の事を調べていた事を指しているのでしょう。この話を聞いてリンゴは驚愕します。
「その子らは見た目、私達と同じくらいの年齢っぽかったって。5人位の集団だったって」
知らない人間が自分達の事を嗅ぎ回っているだなんて、こんなに怖い事はありません。桃の話を聞いた林檎はつばを飲み込んで、思わず言葉を漏らします。
「何それ、怖い」
「私達、行動を秘密にしてないから、どこからか話が漏れちゃうんだろうねー」
「別にコソコソする必要なんてないもの。いちごとか警察にも協力してるんでしょ」
ここで話に出て来たいちごって言うのはリンゴの仲間のひとりで、その能力を使って未解決事件の解決に一役買っている少女です。
彼女達は泰葉達と違ってその能力をオープンにしているので、いずれ自分達の知らない所で勝手に話題になってしまう事はある意味想定内ではありました。
ここまで黙って話を聞いていたみかんは話が盛り上がっていた2人に提案します。
「じゃあ今度はこっちから向こうに出向いちゃろーか」
「お、いーねそれ。じゃあ次のテーマはそれだね」
この話に乗ったのは最初にこの話題を切り出した桃でした。みかんと桃はノリノリで話を進めます。じゃあ林檎はと言うと、ちょっと慎重に考え込んでいました。軽はずみにそんな事をしても大丈夫か心配をしているようです。
「でもその人達が怖い人達だったらどうしよう?」
「だからいきなり行動に移す訳じゃないよ。まずは情報収集」
この林檎の心配に対して、桃は自分の考えを述べました。安全なところから情報を集めていって危険がないと確認出来た時に限り、調べていた少女達に接触しようと言う話のようです。
この彼女の話を聞いて無鉄砲に動く訳じゃない事が分かって林檎は安堵しました。
「良かった。だよねぇ」
この林檎の言葉に対し、桃が言葉を返します。
「でも絶対私達の方が強いって!みんなの力は半端ないもん」
「別に喧嘩しに行く訳じゃないでしょ。飽くまでも穏便にね」
やや好戦的な桃に林檎は落ち着くように言いました。慎重派の林檎に対し彼女はもう少し現実的な考えを持っているようです。林檎の顔をまっすぐ見つめながら、桃は自説を展開します。
「いや、私もそう思ってるよ。でも何が起こるかなんて分からない訳じゃん」
この桃の話を聞いてみかんが口を開きます。
「そんな雰囲気になったら私が止めるよ。林檎も桃も私の力、知ってるでしょ」
「あ、そっか、みかんの洗脳があれば安泰だね!」
桃はみかんの話を聞いてひとり納得しました。この言葉からみかんのリンゴ能力は洗脳能力のようです。人の記憶を強引に書き換える洗脳。
記憶を消去する事も、逆に捏造する事も彼女にとっては造作もない事です。
しかし、その能力を使う事を彼女自身は強く否定しました。
「それは最終手段、私の力は心を読む読心だから。洗脳なんて1日ひとりが限界だよ。使いたくもないし」
どうやらみかんの能力は洗脳だけでなく心を読む能力もあるみたいです。この彼女の話しっぷりから見て洗脳が一日ひとりが限界なのに対して読心は特にそんな制限はなさそうです。そして洗脳は使うとかなり疲弊すると言う事も分かりました。
このみかんの言葉に桃も同調します。
「そうだね、私も一緒。力は使いたくないよ。疲れちゃもんね」
力は泰葉達に比べてかなり強力な青リンゴ能力者達ですが、使うと疲れてしまうなどリスクは少なからずあるみたいです。と言う事は、能力を持っているとは言え、使用するには事前に計画を練るとか、しっかり考えないといけないと言う事になりますね。
このリスクばかりを気にする2人に対して、林檎は少し楽観的な意見を述べました。
「とにかく、いい出会いになるかも知れないんだから、最初から喧嘩腰はやめてよね」
「わ、分かったよ。みんな私に厳しいなぁ」
林檎に注意されて桃はしゅんと小さくなります。それでもその言動がみんなを守る為だと知っていたので、彼女もそれ以上きつくは言いませんでした。
それからはまた話も変わってみんな和気あいあいと帰路を楽しみます。
やがて3人はそれぞれの家への別れ道にさしかかりました。まずは林檎がみんなに声をかけます。
「それじゃあまたね!今日は楽しかった!おごってくれて有難う!」
「またね!」
「また明日!」
こうして3人はそれぞれの家に帰っていきました。ゲームセンターで長時間遊んだので、もうすっかり夕日は大地に飲まれています。空に輝く一番星が家に戻る3人を優しく見守っているのでした。
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