子猫騒動

第17話 子猫騒動 前編

 楽しい隣町探索を終えて次の月曜日、泰葉達は仲良く学校に向かっていました。家が同じ向きなセリナとゆみの3人で朝はいつも合流して登校しているのです。学校に向かいながら話す話はやっぱり先日の隣町探索の話でした。まずは泰葉がセリナに話しかけます。


「昨日は楽しかったね」


「また行こっか」


「でもあんまり頻繁に行くとお小遣いが……」


 泰葉はゲームセンターでお金を使い過ぎて早速金欠気味です。実際、あの時はみんなそれぞれに散財はしていたものの、一番浪費していたのは彼女でした。今度はそんな泰葉の懐具合を察したゆみが彼女の顔を覗き込みながら茶々を入れます。


「だよねぇ~」


「次は遊ばなければいいんじゃない?」


 この茶々にセリナもすぐに反応します。

 でもそれは、折角遠出したのにお金を使わずに済ますなんて出来ないだろうと言う意味を込めての言葉なのでした。


「確かにね」


 2人の意見を聞いて泰葉はそう軽く返しました。言いたい事を薄っすらと感じ取った彼女はこう返す事で話を別の話題に切り替えようと思ったのです。

 それから3人はコロッと話題を変えて昨日見たテレビの事や学校の話題などを話しながら学校を目指すのでした。


 教室に着いて最初に目に入った生徒に泰葉は自然に朝の挨拶を交わします。セリナとゆみはそのまま取り敢えず自分の席に着席しました。


「おはよー」


「響っち、おはっス!」


「おはよ、ルルは朝から元気だねぇ」


「元気だけが取り柄っス」


 朝からテンションの高いルルは、けれどその天性の爽やかさもあって挨拶をした泰葉にパワーをくれるようでした。明るくよく通る声は朝の時間にぴったりとも言えます。泰葉は彼女と何か話そうと頭の中で話題を探します。するとすぐに閃くものがあったようですぐに彼女に声をかけました。


「部活、いい感じでやってる?」


「勿論っスよ。まぁすぐに字は上手くならないんスけどね」


 ルルはリンゴ能力に目覚めてからは書道部に通っています。それまで授業以外で筆を触った事がなかった彼女にとって書道はほぼの未知の体験で、その実力はまだまだ初心者の域を出いていないのでした。明るく話すルルを見ていた泰葉は元気付けるように彼女に声をかけます。


「続けていればきっと上手くなるよ」


「ありがとうっス!」


 泰葉のアドバイスを受けて、ルルは屈託のない笑顔を浮かべて彼女に感謝の言葉を述べました。泰葉も彼女の笑顔を見てほっこりしています。

 その後も他愛のない話をルルとしていると教室にアリスが入って来ました。そうしてアリスの方から泰葉に朝の挨拶をしてきます。


「響、おはようございマス」


「あ、おはようアリス」


 アリスの挨拶を受けてワンテンポ遅れて泰葉も彼女に挨拶を返しました。そうして泰葉の周りに3人が集まる形になります。ルルもアリスも泰葉の席からは少し離れているのですが、彼女達は机に道具を収めるとすぐに泰葉の前に集まってきていました。


 そんな状況が少し面白くないのか、ゆみとセリナの機嫌がほんの少しだけ悪くなりました。


「全く、みんな響、響って!私らもいるんですけど!」


「あ、すみまセン!セリナ、ゆみ、おはようございマス」


 アリスはゆみとセリナに挨拶をまだ済ませていない事に気付いて焦って彼女達に挨拶をします。取ってつけたような挨拶でしたけど、言われた2人は満足したように笑顔になっていました。ルルはアリスの行動を見てワンテンポ遅れて彼女に続きます。


「以下同文っス!」


「ルルってば……」


 このルルの対応に言われた2人は思わず苦笑いをします。

 けれどその御蔭で少し険悪になりかけた場の雰囲気が元に戻りました。ムードメーカーって大事ですね。


 挨拶の一件が終わった事で手持ちぶたさ気味になった泰葉は集まったみんなに改めて声をかけました。


「ところで……」


「何スか?」


 ルルがすぐにこの言葉に食いつきます。彼女は結構話し好きみたいですね。ルルの返事を受けて彼女の方を向いた泰葉はニコっと笑って話を続けます。


「何か面白い話題ない?」


 この何とも大雑把な問いかけにルルの動きが一瞬止まります。きっと何かいい話のネタを出そうと頭の中をフル回転させているのでしょう。

 この頃にはゆみとセリナも泰葉の周りに集まって来ていて、いつもの集団が形成されていました。泰葉の質問を受けて上を向いたり斜めを向いたりして面白い話題ネタを懸命に考えていたルルは、結局何も思い浮かばなかったらしく、泰葉にギブアップ宣言をします。


「ないっスねぇ~。アリスっちは何かないっスか?」


「私も何も思い浮かばないデス。ごめんなさい」


「いやいや、謝る事ないから!」


 繊細な性格のアリスは何でもすぐ謝る傾向があります。そう言うのって日本人らしいなとも思うのですが、友達同士でそんな気遣いはいりません。泰葉は彼女のそんな繊細な部分を打ち解け合う事で少しでも直していけたらなと思いました。

 話のネタが出ないと言う事で話題が停滞すると、今度はルルが泰葉に文句を言います。


「そもそもこう言う時は響っちが何とかするもんじゃないっスか?」


「そんな事言われても……」


 突然名指しされた泰葉は、当然のように困惑してしまいます。何故自分がそう言う事を言われなくちゃいけないのか見当もつきません。口ごもってしまった彼女を見てルルが言葉を続けます。


「リーダーがこれじゃ先が思いやられるっスねぇ」


「ちょ、ま、何で私がリーダーなのよ!」


 ルルの言葉に泰葉は異議を唱えます。いつから自分がリーダーになったのかと。この指摘にルルは自説を声高々に唱えます。


「だって一番最初に能力に目覚めたんじゃないスか!そう言うのって初めに目覚めたのがリーダーになるのはお約束っス!」


「だってさ、響リーダー」


 このルルの説にゆみが面白半分で乗っかってきました。初めて聞く響リーダーと言う言葉が馬鹿にしているように感じて泰葉は憤慨します。


「からかわないでよ!それに私、リーダーって器じゃないし」


 そう言いながら思わず立ち上がった彼女を見て、幼い頃から一緒に行動しているもうひとりの友人のセリナはポツリと言葉を漏らします。


「そう言えばいつも全員で集まって団体行動している訳でもないし、リーダーって考えた事もなかったなぁ」


「じゃあ今までリーダー不在だったっスか?」


「ルルとアリスが見つかるまで3人だったし、友達同士で誰がリーダーとかないでしょ」


 ルルのこの疑問にセリナが答えます。確かに2~3人のグループなら特にリーダーとかを決める必要もないでしょう。その時々に行動の中心が変わるのもよくある話です。この話を聞いてルルは改めて自説を展開しました。


「でも数が5人に増えたっス!リーダーはいた方がいいっスよ」


「体育会系だなぁ」


 ルルの熱弁を聴いてセリナはそんな感想を漏らしました。団体のリーダーを決めたがるのは体育会系、そんな思い込みが彼女にはあるみたいです。

 一連の会話の流れを黙って聞いていたアリスも思うところがあったのか、ここに来て会話に参加しました。


「あ、でも私も何か決めなくちゃいけない時は仕切る人が必要だと思いマス」


「アリスまで……」


 アリスはこの会話に参加しないと思っていた泰葉は彼女の言葉を聞いて少し落胆しました。流れで自分がリーダーにされそうな事を危惧した彼女は、そうされないように工作を図る事にします。


「でも本当に決めるとしたら、目覚めた順番とかじゃなくてちゃんとリーダーが出来る人を選んだ方がいいよね」


 こう言えば安直決めるのではなくて、みんなリーダーについて真剣に考えてくれるだろうと泰葉は踏んだのです。

 けれどこの言葉を聞いてゆみはすぐに安葉の裏の意図を読み取りました。


「響、あんた責任を取りたくないだけなんじゃないの?」


「い、いや、そんな事は……」


 図星を突かれた泰葉は思わずどもってしまいます。一旦椅子に座り直して黙ってしまいました。この様子を見たセリナは助け舟を出そうと、盛り上がっているみんなを前に口を開きます。

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