第16話 青リンゴの噂 後編

 彼女もまたかなり核心的な情報を掴んでいました。能力者の数と初めて聞く能力者の能力。洗脳能力なんてどうやって知り得たんだろうとも思うのですが、もしかしたら能力者自身が周りにその事を伝えているのかも知れません。


「洗脳……怖いね」


 洗脳と言う言葉の恐ろしさに泰葉は思わず小声になりました。能力の話になってアリスが次は自分の番だと口を開きます。


「発火能力って言うか、火を扱う能力者もいるって話デス」


「嘘?それってまるでマンガやラノベの世界だね」


 発火能力と聞いて思わずセリナが反応します。彼女はオタク気質なのでついこの言葉に反応してしまった様子。きっと中二病的な妄想が今彼女の脳内イメージで展開されている事でしょう。話のネタとしてなら面白いですが、実際に会ったならとても怖い話でもありました。

 この能力の話にゆみが自分達の事を話します。


「私達の中にはそんな攻撃的な能力者はいないもんね」


「ルルの能力はある意味それに近いけど」


 攻撃的な能力と言う事で思わず泰葉が口を滑らせました。その言葉を聞いたルルが顔を赤らませて手を振るジェスチャーをしながら反応します。


「やめてくださいよ!照れるっス!」


 この彼女のしぐさに全員が笑いました。そうして話している間に、次々に注文していたメニューが彼女達の目の前に並びます。


 話はここで一旦一区切りと言う事にして、楽しい食事の時間が始まりました。

 流石評判になっているだけあってどのメニューも美味しそうで、またその通りに美味しいものでした。

 注文していたメニューを食べながらみんなそれぞれに料理の味を口にします。全員が全員、料理の評価は好評でした。


「うん!」


「美味しい!」


「これはいいよ!」


「いけるっス!」


「美味しいデス!」


 みんな思い思いに食事を口に運びながら、やがてある程度落ち着いた頃、みんなの話を聞いた泰葉は思った事を口にします。


「その子達は生まれつき能力者だったのかな?」


「流石にそれは能力者本人に聞かないと分からないよね」


 泰葉の素直な疑問にセリナは答えます。確かに能力者本人がその事を周りに知らさない限り、周りの人がその事を知るのは難しいでしょう。

 噂にその情報が出回っていない以上、その事に関しては部外者である泰葉達には知るよしもありません。

 ただ、そのヒントになりそうな情報をゆみは手に入れていました。彼女はセリナの言葉を聞いて口を開きます。


「あっ、それに関しては、つい最近そう言う活動を始めたらしいって話を小耳に挟んだよ」


「中学までは普通の女の子だったって話は私も聞いたっス」


 ゆみとルルの情報を総合すると、能力者は高校に入ってその力を周りに知られるようになったと言う事のようです。

 ただし、これがみんな高校生になって能力に突然目覚めたのか、高校生になったからみんなに公表したのかはそこまでは分かりません。

 ひとつ言えるのは可能性として高校生になってから突然能力に目覚めた可能性もあると言えると言う事です。この件に関しては今はこれ以上の事は追及は出来ませんでした。


 話が白熱している中、何かを思い出したのか突然アリスが口を開きます。


「あ、そうだ!その子達はみんな青リンゴがどうとかって言う言葉をよく口にしているってネットに書かれてマシタ」


「青リンゴ……これは穏やかじゃないね」


 アリスの発言を受けてラーメンのスープを飲み干したゆみが答えました。

 それぞれの話を聞いていた泰葉はその情報収集力の高さに感心してみんなに言います。


「なるほど、みんな優秀だなぁ。将来きっと優秀な探偵になれるよ」


 この泰葉の言葉を聞いてセリナは少し不満そうな顔をします。そうして食べていたカレーのスプーンを置くと一口水を飲みました。

 口の中をすっきりさせた彼女はおもむろに語り始めます。


「えー。私、別になりたいものがあるんだけど」


「えー、何々?アイドルとか?」


 セリナのなりたいもの――泰葉は彼女のその言葉にちょっとふざけて返します。

 その言葉が冗談だと分かっていながらもセリナは自分の夢の事なのでふざけた反応はせずに真面目に答えました。


「そこまで夢見てないよ!ほら、通訳とかしたいんだ」


「ああ~、翻訳能力があるもんね」


 このセリナの言葉にツッコミを入れたのはゆみです。彼女もまたセリナが真面目に翻訳家を目指しているのを知った上での愛あるツッコミでした。

 このゆみの言葉を受けてセリナは顔を真っ赤にしながら反論します。


「べ、別に能力に頼ろうとかしてないから!」


 この一連の会話の後にみんな笑い合いました。その後も噂の話を離れた楽しい会話は続き、やがてみんな食事を食べ終わります。

 みんなが食べ終わったのを確認して、泰葉が満を持したように言いました。


「それじゃあ、昼からは遊ぼっか。まずどこに行こう?」


 この彼女の言葉の通り、昼からはみんなで遊ぶ事になりました。この街には遊ぶ場所がたくさんあります。ウィンドウショッピングでも、書店巡りでも、映画でも、ゲームでも、ボーリングでも、カラオケでも――。

 5人は時間の許す限り楽しめるだけ楽しんで、とても充実した時間を過ごします。リンゴ仲間の絆が深まるそんな1日はこうして過ぎて行きました。


 しかしそれにしても気になるのはこの街にいると言うその能力者集団です。いつか彼女達と会う日が来るかも知れない――クレーンゲームを楽しみながら、そんな予感が頭をよぎる泰葉なのでした。

 ちなみにその時の戦績は2200円使って成果なしと言う残念なものだったそうです。

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