第15話 青リンゴの噂 中編

 と、言う訳で早速鈴香を除いたリンゴ仲間全員で隣町の噂を検証するプロジェクトが開始されました。

 作戦が開始されてすぐにアリスが少しビクビクしながら遠慮がちに言います。


「あの……私の能力を使エバ……」


 そう、アリスの無敵の能力を使えばそれだけですぐに噂の真相に辿り着けるのです。

 けれどリンゴ仲間の誰もが彼女の能力を使う事に否定的でした。最初に声を上げたのは泰葉です。


「ダメだよ!アリスの力は強力だけど後で頭が痛くなるんでしょ?詳しい事が分かるまでは出来るだけ使わない方がいいよ」


「そうっスよ!聞き込みは足で稼ぐのが一番っス!」


 そう言ってルルもアリスに能力を使わない事を勧めました。その顔は真剣そのものです。アリスはそんなみんなの心遣いが嬉しくて心がじんわり温かくなりました。

 この話を持ちかけたゆみもアリスを心配しつつ、このプロジェクトに隠された本当の目的を語ります。


「それに別にその子達が見つからなくてもいいのよ。みんなで集まって何か出来ればいいだけなんだから。噂の追求はそのネタなだけ」


「分かりマシタ。それじゃあ探偵ごっこを始めまショウ!」


 ゆみの本心を聞いてアリスも納得しました。つまりは噂の追求と言うのは遊ぶための口実のようなものだと。それで彼女もノリノリでこの遊びに参加する事にします。


 噂の探求チームは効率を考えて2つのチームに別れる事になりました。まずは泰葉のチーム、メンバーは泰葉とアリス。次はセリナのチーム、メンバーはセリナとゆみとルル。二手に別れて早速調査の開始です。


 調査方法は各々の自由な判断に任されたのですが、やっぱり街を歩く年齢の近い人に聞き込むのが基本になっていきました。

 ショッピングセンターとか若者が集まる場所にはそれなりの若者が多く歩いていて、両チーム共それぞれ積極的に話しかけていきます。


 人見知りなアリスは流石にみんなと同じように話しかけるのは難しく、スマホを使ってネット関係から真相を探ります。

 この聞込みで一番積極的に話しかけていたのは体育会系のルルでした。彼女の明るくて積極的なキャラは多くの人の心の扉を簡単に開けていきます。

 ただ、多くの人に話しかけはしたものの、重要な情報が聞けるかどうかは別問題です。話術で言えばゆみの方が一枚上手でした。霊達との対話で鍛えた話術がここで役に立っていたのです。


 調査の期限はお昼までと決めていました。それぞれがその時間まで積極的に情報を集め、やがて時間となります。

 最初に決めていた待ち合わせ場所にみんな集まって、調査の成果を話し合いました。


「やっぱり簡単には見つからないね」


「でも本人にはぶつからなかったけど、噂はいくらか聞けたよね」


 積極的に声をかけていればその内もしかしたら本人達に会えるかもと思っていましたが、現実はそこまで甘くはありませんでした。

 けれど能力者について知ってる人は意外に多く、中々の情報を集める事が出来たようです。

 泰葉は時間になって全員集まったのを確認したところでみんなに声をかけました。


「それじゃあ聞き込みの成果を発表がてらご飯にしましょ」


「大賛成っス!」


 この提案に一番元気な声を上げたのはやっぱりルルでした。彼女の目はもう食事の事でいっぱいになっています。

 泰葉は前の晩に調べていた隣町で一番評判のお店にみんなを連れて行きました。彼女自身がそのお店に行くのが初めてだったので何度もスマホの地図を確認しながらの少し頼りない案内です。そうして着いた場所は、地元にはない系列のファミレスでした。


「確かここのお店が評判だったかな」


「初めて入るお店は緊張しますネ」


 そのお店のおしゃれな外観にアリスが緊張して言いました。泰葉はそんな彼女に優しく声をかけます。


「大丈夫!みんな一緒だから」


「ハイ!」


 お店に入ったみんなは可愛い衣装のウェイトレスに案内されて道路側の見晴らしのいい席に案内されました。それぞれに渡されたメニューを見て今日の昼ごはんを何にするか頭を悩ませます。

 みんな初めて入るのでどのメニューが美味しいのか全く見当がつかないため、自分の食べたいメニューを選ぶのか、この店のおすすめを食べるのかで悩みに悩んでしまいました。


 メニューも流石にファミレスだけあって和食に中華、洋食と数が多く、簡単に選ばせてはくれません。みんなのそれぞれのメニューが決まるまで5分、いや10分位の時間が過ぎて行きます。

 やがてみんなメニューが決まったみたいなのでウェイトレスを呼ぶ事にしました。


「みんな、どれにする?私は天ぷらセットで」


 泰葉は和食のセットを頼みました。


「私はカツカレーのAセット」


 セリナはカレーのようです。


「ラーメンと餃子……」


 ゆみはラーメンのセットを頼みます。


「味噌カツ定食を頼むっス!」


 流石体育会系のルルはガッツリ味噌カツ定食を。


「マーボーハンバーグのセットでお願いシマス」


 アリスは意外にも中華のメニューを選びました。マーボーハンバーグだから中洋折衷と言ったところでしょうか。


 全員の注文が終わったところで早速みんなが集めた情報の発表会になりました。普通、メニューを注文して料理が運ばれてくるまでの間と言うものはどうしても暇を持て余してしまうものなのですが、今回は話す事が多くて料理が来るまでの間も退屈せずに済みそうです。


「で、成果はどうだった?」


「テレポートする少女ってやっぱり実在するみたいっスよ。同じ話を3人の人から聞いたっス」


 早速口を開いたのはルルでした。彼女によると最初に噂になったテレポート少女は実在するみたいです。

 同じ話を別々の3人が口にしたなら信憑性が高いと言えるでしょう。全員が同じ人物から話を聞いたのかもですが。


「私の聞いた話だと特殊な能力を持つのは全員女の子で同じクラスに在籍してるって……」


 次に口を開いたのはゆみでした。これはまた新情報です。同じクラスに在籍しているのを知っていると言う事は、この事を話してくれた人は能力者と同じ学校に通う生徒なのかも知れません。もっと詳しく聞けていたらもっと詳しい事が分かっていたのかも……。

 この情報を知った泰葉はポツリと呟きました。


「まるで私達と同じだね」


 この泰葉の呟きにセリナが反応します。その子達と自分達には同じようで違う部分があると。


「でも私達は能力の事を周りには言ってないけど、彼女達はその力を特に秘密にはしていないっぽい?」


「そうそう、逆に言えばそう言う能力がその子達の周りでは公然の秘密みたいになっているのかも」


 このセリナの言葉にゆみも同調します。確かにここまで話が漏れているなんて能力を周りに秘密にしていたなら有り得ない事でしょう。

 泰葉達も能力の事を特に秘密にしている訳ではありませんが、周りに知らせるような事はしていませんでした。なので泰葉達の能力を知る一般クラスメイトはいません。少なくとも泰葉達の知る範囲では。

 どんどん情報が集まる中、他に誰か情報を掴んでいないか泰葉は言葉を続けます。


「他に何か情報は?」


「能力を使える女の子達は全員で6人だって。中には洗脳しちゃうような怖い能力の持ち主もいるって……」


 ここで満を持して口を開いたのはセリナでした。

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