彼女達の日常
青リンゴの噂
第14話 青リンゴの噂 前編
「ねぇ知ってる?」
「何が?」
話は突然噂話から始まりました。噂好きのゆみが泰葉に話しかけます。突然話しかけられた泰葉はどんな噂だろうかと胸を躍らせました。
次の言葉を待つ彼女の興味津々な顔を見ながらゆみは言葉を続けます。
「私達みたいなのが隣町にいるって」
「えっ、初耳なんだけど」
彼女の口から発せられた私達みたいなのと言う言葉――それはつまり、リンゴ能力者と言う事。リンゴが原因と言う所はまだ分からないにしても、特殊能力を持つ人が自分達の他にもいるって噂なのは確かな訳で。そんな話なんて今まで一度も聞いた事がない泰葉は、ビックリして思わず聞き返してしまいました。
「それって噂だよね?誰か確かめたの?」
この思わぬ彼女の追求に、話を持ちかけたゆみもちょっと困ってしまいます。この話は軽いネタのつもりだったのですから。
「詳しい事は分からないけど……」
「噂は前から広まってたの?」
「私が聞いたのは昨日だけど」
どうもゆみがその噂を聞いたのは昨日の事だったようです。2人がその話に熱中しているとルルがその環の中に割り込んで来ました。
どうやら彼女もこの噂に興味津々のようです。
「噂の出処を遡ってみるっスよ!」
「だねー」
そんな訳で、意気投合した2人は噂の出処を探る事にしました。話を持ちかけたゆみもその動きに同調します。そして3人が面白い事をしていると言う事で、後でセリナとアリスもこの噂の追求に参加しました。
まずは行動力が半端ないルルがクラス内でこの噂を広めていたひとりに接触します。彼女、井出希美は噂についてこう話しました。
「うん、実際見たって人がいるらしいよ?」
「誰っスか?」
「1組の吉田君」
「サンキューっス!」
有力な情報を得たルルはそのままその生徒の元へと向かいます。1組はその頃、次の授業が移動教室だったので教室内がざわざわとせわしなくしていました。そんな中、ルルは素早く該当生徒を聞き出し、移動の為に焦っている彼から話を聞く事に成功します。
その吉田君が言うにはそれは先日の休日に遭遇した話で、記憶がまだ新しいのでハッキリ覚えていると言いました。
「ああ、見たよ。アレは駅前だった。その子は――」
吉田の話はルルにとってともても衝撃的な内容でした。彼自身、自分の見たものがすごすぎて半信半疑でまだ誰にも詳しい話はしていないとの事。
わざわざ自分を訪ねて来たルルがあまりにも真剣なので、彼女になら話してもいいかなと思って真相を話してくれたのです。
爆弾情報を持ち帰ったルルは、早速クラスで待つ泰葉達リンゴ仲間にその事を伝えます。
「すごい事を聞いて来たっス……」
「ええっ!もう真相に辿り着いたの?どんな話?」
余りに早く真相に辿り着いたルルの行動力に泰葉は驚きました。そうして彼女の話に耳を傾けます。泰葉の周りに集まるリンゴ仲間達もみんな黙って彼女の話を聞く体制を作りました。ルルは軽く咳払いをして、自分の得た情報をみんなに披露します。
「テレポートしたらしいっす……その人。見た目の年齢は私達と変わらないくらいだって言ってたっス」
テレポート!そんなのが本当に存在するのかと流石のリンゴ仲間達も戦慄しました。この衝撃的な話を聞いて周りがざわめく中で、その話の詳細を聞こうとセリナがルルに質問をします。
「人前で姿を消したの?」
「いや、逆で突然現れたらしいっス。それを1組の吉田が見たって」
人が一瞬で消えたと言うのであれば、ちょっと何かに気を取られている間に見失ったって可能性もありますけど、急に現れたと言うのであればそんな見間違いと言う話でもなさそうです。と言う訳でルルの聞いたこの話の信憑性は高いと言わざるを得ませんでした。
この報告に周りが思い思いの事を喋り始めた中で、今度は同じように噂の真相を探っていたセリナが口を開きます。彼女も噂の真相を探ってある程度核心的な情報を聞き出せていたようでした。
「私が聞いた話と違うなぁ。私が聞いたのは噂だから信憑性は低いけど」
「セリナが聞いたのはどんな話?」
泰葉が具体的な事をセリナに尋ねると、彼女は話の情報源を明かして詳細な説明をします。
「4組の木村さんから聞いた話なんだけど、その子はサイコメトリーが使えるって……」
テレポートにサイコメトリー、どちらも超能力の定番の能力です。噂を信じるなら隣町には超能力者がいると言う事で間違いないようです。
こう言う話に詳しいメンバーには説明不要でしたが、あまり詳しくないルルはセリナに話に出ていた能力について尋ねました。
「サイコ……?何っスかそれ」
「簡単に言うと物を触るとその物から情報を読み取る事が出来るの。彼女はその力を使って警察に協力してるんだって」
セリナの説明にルルはへぇ~っと言った感じで納得しています。ただ、その理解からはどうしてサイコメトリーで警察に協力出来るかまでは分かっていない様子でした。
それからこの事に対しても色んな意見がまた飛び出します。その中でゆみがみんなに自分の考えを述べました。
「ねぇ、もしかしてテレポートの子とサイコメトリーの子は別人なんじゃないかな?」
「その可能性は高いね」
「私達みたいに複数の能力者がいるのかも知れませんネ」
ゆみの意見に泰葉もアリスも同調し、みんな納得しました。そして話を聞けば聞くほど自分達との違いが浮き彫りになって来ます。
その能力の話と自分達を比較したセリナはみんなの前でついポツリと漏らしました。
「でもその子達の能力、私達のよりすごい気がする」
このセリナの言葉を受けて泰葉がギャグっぽく返します。
「私達のはどっちかって言うとへっぽこだもんね」
「別にいいんじゃないの?別のその子達と戦う訳でもないんだしさ。向こうは向こう、こっちはこっちだよ~」
噂話で盛り上がったこの話を締めたのはのんびり者の鈴香でした。彼女の言葉にみんなうんうんとうなずきます。
結局、分かった事と言えば隣町に複数の超能力者がいるらしいと言う事だけでした。もしかしたら噂を詳しく辿ればもっと多くの能力者が見つかるのかも知れません。
噂話を調べて情報を共有化したみんなは、隣町にすごく興味を抱くようになっていました。そんな流れの中で泰葉が口を開きます。
「まぁでも詳しい事が知れたら知りたいところだよね」
「じゃあさ、ダメ元で次の休みにみんなで隣町に行ってみようか」
「そうだね、賛成!」
泰葉の話を受け、ゆみが提案し、みんなその話に乗りました。そんな訳で次の日はリンゴ仲間全員で隣町に噂の真相を探る事に決まります。
そしてあれよあれよと時間は過ぎて、当日の朝になりました。待ち合わせの場所にみんな集まったのですが……。
「やっぱり鈴香は来なかったか……」
「彼女、休みの日は昼まで寝てるって」
泰葉はそう言って笑います。メンバー全員鈴香の性格は知っているので、この事で文句をいう人は誰もいませんでした。
鈴香と仲の良いゆみが場を仕切るようにみんなを前にして笑顔で口を開きます。
「鈴香らしいじゃない。全員揃う必要もないし今日はこのメンツで探しましょ」
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