第13話 アリスの場合 その4
「困ったな……時間制限のある能力なんて初めてのパターンだから」
事態を収束させるには多くのデータが必要です。今回の場合、正しく判断するにはデータがまず少な過ぎました。今はアリス自身が色んなパターンを試してみて、そこからどう対処していいか解決の糸口を探すしかないのではないかと泰葉は判断しました。
しかし、それをそのままアリスに伝えるのを彼女はためらってしまいます。何故なら、アリスは能力を使う度、最後に強い頭痛を引き起こしてしまうからです。
「自己暗示がいいんじゃない~?」
その時、隣のベッドからそうアドバイスする聞き慣れた声が。2人がその声のした方を見ると今朝から姿を見せていなかった最後のひとりがそこにいました。彼女は気の抜けた笑顔を見せながら2人に手を上げて挨拶をしました。
「鈴香!こんなところにいたの?」
「やあ、おはよ~。多分アリスの能力は1日10分しか使えないんだよ~」
「はい、私もそう思いマス」
鈴香は隣のベッドで横になりながら2人の話をずっと聞いていたみたいです。そして話を聞きながら自分の意見をしっかり考えてくれていたみたいでした。こう言う時の彼女の言葉は意外と的を射た物が多いのです。今回も鈴香は眠れる獅子のごとくアリスに的確なアドバイスをしてくれました。
「次に発動した時でいいから、私はコントロール出来るって強く念じてみて~。きっとそれで出来るようになると思うよ~」
「……分かった!やってみマス!」
「それじゃあ、私はまだ眠いから寝るね~」
言いたいことを言い尽くすと鈴香はまたベッドにくるまって寝てしまいました。彼女は本当に体調が悪くてここで休んでいたのか、ただ眠いからここで寝ていたのか――それは鈴香以外には誰にも分かりません。
ただ、一緒にいた泰葉はそんな鈴香の態度に呆れつつも、アリスを助けてくれた感謝の思いでその幸せそうな寝顔を見つめていました。
(こう言う時ばかり有能になるんだから、この子は……)
アリスの悩みが一段落ついたところで、改めて泰葉は彼女に謝りました。自分のしでかした事が原因でこんな事になってしまったのです。
能力を発動させて仲間を増やしたいと思った行為が、相手に頭痛を伴わせるほどの悪影響を与えてしまった……。こんな事はあってはならない事です。しっかり謝って自分の罪を許してもらおうと、深々と頭を下げてアリスに許しを請いました。
「アリス、ごめんね、私のせいでこんな」
「いえ、制御出来れば何も問題ないデス!」
「うん、うまくいく事を願ってるよ」
アリスに許してもらって泰葉はほっと胸を撫で下ろしました。本来ならここで彼女をリンゴ仲間に誘うのがいつものパターンなのですが、アリスの能力から言って何となく自分からは言い出しにくい雰囲気になってしまいました。能力に目覚めたからって即その力を使わないといけないって事は全然ないんですけどね。
泰葉が自分と同じ境遇の友達が欲しいって言う事で始めただけなのですから。
泰葉がモヤモヤとした自分の気持ちをどうにか制御しようとしていた時、アリスの方から少し恥ずかしげに彼女に声を掛けて来ました。
「それで、あの、良かったら……私も仲間に入れてくれまセンカ?」
「えっ?」
「あの、迷惑デスカ?」
まさかのアリスからのお願いに泰葉はびっくりしました。自分をこんな体にした相手なのに、軽蔑されないだけでも心が広いと思うのに。
軽蔑されないばかりか仲間に入れて欲しいだなんて言われて、泰葉が断る訳がありません。すぐに彼女のお願いを聞き入れました。
「そんな事ないよ!大歓迎だよ!本当はこっちから誘いたかったんだ」
「よろしくお願いしマス!先輩!」
いきなり先輩と言われて泰葉は焦ってしまいます。同級生なのに先輩と言うのは変だと思った彼女はすぐにアリスの言葉を訂正するように言いました。
「せ、先輩じゃないよ、私達クラスメイトじゃない!」
「でも、能力が目覚めた順で言えば響さんの方がかなり先輩デス!」
「いや、もう先輩とか後輩とかいいから!私そう言うの苦手なの!上でも下でもない、友達でいましょ!だから敬語もなしね、アリス!」
先輩後輩とかそう言う上下関係が苦手な泰葉は、折角リンゴ仲間になってくれたのだからと対等な立場を望みました。
彼女の言いたい事を理解したアリスは、その事を踏まえて改めて泰葉に返事を返します。
「え……うん、分かった、響!」
この返事をした時のアリスの顔が吹っ切れたような笑顔だったので、すっかり彼女の心のダメージは収まったと泰葉は感じました。それで安心して保健室を後にする事にします。隣には鈴香もいる事だしもう大丈夫だろうと。
「回復したら戻って来てね、みんなに紹介しなくちゃ」
「はい、こちらこそよろしくデス!」
こうして泰葉のリンゴ仲間にもう一人頼もしいメンバーが加わりました。高校生になって、新しいクラスになって、すぐに2人の仲間が出来たのです。
教室に戻りながら泰葉はその事がとても嬉しくなって、これからの高校生活はきっと楽しいものになるだろうなと、そう思ったのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます