第11話 アリスの場合 その2

 アリスの過去を聞いたゆみは、言いたくない言を聞いてしまったのではないかと後悔しました。彼女が友達付き合いに不慣れな理由を知って、自分の事のように同情してくれるゆみを見てアリスは焦って言葉を続けます。


「……あの、別にそれが苦痛って事じゃなかったんデス……な、慣れていましたカラ」


「もしかして、こうやって話しかけられるのって迷惑?」


「そ、そんな事……嬉しいんデス。友達がいるってこんな感じなのかッテ……」


 初めて友達が出来た喜びをアリスは心から感じていました。この繋がりをこれからも大切にしようと彼女は思います。

 そんなアリスを見て泰葉は彼女に優しく声をかけました。


「ゆっくりと仲良くなっていこ?時間はこれからたくさんあるんだし」


「きっとすぐみんなと仲良くなれるっスよ!」


 泰葉に続いてルルもアリスに声をかけます。泰葉の友達はみんなアリスに優しく接してくれました。

 この時、ちょっと閃いた泰葉はアリスに元気になるように言葉をかけます。


「アップルパイが食べたくなったらいつでも言ってね!どんどん作っちゃうから!」


「有難うございマス。たくさん食べマス」


 この泰葉の提案にアリスは涙ぐみながら明るく返します。この時泰葉が口に出したアップルパイって言葉に、ルルが敏感に反応しました。


「あっ!大食いなら負けないっスよ!」


「ルルが食べ始めたらどれだけ作っても足りないよー」


「食べ盛りっスから!」


 このルルの反応に周りのみんなは大笑いしました。優しくて明るい雰囲気に包まれて、アリスはとても幸せな気持ちになっていました。

 このクラスに転入して来て本当に良かった、日本に来て良かったと、この時彼女は心の底からそう思ったのです。



「ママ、最近学校楽しいんだ」


「そう、良かった」


 家に帰ったアリスはまた今日の事を母に話していました。娘が嬉しそうに話すのを見て、母も自分の事のように喜んでいます。

 楽しい会話は食事の後も続いて、母は食べ終わった後の食器の片付けをしていました。

 会話をしながら食器を洗っていたので、ちょっと注意力散漫になっていた彼女はつい手を滑らせてしまいます。このままだとお皿が割れてしまう!その瞬間を目にしたアリスはこの状況をどうにかしなくちゃと強く思いました。


「あっ!」


「ママッ!」


 気が付くとアリスは一瞬の内に母の側に移動していました。そうして落としかけたお皿をしっかりと掴みます。おかげで食器が割れると言う悲劇は起こらずに済みました。この行為に驚いた母は彼女に声をかけます。


「ありがとう。どうしたの?まるでヒーローみたいよ?」


「あれ?なんでだろう?」


 母に声をかけられたアリスは自分でも何故一瞬で移動出来てしまったのか分かりません。ただそうしたいと思っただけなのです。

 突然そんな能力に目覚めたとでも言うのでしょうか?不思議に思ったアリスは自分の力を試してみる事にします。


「えいっ!」


 アリスが試したのはテレビをリモコンではなく念で操作する事でした。試すなら他にも色んな方法があったのでしょうけど、その時ぱっと閃いたのがそれだったのです。アリスの念を受けてテレビはすぐに電源が入りました。

 本当に思った通りの事が出来てしまい、彼女は怖くなります。アリスはその力ですぐにテレビの電源を切りました。


「どうしたの?」


「いや、何でもない。部屋に戻るね」


「?」


 青ざめているアリスの顔を見て、母は心配そうに彼女に声をかけました。母を心配させまいとアリスは自分の部屋に戻る事にします。

 自分の身に起こった謎の現象をそこでもう一度じっくり検証しようと思ったのでした。


「もしかして、本当にスーパーパワーが?」


 部屋に戻ったアリスは取り敢えずスーパーパワーでイメージする事を試してみる事にしました。まずは自分ひとりの力では絶対に持ち上げられない重い物を念の力で動かしてみようとします。この部屋で一番重そうな物、それは本のぎっしり詰まった本棚でした。

 彼女は第一段階として、ただ願うだけで動くかどうか試します。取り敢えず本棚が浮かび上がるイメージを頭に思い浮かべました。

 すると本棚はまるで空のお菓子の空き箱のように、当たり前にふわっと浮かびます。本当に思い通りの事が出来てしまい、アリスは驚嘆しました。


「うわっ!」


 これで自分に念動力のようなものがある事ははっきりしました。今度は別の力もあるのかどうかその可能性も探ります。

 超能力で思い浮かぶと言えば、彼女の中で念動力の次に思い浮かぶものがありました。


「じゃあ、テレパシーとか……」


 アリスは心を鎮め、周りの人の心の声が聴こえると暗示のように強くイメージしました。するとまた当然のように心に他人の声がどんどん聞こえてきます。あまりに多くの声が突然聞こえるようになって、彼女はパニックになりました。


「わわっ!」


 アリスに突然目覚めた力は、イメージするだけでそれを可能にしてしまうと言う余りにも強力なものでした。

 しかし何故急にそんな力に目覚めたのか全く身に覚えがありません。彼女は自分が自分でなくなった気がして、現実を認められないでいました。


「こんなの……私じゃない……どうして?」


 混乱しながらアリスは机に放り出していたスマホに触ります。スマホの画面が目に入ったアリスは無意識にその充電状況を目にしました。

 スマホの残り電力は後5%を切っていました。やばい、充電しなくちゃ!そう思った矢先でした。


「嘘?充電が……」


 アリスがそう願ったからでしょうか?スマホの電池ゲージの表示が充電中に切り替わります。そうしてものの数秒でフル充電されてしまいました。

 スマホの充電すら自分の能力で出来てしまったのです。彼女の混乱はピークに達しました。


「何で?何で?何で?」


 この現象に理解に追いつけない状況で、アリスが次に何かを思った次の瞬間でした。強烈な頭痛が彼女を襲います。

 その痛みは今までに感じた事がないほどの激痛で、思わずアリスは部屋のベッドに転がって悶え苦しみました。


「うわぁぁぁーーッ!あ、頭がーッ!」


 それからは何かしたいと頭の中に思い浮かべる度にひどい頭痛が彼女を襲います。何度も頭痛を受けて、痛みの発生する仕組みを何となく理解したアリスは、何も願わないようにしてぼうっと天井を見つめていました。


「もしかして……制限時間が?」


 力が目覚めて頭痛が起こるまでの時間を彼女は思い出します。それは大体10分間でした。

 しかしそれから何かしたいと思う度に頭痛になってしまっては、まともな生活も出来ません。アリスはほとほとこの自分に目覚めた厄介な能力に困ってしまいました。ずっと頭を空っぽのままにする事なんて出来ません。

 ただ、あまりに色々な事が短時間に起こり過ぎたせいでしょうか?急にどっと疲れが襲ってきて彼女はそのまま眠ってしまいました。


 次の日の朝、目が覚めたアリスは取り敢えず何かを思ってみるのですが、この時には力は発動しませんでした。何だか狐につままれたような気持ちになりながらも、まともな生活が出来る喜びに打ち震えたのものまた事実でした。

 出来るならこのままずっと昨夜のような能力が目覚めなければいいとさえ彼女は思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る