第9話 ルルの場合 後編

 昼休みになって泰葉達は彼女の指定通り体育館裏に集まります。

 何故この場所に集まったかと言えば、人が多い所で能力を披露すると注目を浴びてしまうから。幸い、昼休みの体育館裏は誰もいなくて、こう言う能力を披露するのにうってつけの場所でした。


「で?私達にも判断させろと」


「こう言うのは数多くの人の判断も必要でしょ?」


「客観的に見るのは大切よね」


 泰葉の話を聞いてセリナとゆみも体育館裏に集まりました。2人共ルルの能力に興味津々です。泰葉を含め3人が指定の場所に来てくれた事で待っていたルルは感激の言葉を述べました。


「皆さん、よく来てくれたっス!嬉しいっス!」


「どもども~」


「あれ?鈴木さんは?」


「鈴香は机に突っ伏して寝てたから」


「ああ、いつものアレっスね。じゃあここにいる皆さんで見て欲しいっス!」


 ルルは早速自慢の足を披露しました。まずは通常の走りと、それから能力を発揮した走り。能力を発揮した走りは通常の4~5倍は出ている感じがしました。

 その違いを見た泰葉達は全員が感嘆の声を上げます。


「おお~」


「ねぇ、ルルのその力って走るの限定?」


 そう彼女に声をかけたのはセリナでした。特別早く走るだけの能力、泰葉達の目覚めたへっぽこ能力を考えると、そんな限定的な能力と言う可能性も捨て切れません。って言うかむしろきっとそんな感じなんだろうと彼女は推測したのです。


「それが全体的にパワーアップしてるんスよね。今から見せるっス!」


 セリナのある意味挑発的な言葉を受けて、ルルは自慢の力を走力以外にも披露しました。まずは垂直跳び、これも平気で5mくらいを軽く飛びます。

 次に握力と言う事で身近にあったおにぎりくらいの大きさの石を簡単に握り潰します。次はシャドーボクシング、ルルが軽く拳を繰り出しただけで強風が発生しました。

 他にもここが何もない体育館裏じゃなければ、重い物を持ち上げたりとか壁に穴を開けたりとか、やろうと思えば色々軽々と出来てしまいそうな雰囲気です。


 ここまで披露されてしまうと、もう誰もルルの能力に異を唱える人はいませんでした。それどころか全員がルルの能力に圧倒されてしまったのです。


「おお~」


「どうっスかね?」


「力を使う時、どんな感じになるの?力の調整は出来そう?」


 次に彼女に質問をしたのは泰葉でした。リンゴ能力の発動に個人差があるのか知りたかったのです。

 泰葉達は能力を初めて目覚めさせた時、能力が限定的だったりうまく使いこなせなかったりしたものです。今のルルを見ているとそんな素振りすら見せていなかったのが、泰葉にとってある意味とても新鮮に映っていました。

 もしかしたら、体力増強的な能力だから力をそんなに違和感なく使えるのかも?と泰葉は推測します。


「そうっスねぇ……力は自分の内側から別の何かがサポートしてくれる感じって言うか……。あっ、力の調整は出来るっスよ」


「あのアップルパイを食べてからなんだよね?そう言う事が出来るようになったのって」


「そうなんスよ。私は絶対これあのアップルパイのせいだって思ってるっス!」


 ルルの発言を聞いて、泰葉は彼女がリンゴ能力に目覚めたと確信しました。目覚めてすぐなのに能力の感覚をしっかり身に着けているなんてすごいと彼女は感心します。泰葉達今までのりんごメンバーはリンゴ能力を自分のものにするまで多少でも苦労をしていたものだったのに。

 ルルはそう言う苦労の部分をすっ飛ばして使いこなしている。世界は広いな、本当にすごい人はいるものだなと泰葉は思いました。


 自分の能力に絶対の自信を持って鼻息の荒い彼女を見ながら泰葉は彼女の能力に太鼓判を押します。


「多分間違いない、これはリンゴ能力だよ!」


「本当っスか!」


 自分の中に目覚めた未知の能力の正体が分かってルルは興奮しました。特殊能力!まるで自分が何かの物語の登場人物になったみたいだと彼女は思います。

 能力的に言えば体力が増強されただけなんですけど、きっと今後何かの役に立つだろうとルルは夢想しました。


 しかし、そんな彼女についてひとつ問題点があるとゆみは考えます。


「でも、困ったね」


「えっ?」


 このゆみの一言にルルはドキッとしました。自分の能力に何か問題でもあるのか、それとも自分の気付いていない欠陥が何か見つかったのか。

 彼女は緊張のあまり体を硬直させたまま、ゆみの次の一言を固唾を飲んで待ちました。


「だって高橋さんって部活やってるじゃない。確か陸上部だったよね?もし競技で本気出しちゃったら……」


「やっぱ、まずいっスよね」


「能力が部活と関係なかったら良かったんだけど」


 そうです。ルルの部活は陸上部、力の調整が出来るとは言え、何かの拍子に能力を使ってしまったらそれはドーピングと同じ事、他の選手と条件が違うと言うのはフェアじゃありません。

 純粋な体力の勝負にこの能力は邪魔でしかなかったのです。

 ゆみの言葉で事の重大さに気付いたルルはこの場できっぱりと決断します。


「分かったっス!部活は体力が結果に関係ないところにするっス!」


「えっ?いいの?」


「こんな体になってしまった以上、潔く諦めるっスよ!」


 彼女のこの思い切りの早さは流石体育会系と言ったところでしょうか。このルルの即決即断の態度を見て、泰葉達は感心するしかありませんでした。

 昼休みの残りの時間は、泰葉達の他のメンバーの能力の紹介などをしてしっかりと仲間の絆を深め合います。

 一気に3人の秘密を共有する友達が出来て、ルルは嬉しさでずうっと笑顔のままでした。


 放課後、ルルは部活に出て退部の事を友達のまゆに告げます。それは友達が出来なくて悩んでいる彼女に黙って退部するのは気が引けたからでした。


「えっ?部活を辞める?どうして?」


「ごめん、ちょっと事情が出来てしまったっス……」


「どう言う事情よ!話してよ!私をひとりにしないでよ!」


 案の定、まゆは必死になってルルの退部を止めようとします。

 でもルルはもう陸上競技をする事が出来ない事を自分自身で自覚していました。どれだけ幼馴染が止めたところで、この意見を変える事は有り得ないのです。


「事情は話せないけど、陸上はちょっと無理になったっスよ。だから別の部にするっス。まだ入る部活は決めてないけど」


 ここまで説明してルルはまゆの顔を見ました。寂しそうで今にも泣き出しそうな彼女の顔を見てルルはハッと気付きます。

 まゆは自分が陸上をやめるのが嫌なんじゃない、自分と離れるのが嫌なのだと。そこまで分かったルルは彼女に優しく声をかけました。


「……あっ、もし良かったら一緒にやらないっスか?」


「うん。ルルが誘ってくれるなら私もついてくよ」


 そうしてルルとまゆは揃って陸上部を辞めました。2人共素質的には将来有望な選手だったので、先生や先輩方からの引き止めはそりゃもうすごいものでした。

 けれど2人の決意は固く、時間は少しかかったものの、まだ入部して日が浅いと言う事などもあり、何とか円満に部活を辞める事が出来ました。


 その後、2人は次に入る部活を探して各部を転々とします。運動能力のある2人は色んな部に特別待遇で迎えられたものの、そのどれもが余りしっくりとは来ず、運動系のみならず文化系部活も色々と試し、最終的に書道部に落ち着きました。


 書道部では今流行の書道パフォーマンスなども行っており、結構体力を使う部活でもあったので2人にはピッタリの部活なのでした。

 2人共書道の腕前は素人レベルでしたが、顧問の先生の熱血指導などもあり、段々と実力を磨いていく事となります。


 何より書道パフォーマンスは部員全員がピッタリと息を合わす事も大事で、いつの間にか寂しがり屋のまゆにも沢山の友達が出来ていました。

 そんな彼女の様子を見てルルはこの部活を選んで良かったと安心したのです。

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