ルルの場合
第8話 ルルの場合 前編
「どうだったの?その、パーティって」
「うん、すごくいい雰囲気でよかったっスよ」
「そうなんだ、今度誘ってよ」
ルルは柔軟体操をしながら友達と会話をしています。彼女は陸上部。体を動かすのが好きなルルにはぴったりな部活です。
会話の内容はこの間のアップルパイパーティのようです。パーティーの様子を楽しく話すルルを見て友達も興味津々でした。
「きっとまゆも気にいるっスよ」
「クラス違うけど、いいのかな?」
「いいんじゃないかな?多分。響っちいいヤツだから」
ルルの友達の名前はまゆと言いました。クラスは泰葉達とは別な事がこの会話から分かります。
まゆは丸顔で、ルルと同じショートカットが似合うかわいい少女。
でも身長はルルよりも低くて160cmくらい。彼女は楽しそうに話すルルを見て少し寂しそうにこぼします。
「いいなぁ。ルルはすぐ友達が出来て」
「まゆだって」
どうやらまゆはルルが社交的な事を羨ましがっているようです。ルルは自分の意見を言いかけたものの、すぐに彼女の言葉に遮られます。
「私はまだ他の校区の子とは距離を感じるんだ」
「そっか、でもクラスではアレでも部活なら――」
まゆが寂しがっている理由が彼女の口から語られてルルは解決策を提案します。同じ部活をしている同士なら、きっとすぐに打ち解けられると彼女は思ったのです。
「だね、ちょっとずつ距離を縮めていかなきゃね」
「じゃ、ちょっと走ってくるっスよ」
準備体操を終えたルルはちょっと肩慣らし程度に走ってみる事にしました。普段通りに軽く慣らすはずだったのですが――。
彼女は体が異様に軽く感じられて、その流れでいつもの何倍もの早さで走ってしまっていました。
この感覚にルル自身が違和感を感じて思わず立ち止まります。
「あれ?」
「すごいじゃない、いつ練習したの?」
「や、練習なんてしてない……」
「え?」
この結果に何も知らないまゆはルルの成果を賞賛します。
けれど特に練習した訳でもないのにいつも以上の力が出てしまった事を、ルル自身は何か気持ち悪く感じてしまうのでした。
「何かやばい気がするっス」
「ちょっと待ってよ、理由はどうあれ結果が出てればいいじゃない」
「それはそうなんスけど……」
この結果に納得がいかないルルと、過程はどうであれ結果を喜ぶべきだというまゆ。意見が食い違った2人の間に何か微妙な空気が流れていくのでした。
数秒程度の沈黙が流れた後、まゆはまだ釈然としていないルルに話しかけます。
「まさかドーピングでもあるまいし」
「ドーピング?」
ドーピングと言う言葉にルルは反応します。もしかして最近食べた物の中に何か特殊なものがあったのかも知れない。
この体の異常を説明するのに一番簡単な理由がそれでした。彼女がいきなり考え込み始めたのでまゆはそんな彼女を心配します。
「どうしたの?」
ルルにはひとつだけ思い当たる節がありました。普段の食生活は最近も変わらないのでこれは除外していいでしょう。
ここ最近で普段の生活と違った出来事と言えば……、しかしそれはルルにとってもちょっと考えられない事でもありました。
「いや、まさか……」
「今度は私が走ってくるね」
ルルがずっと考え事をし始めたのを見て、これは今何を話しても無駄だと感じたまゆは自身の部活の練習を始めます。
結局この日のルルは練習に余り身が入らず、不完全燃焼のまま部活を終えたのでした。
次の日の朝、学校に登校したルルは教室にいた泰葉を見つけ、意を決して声をかけます。
「響っち!」
「あ、高橋さん、おはよ」
突然ルルに話しかけられた泰葉は少し驚いたものの、すぐに冷静さを取り戻して彼女に挨拶をします。
その挨拶を聞いたルルは、もっとフレンドリーに接してもらおうと言葉を返しました。
「ルルでいいっスよ!」
「じゃあ、うん、ルル、何か用?」
ルルのリクエストを聞いて早速呼び方を変えた泰葉は彼女の用件を聞きます。ルルは一旦呼吸を整えて話し始めました。
「用って言うか、こないだのアップルパイ……何か変な物入ってたっスか?」
「え?どうしたの?お腹でも壊しちゃった?」
「いや、お腹は大丈夫、美味しかったっスよ」
「なら良かった。何かあったの?」
変な物と聞かれてアップルパイに不備があったかと思った泰葉は、美味しかったと聞いてほっと胸を撫で下ろしました。
実際、彼女に何が起こったのか薄々とは感じてはいたものの、自分からは話さずにルルから話してくれるのを泰葉は待っていました。
そうしたら彼女は少し沈黙して……それから恐る恐る言葉を紡ぎ始めます。
「何かって言うか……笑わないでくれるっスか?」
「笑わないよ!当然じゃない」
「じゃあ言うっスけどね……実は……」
ルルは昨日の部活で起こった事を泰葉に話しました。
力を入れていないのに実力以上の力が出てしまった事。
それに対して思い当たる節が全然ない事。
今までと違う事をしたと言えば先日のアップルパイパーティしか思い浮かばなかった事。
泰葉は真剣に話すルルの言葉を黙って頷きながら聞いていました。
「そうなんだ」
「これ、アップルパイと何か関係があるっスかねぇ?」
彼女がアップルパイを食べて体の変化が現れたところまで把握していると実感した泰葉は、彼女に種明かしをする事にしました。
きっとここまで理解が進んでいるなら、リンゴの話をしても受け入れてくれるだろうと判断したのです。
「これ言うと信じてくれるかどうか分からないけど」
「えっ?」
ルルは最初、泰葉にこの事を話してもまともに取り扱ってくれないだろうと覚悟をしていました。一笑に付される覚悟で、それでもこれしか思い浮かばないと言う事を訴えたかっただけだったのです。
そうして話してみると彼女は笑うどころか黙って聞いいてくれて、しかもルルの体の変化の原因を何か知ってる風なのです。
ルルは泰葉の話を固唾を飲みながら聞き入っていました。
「実はあのパイは食べる人が食べると特殊な効果が現れる特殊なパイだったの」
「マジスか?」
「信じられない?」
泰葉は真剣な顔をしてルルに秘密を明かしました。リンゴパワーを実感した今、ルルはそれを疑う理由がありません。
自分の推測が正しかった事を実感したルルは、泰葉にもっと詳しい事を聞こうとしました。
「じゃあ、響っちもすごいパワーを?」
「私は別の能力が目覚めているのよ。人によって効果は違うんだ」
「ちなみに響っちのは?」
泰葉はルルに聞かれるままに答えていきます。ルルもこの力に興味が出て来て質問が止まりません。
もう同じリンゴ仲間だと言う事で、泰葉は自分の能力も包み隠さずに彼女に答えていました。
「私は……動物と話が出来るの」
「マジで?」
泰葉の能力を聞いてルルは驚いていました。こんな話、能力が自分に目覚めるまでは素直には信じられなかった事でしょう。
でも今はルルも不思議体験を実感しています。なので泰葉のこの話も素直に信じられるのでした。
「みんなには内緒にしてね。騒がれたくないから」
「じゃあ、もしかしていつも一緒にいる人達も」
「そう、みんな能力者、リンゴ仲間なの」
泰葉達の秘密を知ってルルは興奮しました。自分のような能力者がこんなにもいたなんて!
そして自分もその仲間のひとりだと、そう思うと不思議と嬉しくなるのでした。
「リンゴ仲間!私もそうっスか?」
「話を聞いた限りそうだと思う。でも単にルルの運動能力が突然開花しただけなのかも……」
「じゃあ昼休みに証明するっス!良かったらリンゴ仲間全員引き連れて見に来てくれると嬉しいっス!」
自分の力を少し疑っている風な泰葉を前に、ルルは自信を持ってその力を証明する事を誓うのでした。
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