第7話 アップルパイパーティ 後編

 そう、それは泰葉がアップルパイパーティー開催に向けて参加をを募っていたそんな時でした。パーティーの謳い文句であるアップルパイただで食べ放題という言葉にルルが反応したのです。

 食べるのが趣味のルルがこの話を聞いて飛びつかない訳がなかったのですね。

 この話を聞いて質問をしたセリナは素直な感想を述べました。


「ほえ~。積極的だねぇ」


「あ、彼女こっちに来るよ」


 3人でルルの方を向いて話をしていたら、それに彼女が気付いたようです。5枚目のパイを食べ終えた所でルルは泰葉達のところにやって来ました。

 突然接近してくる大柄な彼女を前にして流石に泰葉もちょっとドキドキして来ます。


「え?何だろ?もっとパイが欲しいとかかな?」


 彼女が何を言われてもいいように身構えているとついにルルが泰葉の目の前までやって来ました。泰葉とルルの身長差は10cmあるのですが、その10cmがかなり大きく感じられます。10cmの威圧感はちょっとしたものでした。


「どもっス!今日は呼んでくれて有難うっス!」


 ルルの第一声はパーティーに呼んでくれた事への御礼の言葉でした。身構えていた泰葉もこの言葉にすうっと肩の力が抜けていきます。

 そんな彼女に親近感を覚えた泰葉はルルの言葉に素直な笑顔になって返します。


「こちらこそ来てくれて嬉しいよ。アップルパイどうだった?」


「そりゃもう最高っス!またパーティーがあったら呼んで欲しいっス!」


「勿論よ!遠慮なく来てね!」


 ルルは感謝の心を忘れない素直な子でした。礼儀を知っている彼女とはすぐにでも仲良くなれそうだと3人は思いました。

 そこでもっと親交を深めようと、今度はゆみがルルに質問をします。


「高橋さんはどこの学校だっけ?」


 違う校区から来た人にまず聞く質問と言えば、出身校を聞くのは定番ですよね。

 この質問にルルは何の気負いもなくサラッと答えます。


「自分、西中だったっスよ?」


「そっかぁ……私達みんな中央からの友達なんだけど、違う校区の知り合いが出来るっていいね」


「もう同じクラスなんだから気にしなくていいっしょ?みんな友達っス!」


 泰葉達の出身は中央中でルルは西中からこの高校に来たみたいです。

 ここで校区の話をすると、中央は結構バランスの取れた生徒が多く、西は中央に比べれば運動活動が活発な学校でした。だからその校風に従ってルルはスポーツ少女になったのでしょう。

 彼女のこの真っ直ぐな性格はスポーツが培ったものだと推測されました。もっと彼女の事を知りたくなった泰葉は、今度は自分からもっと話していこうと思い、自己紹介をする事にします。


「自己紹介しよっか。私は――」


「自己紹介は入学早々したじゃないっスか。ちゃんと覚えてるっスよ。えっと、まずは響さんに酒井さんに原田さんに……あれ?鈴木さんは?」


 ルルは泰葉達がいつも一緒にいる事もしっかり把握していました。今ここにいない鈴香の事まで知っているみたいです。

 この短期間にクラスメイトの名前はおろか、その交友関係まで把握してるなんてすごいとゆみは思いました。

 そこで今ここに鈴香がいない理由を泰葉ではなくゆみがルルに説明します。


「ああ、鈴香は寝てたから部屋を移したの。すごいね。もうクラスメイト全員の名前や交友関係とか覚えてるんだ」


「いや、自分そんなすごくないっス。人の名前とか覚えるのが得意なだけっスよ」


 このゆみの言葉に対してルルは遠慮気味に答えます。でも人の名前を覚えるのが得意と言うのは、人に興味があるからだと言う事をゆみは知っています。

 なのでそれを踏まえて彼女はルルに優しく声をかけました。


「そっか。私達、いい友達になれるといいね」


「きっとなれるっスよ!そんな気がしてるっス」


 そんなゆみの言葉にルルは飛びきりの笑顔でそう答えました。その時、用意したパイが全部なくなった事に気付いた泰葉は、一番沢山食べていたルルに申し訳無さそうな顔で尋ねます。


「パイなくなっちゃった!どうしよう?追加でパイ焼いてこようか?」


「周りがもうみんな満足してるっぽいし、私ももう十分堪能したっスよ」


「そっか」


 それが本音か気遣いなのかは分かりませんが、ルルは泰葉の質問に笑顔で返しました。その返事を聞いて泰葉も安心してほっと胸を撫で下ろします。

 おまけに余りが出なかったので片付けも楽に済みます。それも泰葉にとって嬉しい話でした。


 パイもなくなり、ちょうど時間になったので今日のパーティーはこれでお開きになりました。招待したクラスメイトも満足しながら次々と笑顔で帰って行きます。


「響~ありがとな~」

「響ちゃん、また呼んでね~」

「響、お前アップルパイのプロになれるわ!」


 泰葉は最後にこう言われるのをとても心地良く聞いていました。この一言の為にパーティーを開いていると言っていいくらです。

 次々に招待客が帰っていく中でアリスも彼女にお礼を言いました。


「あの、響さん、今日は呼んでくれて有難うゴザイマス」


「うん、喜んでくれて何よりだよ」


「響っち、今日は楽しかった。また遊んで欲しいっス!」


 泰葉をそう呼んだのはルルです。彼女もまたこのパーティーを気に入ってくれたみたいでした。響っちと言う呼び方も新鮮で泰葉はその呼び方をすぐに気に入りました。


 招待客が全員帰って残るは後片付けです。散らかった皿を回収しながら泰葉は仲間達と今日の感想を話しました。

 このパーティーの真の目的は泰葉の仲間探しなので、準備も後片付けもみんなリンゴ仲間が手伝ってくれているんです。


「いや~今日は中々収穫があったんでないかい?」


「高橋さんとアリス、この2人は特に脈ありかな~」


「どっちかひとりでも仲間になってくれるといいね」


 3人で今回のパーティーでの仲間になりそうな人の話で盛り上がっていると、ほぼ参加していなかったもうひとりのメンバーもすっと自然にこの会話の中に混じって来ました。


「私はどっちも可能性はありだと思うな~」


「鈴香はほぼ寝てたじゃない」


 そう、鈴香はパーティーが終わる直前に目を覚まし、部屋に戻って来ていたのです。戻った時点でもう早い人は帰り始めていたんですけどね。

 なので彼女は結局アップルパイを最初に食べていた一切れしか食べられませんでした。

 それでも鈴香はその事に対して不満を言う訳でもなく、みんなと同じように片付けを手伝っています。そこが彼女のいいところなんです。


 片付けも終わって軽くジュースを飲んで打ち上げっぽい事をしてお開きです。高校に入って初めてのパーティーがうまく行ったので今後も開催しようと言う事になりました。


 次はパーティー参加者の中でリンゴの能力が目覚める人が出てくるかかどうかの観察です。突然能力が目覚めても混乱しないように、能力者がすぐにサポートに入ってその人を導くのです。

 たった一回のパーティーで力に目覚めるほど簡単な話でもないのですが、きっと新しい出会いもあるはずと泰葉達は胸を躍らせていました。

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