第2話 クラスメイト

 それから8年の月日が流れました。幼かった泰葉もこの春から高校生です。

 事あるごとにアップルパイパーティーをしていたので、いつしか彼女は周りからアップルパイの泰葉と言う2つ名を頂いていました。


 そしてそんな彼女の努力も実って能力者の仲間も少しずつ現れて来ます。泰葉は自分の努力が実ったとその事にとても満足していました。

 でもまだパーティに呼んでない人が現れると、もしかしたらその人が仲間になるかも知れないと今でも手当たり次第に周りにアップルパイを振る舞う日々が続いています。


 実際はリンゴを食べて貰えばいいだけなので、別にアップルパイである必要もないのですけどね。ポテトサラダでもいいし、りんごジュースでもいいし、リンゴそのものでも大丈夫。

 でもやっぱり泰葉としてはアップルパイを食べて欲しいのです。だって自分もアップルパイが好きだから。


 そんなこんなで春から新しく高校生になった彼女にとって、知らない人が多い新しいクラスは勧誘し放題の嬉しい季節なのでした。


 泰葉によって能力を発動した人は今のところ3人。みんなその能力を受け入れて今では彼女の友達です。


 それでは今から軽く彼女達を紹介しましょう。ちなみに、今のところ泰葉の仲間に男子はいません。

 アップルパイパーティー自体は男女別け隔てなく招待していたのですが、何故か男子に能力発動する人が現れなかったのです。

 もしかしたら今後は現れるのかも……分かりませんけどね。


 では今から紹介しますよ。


 まず1人目、酒井セリナ16歳。彼女は泰葉のいとこです。4月12日生まれなので入学してすぐに16歳です。

 彼女の能力はどこの国の人の言葉も分かる能力。海外で活躍する時なんかがあったらこの能力があればすごく便利です。

 でもこれ会話限定。テレパシー的な能力で即時に翻訳しているので文字やら文法やらはこの能力では分かりません。

 そう、言葉が分かるだけなんです。こちらから話しかけるのはちょっと無理。やっぱりへっぽこですねぇ。


 2人目は鈴木鈴香15歳、誕生日は7月8日です。彼女の家は泰葉の家の近所にあります。

 彼女の能力はどんな人も笑顔にさせて相手を自分の言いなりにさせると言うもの。実際、そう言うお得な性格の人っていたりしますよね。

 でも彼女の場合はりんごの力を借りてその能力に目覚めたんです。


 そうして最後の3人目、原田ゆみ15歳。誕生日は12月12日です。彼女の能力は霊的なものと会話が出来ると言うものです。

 声ははっきりと聞こえるけど見るのは苦手で、もやっとしているのが分かる程度で浄霊とかは出来ません。


 彼女達のデータだけ出して主人公だけ出さないのも不公平なので、一応補足で説明をしておきますか。


 高校に入った泰葉は15歳。誕生日は5月15日。もう少ししたら16歳になりますね。

 能力は1話で語った通り、動物と話す事。能力が初めて発現した時はシルフィーおばさんとしか話が出来ませんでしたが、その後はしっかり能力を磨いて、今ではカエルとかカラスとかスズメとか……身の周りで見かける動物達と会話が出来るようになりました。


 ざっとまぁこんな感じです。それでは話を戻して彼女達の会話を聞いてみましょう。


「みんな同じクラスになって良かったね」


 泰葉がみんなに声をかけます。入学当初ってまだ新しい知り合いには声をかけ辛くて知り合い同士で固まってしまいますよね。

 泰葉もまた例外に漏れず、同じ中学の出身者の知り合い同士で固まって仲良くしていました。このクラス、偶然にもリンゴ能力者がみんな揃っていたんです。

 もしかしてこれは偶然?それとも――?


「本当本当、これって奇跡だよ!」


 泰葉の言葉にセリナが答えます。彼女から見てもこのメンバーが揃うのは奇跡としか思えないみたいですね。


「志望校みんな一緒にしててさ、全員合格出来たところから奇跡は始まってたよね」


 セリナの反応を受けてまた泰葉がそう返します。この言葉を受けてみんなニコニコしています。

 本当、泰葉の友達はみんな仲がいいんですよ。普通仲がいいからって友達みんなが志望校を一緒にするってないですもんね。

 それはつまり友達同士の学力の差がそこまでなかったって事にもなるのかも。


 それからセリナは集まったみんなを見回した後、鈴香の方を向いて言いました。


「特に鈴香ね、あなたよく頑張ったよ」


「えへへ~でもそこまで頑張った訳じゃないんだけどぉ~」


 セリナに褒められた鈴香はまんざらでもなさそうです。みんなの中の天然キャラと言う位置付けの彼女は常にぼんやりしています。勉強だってそんな彼女らしく余り得意ではありません。

 彼女が最初に志望校を決めた時、周りは必死で説得工作に走りました。普段の彼女の成績から言って普通にやったんじゃ絶望的な学力レベルだったからです。

 それでも結局何だかんだあって鈴香は泰葉と同じ高校に見事入学してしまいました。

 してしましたって表現は不適切か、ごめんなさい。

 この事に関してセリナは独自の分析をします。


「鈴香はもし本気で頑張ったらかなりすごいんじゃないかと思うよ。多分今は頑張っていないだけ」


「ぎりぎり入学できる程度に手を抜いたって逆にすごいわ」


「いやいや~たまたまだよぉ~」


 褒められているのかそうでないのか微妙なこの言葉を全力で受け入れる鈴香はやっぱり大物だと思う泰葉でした。

 そう、鈴香にはどんな皮肉も効かないんです。りんご能力のお陰でしょうか。それとも鈴香の性格がこんなだから誰とでも仲良くなれるって能力が芽生えたのでしょうか。


 今はその人の性格と能力が関係しているって言う事は証明されていません。リンゴをくれたおばあちゃんだって、何の力に目覚めるか目覚めてみないと分からないって言ってましたし。

 色々知る為にも、もっと色んな人にりんごを食べてもらいたいと思う泰葉なのでした。


「泰葉、またアップルパイパーティするんでしょ?する時は呼んでよね」


 この集まりでちょっと会話に出遅れていたゆみがようやく口を開きました。彼女は性格的にツンデレなところもあるんですけど、普段は仲がいいんですよ。

 ただ、意見が衝突した時にツンになるだけなんです。そう言う事も今までに何回かはありました。

 でもその度にちゃんと仲直りして来たんです。絆は深いんですね。


「勿論みんな呼ぶに決まってるじゃない!みんなは当然として後は誰を呼ぶかなんだよね」


「出席番号順若い人から誘っていけばいいんじゃない?」


 こう提案したのはセリナです。何か話題になると最初に案を出すのはいつもセリナの役割でした。


「一通りクラス全員に食べてもらうのが不公平がなくていいよね~」


 鈴香もセリナの意見に賛成です。彼女のお日様のような笑顔で思わず場が和みます。


「それでもひとりも新しい覚醒者は出ないかもね……」


 そうしてゆみはその場に水を差すような反応をします。

 でもこの可能性だって十分有り得ますよね。で、この3人の意見を聞いた泰葉は言いました。


「それはそうだとしても別にいいよ。もうこの3人がいるから寂しくないし」


 泰葉のこの言葉を聞いてみんなじーんと感動しました。会話に水を差したはずのゆみは思わず彼女の顔を見てつぶやきます。


「泰葉……」


「それじゃ、そんな感じで声をかけていきますか!じゃ、また後でね」


 相談の内容がうまくまとまったみたいなので早速泰葉は行動を開始しました。その様子を見て3人がそれぞれに感想を漏らします。

 この順番でもやはり最初に口を開くのはセリナでした。


「あの子も大変じゃのう」


「それはそれで楽しんでいるみたいだからいいんじゃない?」


「だねぇ~」


 まだ新しいクラスは知っている人と知らない人との温度差がハッキリしています。折角鈴香の能力がここで役に立つと言うのに、泰葉はその力を借りずに自分の力だけで新しいクラスメイトと仲良くしようと頑張っていました。

 それは自分の力だけで事を成し遂げようと言う意志の強さがそうさせているのでしょう。


 さて、果たしてこのクラスに新しい能力者がいるでしょうか?それは物語が進めば後々自動的に明らかになる事でしょう。

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