神様のリンゴ
にゃべ♪
不思議なリンゴ
泰葉と愉快な仲間達
第1話 不思議なリンゴ
「泰葉、リンゴをお食べ」
でもおばあちゃんは家族と離れて一人暮らし。だから泰葉の家族がおばあちゃんの家に遊びに来てくれた日には一日中2人は一緒なのです。
そんなおばあちゃん、リンゴが好きでよくアップルパイを近所の人におもてなしをしています。泰葉もそんなおばあちゃんのアップルパイが大好きで、おばあちゃんがアップルパイを作る度に御馳走になっています。
おばあちゃんはそのリンゴを謎のルートで仕入れていて、その入手先はおばあちゃん以外は誰も知りません。
「美味しいかい?」
「うん、美味しい!」
おばあちゃんは美味しそうにアップルパイを食べる彼女を見て、とても満足そうに笑うのでした。
実はこのリンゴって普通のリンゴではないのです。ある特殊な資質を持つ人が食べると、特別な能力に目覚めると言うそんな特別なリンゴなのです。
実は泰葉もそんなタイプで、彼女はこのリンゴを食べる事で動物と会話出来る能力を目覚めさせていました。
「おや?何を見ているんだい?」
(えっ?)
泰葉がその声を聞いたのは彼女が7歳の時。そしてその声の主は泰葉のおばあちゃんの家の近所の地域猫でキジトラ白猫のシルフィーおばさん。
地域猫って言うのは誰かに飼われている訳じゃなくて、その地域全体で面倒を見ている猫の事です。泰葉はおばあちゃんの家の近所で見かける猫の中でこのシルフィーおばさんが一番好きなのでした。
「おばさん!私おばさんの言葉が分かるよ!」
「何だって?こりゃ驚いた!あんた私と話が出来るのかい!」
泰葉のこの反応にシルフィーおばさんも驚きます。そりゃそうですよね。
シルフィーおばさんは御年7歳、猫年齢で言えばおばさんだけど実は泰葉と同い年。
だから特別泰葉にとっておばさんは親近感があったのでしょう。
シルフィーおばさんと会話出来るようになって、泰葉は彼女を見つける度に彼女との会話を楽しみました。猫の彼女も人間の女の子との会話は特別新鮮で、タイミングが合えばいつも飽きる事なく話をしていました。
それは傍目には女の子と猫がじゃれあっているようにしか見えないのですが――。
「でもいいのかい?私と話せると言っても誰も信じちゃくれないだろ?」
「うん、でもいいの。だって聞こえるのは本当だもの」
猫とお話が出来る、それは幼い泰葉にとってもとても素敵な事なのでした。
「シルフィーおばさんとお話出来るって事は他の動物さん達ともお話が出来るのかな?」
最初に声が聞こえるようになって、泰葉は他の動物でも会話が出来るのか色々と試してみました。例えば散歩中の犬とか、電信柱に止まっている鳥とか、池でひなたぼっこしている亀とか――。
けれど泰葉に芽生えたその能力は、今のところシルフィーおばさんとしか会話が出来ないのでした。そう、その能力は今のところすごいようで実はかなりへっぽこな能力だったりする訳です。
最初にこの事に気付いた時、泰葉はすぐにおばあちゃんに質問しました。おばあちゃんは彼女のこの報告を聞いて、ニッコリ笑って諭すように優しく話しかけます。
「それはね、おばあちゃんのリンゴが泰葉の眠っていた能力を目覚めさせたんだよ」
「眠っていた能力?」
「そうだよ、このリンゴはそう言う力のある人を目覚めさせる力があるんだ。誰でもそうなる訳じゃないんだよ」
「だからみんなが食べても私みたいになる子がいなかったんだ」
「ああ、だから泰葉は特別なんだ、誇っていんだよ」
「やったあ!」
おばあちゃんに褒められた泰葉はすぐに有頂天になりました。それで周りの子に自慢するんだけど、やっぱりそこは子供社会、信じない子が多くすぐに彼女は嘘付き扱いされてしまいます。
その日もまた近所の子と話をしていてついうっかり口を滑らせてしまい、ちょっとした口論になってしまいました。
「嘘付き泰葉ちゃん、まだ猫と話が出来るとか言ってるのー?」
「嘘じゃないもん!シルフィーおばさんといつもお話してるんだから!」
「だから、その猫をここに呼んで話をしてみせてよ!」
「シルフィーおばさんはおばあちゃんちの方の猫だからここにいないんだよ」
シルフィーおばさんが自分ちの近所の猫じゃないって事が泰葉の立場を悪くさせていました。これでは泰葉の能力を信じてもらう事は難しいでしょう。口では何とでも言えますからね。
それでも彼女は自分は嘘は付いていないと潔白を主張する事しか出来ないのでした。
そしてそんな泰葉の態度に周りに子も段々と苛ついて来てしまいます。
「じゃあどうやって猫と話が出来るって証明するの?証拠を見せないと信じられないんですけどー」
「ほら、千尋のとこのカオスを今日は連れてきたから、今日はこの猫と何か話をしてみせてよ!」
そう言って泰葉は強引に千尋さんちで飼われている黒猫を押し付けられました。それで一応はどうにかお話が出来ないか頑張ってみるものの、相性の問題でしょうか泰葉はこの猫の言葉は全然理解出来ません。
それが自分自身でも情けないのかついには涙声になってしまいました。
「……だから…ひぐっ、私は……ひぐっ、シルフィーおばさんとしか……ひぐっ、まだお話は出来ないの……」
「ほら、やっぱり猫と話が出来るとか嘘なんじゃん」
「う、嘘じゃないもん!……ひぐっ、本当だもん!……ひぐっ」
「嘘付きとは一緒に遊ばないよーだ!」
自分の言葉を信じてもらえなかったそんな時は、後で決まっておばあちゃんに慰めてもらうのが日々の光景でした。今日も泰葉は友達に嘘付き扱いされた事を遠方にいるおばあちゃんにテレビ電話で報告します。
「ひぐっ、ひぐっ、だって、本当なんだもん。シルフィーおばさんとお話が出来るんだもん」
「心無い声を気にしちゃダメだよ。真実なんてね、気にしてない人には届かないものなんだ」
「ひぐっ、どう言う事?」
「バカの言う事は気にするなって事だよ」
おばあちゃんはそう言ってニッコリ笑いました。そして泰葉は全然悪くないとも。おばあちゃんはそう言ってくれたけど、やっぱりこの能力を持っているのが自分一人なのはとても寂しいと泰葉は感じていました。
そこで彼女が考えたのが多くの人にこのリンゴを食べてもらおう作戦!それは少しでも多くの人におばあちゃんのリンゴを食べてもらって一人でも同じ能力を持つ仲間を増やそうって言う作戦です。
泰葉からこの話を聞いたおばあちゃんは幼いながらによく考えたものだと感心して喜んで彼女の作戦に協力してくれました。
まず泰葉は必死でおばあちゃんからアップルパイの作り方を学びました。やがて自分でアップルパイが作れるようになると、事あるごとに友達を家に呼んでアップルパイパーティーをしました。
当然ですけど、そのアップルパイに使うリンゴはおばあちゃんがくれたあの特別なリンゴです。だからその本当の目的はおもてなしじゃなくて、自分のような仲間を増やす事。
そんな目論見はともかくとして、泰葉のアップルパイはすごく美味しくて評判になって、そのお陰でいじめも段々となくなっていきました。
そうしてこの作戦のお陰でやがて彼女の元に同じような特別な能力を持つ仲間が少しずつ増えて行く事になります。
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