第2話

眠りながら聡美は、十年前自殺を図った時、重傷を負ったので、入院していた時に戻っていた。

自殺患者だということで、拘束帯で拘束されていた。


拘束帯には、何をどうやっても外すことの出来ない磁気錠がついている。


トイレに行きたいときは、ブザーを押して看護師を呼ぶのだが、看護師が特殊な鍵と車椅子を持ってくるまで、十五分だったらまだ早いほうだった。


聡美は尿意を覚えてから、三十分はガマンできる体質を、入院生活で身につけた。


拘束し続ける病院が、聡美を生かしたいのか、殺したいのか、聡美はわからなくなってきた。


そんな状態で二ヶ月経って、新しく同室になった右足先を切断したババアが、痛みを感じるとすぐに


「いたいよおー。いたいよおー。お母さんー。お母さんー。」


と喚くのに、聡美は瞬間的に耐え切れなくなって


「ぶっ殺すぞババア!」


実際にそう叫んで、聡美は目覚めた。


食べてすぐ眠ったからか、聡美の胃はムカムカしていた。

起き上がった時に、ストライプのショートパンツが血でヌメっているのに気づいた。


毎月の処理をして、ショートパンツを水に浸した。

ショーツはゴミ箱に放り込んだ。


別に悪夢ってほどじゃない。

現実に起きたことを、記憶がなぞっただけだ。


空はもう夕暮れになっていた。


寝覚めの一服を吸いながら、さて、と聡美は考えた。


やることがとにかくないので、聡美は困り果てて、もう一本タバコに火をつけた。


部屋は綺麗に片付いているし、ササミを食べた皿は洗い上げてある。

冷蔵庫には、ポットに入った冷えた麦茶と水出しコーヒー。


明日食べる、味付けササミと、冷凍ブロッコリー、五種の蒸豆のパック、0キロカロリーゼリー。

愛用している方のノンオイルドレッシング二本。


それらも買い足すことがないように、用意されている。


聡美は何年も、このメニューしか、自宅では食べていない。

太ることを異常に恐れているのだ。


食べるものに変化があるとしたら、ノンオイルドレッシングを変えてみて、後悔し、また元のノンオイルドレッシングに戻るというくらいだ。


とりあえずやることとして、夕方の分の精神科の薬を麦茶で飲んだ。


そのあとはひたすら、ボケっとしていた。


これじゃあ、ただ、生きてるだけじゃないか。


自分の生活を客観的に考えると、聡美はまたしてもイヤになった。


でも、また失敗して、拘束帯をつけられるのもなー。


それで聡美は、明日が十五日だということに意味を見出そうとした。

毎月十五日、聡美はある団体に寄付をしている。


私がどっか行ったら、寄付金が振り込めなくなって、あの団体が少しは困る事になる。


聡美は寄付していることを、誰にも明かしていないので、実際、聡美がどっか行ったら聡美がしている分の寄付は途絶えるだろう。


ボケっと考えながら、聡美は手持ちのカードがもう一枚あることに思い当たった。


思春期からの夢、というより夢想。

「刑務所に居る受刑者と文通する事。」

が現在進行形で、叶っているのだ。


聡美は思春期から

「受刑者と文通したい、でも、どうやって受刑者と知り合えるのだろう。」

と夢想していた。


殺人鬼に関する本を読むようになってからは、服役中、人気のある派手な殺人鬼は、沢山の手紙を貰う事を知った。

中には、手紙を通じて、獄中結婚したりしているのも居る。


さすがに結婚はしたくないが、受刑者と文通はしたい。

その願いは、コロっと叶った。

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