第12話 パラサイトの所以
ボクがこの家に来て今度のクリスマスで四年になろうとしている。ここに来る前、街にいた頃のボクは、言ってみれば動物の冬眠のような状態にあった。
ボクは見た目にはただの暑苦しい縫いぐるみだ。けれども、ボクは生きている。気づいた時にはもう命を授かっていたんだ。この命は、――より正確には命の核(もと)は、決して途絶えることがない。そして、ヒトから命を分けてもらうことで、元々は「核」でしかない命が増幅される。ちょうど、地中の球根が水を吸って、芽を出し、花を咲かせるように。そうすると、物事を感じる力が湧いてくる。ヒトの会話も理解できるようになる。現在のことから始まって、じきに過去のことも、それから未来のことも。最近、ボクは現在のことだけでなく、過去のことも感じることができるようになってきた。未来のことはまだだ。
それに、からだを動かすことだってできなくはない。でもこれは、ヒトひとりの一生分の命をもらって〇・一秒動けるかどうかだから、現実にはほとんど無理だ。
命を分けてもらうといっても、誰からでも分けてもらえるわけじゃない。それには条件が二つある。一つは相性だ。ドナーとレシピエントのような関係を想像すれば、これに近い。もう一つは、意志だ。命をシェアしても構わないという気持ち――愛情だ。
この二つのどちらかが欠けてもボクは命を分けてもらうことができない。実際には、前者があっても後者がないとか、前者はないが後者はあるとか、そういうことはどちらもない。その意味では、さっき二つの条件があると言ったけれども、これらは不可分一体の、一つの条件と言うのが正しいのかもしれない。
この家でボクが命を分けてもらえるのはアキだけだ。しかも、アキは生きる力がすこぶる強い。生きる力が強いことは、命を分けてもらえる条件には入らないものの、重要な要素には違いない。生きる力が強いということは、生命を脅かすような事態とのめぐり合わせが滅多にないということだ。そして、仮にそのような事態に遭遇したとしても、それを乗り切る資質を備えているということだ。
結果として、これは寿命の長短に現れる。ヒトの寿命が生まれながらにして決められているというのは、この生まれ持った生きる力に依るところが大きい。一方で、始末の悪いことに、ボクは分け与えられる命を自らの意志で拒むことができない。だから、生きる力は弱いけれども「条件」に合うヒトがボクのそばにいると、大変なことになってしまう。
ヒトから見れば、ボクはまるで寄生虫だ。そんなボクにできるせめてもの償いが、分けてもらった命で増幅した力をそのヒトのために役立ててあげることなんだ。(つづく)
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