第6話 ぼっちのファーストクラス
新しい学校生活に慣れてきたカイは、毎日が楽しそうだった。
何といっても、外食し放題、自分の好きな物を好きなだけ食べられる夢のような毎日――サラも家で夕飯の支度をするより、寧ろ好都合とばかりにカイに毎日食費を渡している。昼食も、学校の食堂のパスタやプレートが絶品だそうで、サラの弁当作りは半月足らずで終了した。
五月の連休に入ると、春休みにお流れになったオタルへの三泊四日の家族旅行だ。カイ達は、オタルへ行くのはこれで三度目、いつもは夏休みを利用しての旅行だったから、この時期は初めてだ。これまではエマと一緒に家で留守番だったけれど、今回は家族会議の結果、一緒に連れて行ってもらえることが決まった。そして、シバのテツ――アキがこう名付けた――は、まだ子供だから、家の近くのホテルで面倒を見てもらうことになった。
オタルでの皆の楽しみは、海の幸を堪能することなんだそうだ。普段はあまり食に興味のないアキでさえ、それを楽しみにしている。特にカイは、去年の夏はありつけなかった、「カマトロ」という魚の生肉を狙っているらしい。
ボクは、何をおいても飛行機に乗るのが初めてだ。今からワクワクしている。きっと高い空から見える景色は素晴らしいものなんだろうな。……
当日の昼過ぎ、出発する空港に着くと、ボクは早々に皆とは離れ離れになってしまった。どうやら、ボクとカイ達は搭乗する場所が違うらしい。最近、テレビのニュースでも、不景気だとか、失業だとか、そんなニュースばかりだから、きっと、ボクの分は節約して格安なチケットを調達したのだろう。残念ながら、楽しみにしていた窓からの景色はあきめなければならない。でも、いい。こんなご時世に、皆と旅行ができるのだから。
ボクは皆より先に搭乗した。ボクに用意された場所は、真っ暗だった。バッグの中に入ったままだから、実際に外の様子は見えないけれど、そんな気配がする。しかも、かなりの混雑具合だ。でも、硬いローラーのようなものが、ちょうどよい具合にバッグの上からボクの背中に当たって、マッサージのように気持ちがいい。旅行というのは、普段の疲れを癒すものなんだな。
ボクはウトウトと眠ってしまった。
それからどのくらい眠ったのだろう、ドスンという地響きに驚いてボクは目を覚ました。目的地に到着したようだ。飛行機から空港の中へは、別の乗り物に載せられて来たようだけれど、何だか目が回る。
「あ、来た、来た」――アキの声だ。アキが迎えに来てくれている。
「よいしょっと」――バッグを拾い上げてくれたのは、カイだ。
ボク達は、車でホテルに向かった。
そのホテルは、カイのお気に入りで、オタルに来る時にはきまってここを予約している。アキも道に迷うことなく快適に飛ばしているようだ。
「お待ちしておりました」
ホテルからお出迎えだ。ボクは、また違う乗り物に載せられた。しかも、出迎えた彼はボクの頭の上に荷物を載せた。苦しい……おまけに、ゴツゴツ突き上げてくるこの乗り物のせいで気分が悪くなってきた。
部屋に着くと、ようやくバッグの外に出してもらうことができた。急に開けた視界は眩しかった。乗り物酔いも一気に吹っ飛ぶくらいの開放感だ。部屋も広い。キッチンがない分、家のリビングより広いかもしれない。奥に大きなベッドが並んで二つ、その手前にそれより小さめのベッドが一つ。なるほど、この小さい方のベッドがカイ用か、と思いきや、カイはサラと共に、素早く大きい方のベッドを占領してしまい、残りがアキとボクの寝床となった。
「まあ、ここが一番テレビを見やすいし……」
アキは自分にそう言い聞かせているようだった。(つづく)
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