君の声が聞こえる
@yuusetu
君の声が聞こえる
真っ白な一軒家、その中から朝ながらも外にも聞こえそうな声が聞こえる
「真白!!ちゃんと薬持ったか!?気分悪くないか!?」
「うん、大丈夫」
お父さんの質問に元気を見せつけるように答える
「おまえは亡くなったお母さんに似て体が弱いから…父さん心配で心配で…」
「もう、お父さん…学校に行くだけだから」
本当に心配性だがそれも分かる
さっき言った通り、私は体が弱く体調を崩す事も少なくはない
この前まで入院していて学校にも行っていなかった為、最近になってやっとクラスに戻れる位にまで回復できた
「そうだ!!お守りは持ったか?」
「はいはいお母さんの写真、ちゃんと持っていますよ」
木の枠に入っている写真でお母さんがまだ赤ん坊の私を持って座っている写真
「『挫けそうになったら母さんの背中を見るように』って母さん言っていたぞ」
顔が見える様に撮られているので背中なんて映ってはいなかった
「気をつけてな、真白」
手を振るお父さんに行ってきますと言って歩き出す
しばらく歩いていると見覚えのある男の子を見つけた
「中地!」
「おぉ~小谷」
中地は小学生の時から私の体調に気をかけてくれてお見舞いにも来てくれる
心の架け橋にもなってくれる私にとって大切な人
「昨日のドラマ見た?」
「課題やっていて全然見てねーよ」
その言葉に耳を疑った、そして段々と記憶の奥からその事を思い出してきた
「…忘れてたか、あ~ぁ怒られるな」
「そんなぁ」
体調は良かったが今ので悪くなった気がする
「駅まで少し早く歩けるか?」
「多分大丈夫」
「なら早めに学校行って俺のを写せばまだ間に合う」
そう言って手を差し伸ばしてきた
私は体が人より弱くてお母さんは小さいことに無くなってお父さんと二人暮らしだけど…
今は恋もしているし、幸せ
◆
「ん…」
ソファーの上で意識が朦朧として時計を見る
時刻は既に深夜の時間をさしている
「いつの間に寝ていたんだろ?」
テレビは着けっぱなしで砂嵐が映し出されている
消そうと思い近づくとなにか声が聞こえた
『ゆう…』『…めないで』『ゆう……ばって…』
テレビから…女の人の声?
普通に考えておかしい
だって砂嵐で…放送も終わっている時間の筈なのに
念の為にビデオも確認するが入っていない
どういう事?
考えれば考えるほど怖くなった為違う事を思い出して考えないことにした
次の日その話を同級生の子に話してみた
「深夜のテレビ、そして砂嵐から女の声…か。霊の仕業ね」
「やめてぇ~っ、私こわいのホント ムリ!!」
「その声を聞くと例に魂を抜かれ…」
「いやぁぁっ」
冗談で言っているがあまりにも反応が良いためおもしろがっている
「小谷、俺ゴミ捨ていってくるから帰る支度しとけよ」
中地の声で正気に戻る
「はーい」
廊下に出た中地の背中を見えなくなるまで見る
「…早く告白しちゃえばいいのに」
「へ!?」
かあぁぁっと赤くなっている事は鏡を見なくてもわかる
「な…なにを…?」
「真白また入院するんでしょ?その間に他の女にとられたらどうするの?」
「そ…それは……」
気が動転しているので少し落ち着かせる
心臓が弱いため頻脈になると倒れてしまう可能性がある
落ち着かせると反論に入る
「中地は昔からめんどうみいいから、私のこと気にかけてくれてるだけだよ。そりゃ私だって中地と付き合いたいけど告白なんていまさら…」
私の話をちゃんと聞いてくれている
録画ランプをつけた携帯を通しながら
「何してんの!?」
「ムービー撮ってたの」
保存っと言って何かピポピポ鳴らしている
「真白が告白しないならコレ本人に見せるよ?」
「鬼っ!!」
「じゃあ頑張れ!!」
取り返そうとしても動けば勝てる気がしない
その内に中地も帰ってきてしまい追求が不可能となってしまう
『告白』………ねぇ
◆
「昨日のK-1見た?すごかったね」
「んー」
帰り道、何とか言おうと思う頑張るが雰囲気が恥ずかしくて出せない
それでも頑張って引き出そうとする
すると中地から話し出した
「あのさ」
『俺 小谷のこと好きなんだけど』
えっと思い振り向いてみるとこっちを見ている
頬は赤くなって目は真剣、性格から考えても冗談じゃない
「あっ…あの……」
うそ、何?…どういう事!?
「……返事OKだったら明日土曜日だし2人でどっかでかけよう」
じゃあ…また後でメールすると言ってさらに赤くなった顔を見させないように駆け出した
告白…してきた、中地が
訳は分からないけど、うそ…夢みたい
家に帰るとタンスの中から色んな服を取り出して広げる
それが楽しくて夕飯の近くまで続いた
「夕飯で来たぞ」
「分かった!」
「なんだ真白、デートか?」
「うん」
「ええ!?」
即答してきた事に驚きお父さんはそんな声を思わず上げた
「じょ…冗談だよな。そっ、そうだ!きっと女の子とだ!!」
うんそうに決まっていると自己納得している時、胸の辺りが少し痛んだ
次第にそれは強く、心臓の鼓動が加わり痛みが増していく
何コレ…急に…
「痛っ…!!」
「真白…女の子の友達だよね?―――真白!!」
お父さんのその声を最後に聞いて意識が遠のいて失った
「ん…」
「真白!!気がついたか!?」
「私…」
「昨日の夜、急に倒れたんだよ。苦しいとこないか?」
昨日の夜?という事は!!
「今日、何曜!?」
「土曜日だよ」
どうしよう、今日出かける約束だったのに…
中地ずっと待ってたのかな?
「良かった…目が覚めてよかった」
か細い声でそう呟く
お父さんの目にはクマが凄く、体も少しながら震えている
「もしかしてずっと起きていてくれたの?」
「お前はそんなこと気にしなくていいんだよ、今ご飯作ってやるからな」
小さい背中になったお父さんを見送る
パタンと閉まったドアの向こう側からは少し声が聞こえた
気がつかれないようにドアを開ける
「よかった…母さんの時のように目が覚めなかったらどうしようかと…良かった…」
声が漏れないように口に手をやって涙を流している
お母さんが亡くなって10年…
私にかくれてお父さんは今でもお母さんを思って泣いている
もし中地とつきあって…お母さんがお父さんを残して死んじゃったみたいに…
私が死んでしまったら……?
中地1人を残してしまったら…
中地を悲しませてしまうんじゃない?傷つけてしまうんじゃない?
そんなのダメだ、そんなこと―――
夕方頃、家のチャイムがなったので出てみると中地が立っていた
「お見舞い」
「ありがと…あの…ごめんね土曜日」
「いいよ倒れたんだろ?おじさんから聞いた」
差し出された袋の中身はシュークリームだった
それも私が好きな店のところだった
「たまたま帰り道寄ったんだよ」
「たまたまって中地の家とは逆方向で歩いて20分くらいかかるのに?」
「…こ、小谷がコレ好きだって聞いたから…」
優しい、そんな中地が私は好き
大好きだから……
『私…中地とはつきあえない』
「えっ?」
「暗くなるしもう帰って」
「ちょっ待て、小谷」
強引に玄関から外に出す
外からはドアを叩く音と衝撃が来る
「小谷っ急になんだよ!?おい小谷開けろって」
「嫌いだったの、うっとうしかったの。私に同情して優しくしてたんでしょ?優越感にひたってたんでしょ?」
「なんだよそれ、ふざけるな!!俺は小谷のことが好…」
「やめてよ!」
私はデートにだって行けるかわからない
5年後10年後生きているかもわからない
いつ来るか分からない病魔に付き合わせられない
私といるときっと悲しい想いをさせてしまう
お父さんみたいにすっと悲しい想いさせたくないから…
「もう会いたくない…」
私は中地の世界からいなくなったほうがいいんだ…
叩くことをやめて中地は何も言わずに帰っていった
好きだよ中地、好きだよ
ごめんね、私中地が大好きだよ
◆
『xxTVです――ーご覧いただいありがとうございました』
ソファーの上、色んなことを考えて気がついたらこんな時間になってしまった
「これで本日の番組は全て終了です―――」
ザザッ…と画面が砂嵐に変わったことさえ意識していなかった
中地…きっともう目も合わせてくれないんだろうな
でも…コレでよかったんだ
『~』『…ろ』『…いで』『…ないで』
「これ、この前の声」
やっぱり霊の声とかなのかな?どうせならお母さんの声ならいいのに
私霊に連れてかれて死んじゃうのかな?
でも、それでもいい
天国でも地獄でもどこへでも連れてけばいいんだ
テレビの声がだんだんだ貼って切りしていく
『真白』
「私の…名前」
『あきらめないで』
言われた言葉が心に響いた
「あきらめないで真白…あきらめないで」
「何?これ…」
『あきらめないで!』
「やっやめてよ!!あきらめないとダメなんだよ!!生きていたって心配ばかりかけちゃうし…死んで中地を傷つけちゃうかもしれないし…私じゃ中地を幸せにできない!悲しませることしかできないんだよ!!」
だったら、私なんて…
『真白』
『くじけそうになったらお母さんの背中を見て』
『お母さんが亡くなる時に…真白…あなたに残した言葉よ』
新しい写真を飾る事なんてなかったから気が付かなかったんだよね
お母さんが写っている写真立て、その後ろの蓋を外してみると写真にはこう書かれていた
『真白へ 真白のお母さんにしてくれてありがとう』
『真白…あなたがもし死んでしまったらきっとみんな寂しいわ、でもね寂しい以上に素敵な思い出がきっとたくさんあるのよ』
お母さんは最後まであきらめないで素敵な思い出を作っていたでしょ
あなたが大切にしなくちゃいけないのはいつくる別れじゃない
『大切なのは、今この時でしょ?真白』
未来をあきらめないで…
◆
「おはよ~真白学校来て大丈夫なの?倒れたって聞いたけど?」
「うん、すぐ早退しちゃうけど」
気まずいながらも逃げずに学校にやってきた
その時、廊下から中地がやって来た
当たり前と言えば当たり前だけどすっと私に声を掛けずに通り過ぎる
『あきらめないで』
「…中地」
呼ばれた為に振り返る
「この前は…ごめんなさい、私ちゃんとデートできるかわからないし5年後生きているかわからない…」
今さらって思うよね、迷惑だって思うよね
「でも!!」
『中地のこと好きなの』
少し驚いたがすぐに笑って
「遅ぇーんだよ、やっと本音言ってくれた」
『寂しい以上に素敵な思い出がきっとたくさんあるのよ』
うん、ほんとだね
「…ところで中地」
「ん?」
「やっと本音言ったって…私の気持ち知ってたの?」
「コレで?」
携帯の画面にはあの時の映像が流れていた
「あ…あのムービー…なんで!?」
「あいつが送ってきたんだよ、あん時はへコんだなー絶対イケると思って告ったのに…あんな拒絶されるとは思っても…」
ふと、ある事に気がついた
『告白なんていまさら―――』
「私って…こんな声なの?」
「あ?あ~、自分の声って録音して聞いてみると思ってたのと全然ちがうよな」
もしかしてあのテレビから聞こえてきた声って―――
月日は流れ7年後
「ゆう、あきらめないで」
6ヶ月くらいの子供が椅子にしがみついて今にも独り立ちしそうだった
「一人で立つんだゆうーーーー!!」
「真白…うっさいから」
「だって我が子が初めて立とうとしてるんだよ」
「はいはい」
「ゆう!がんばって!!あきらめないで」
自分の声で昔の事をを思い出す
『あきらめないで』
「真白…あきらめないで」
ねぇ過去の私、今幸せだよ
中地と結婚したんだよ
体も少しだけど強くなったよ
ホントは全部教えてあげたいよ
でもこの幸せはあなたがこれから作っていくものだから
お母さんの写真が入っていた写真立ての中には私達2人の素敵な思い出が写った写真が新しく入っている
「あきらめないで」
過去の私、聞こえていますか?
終わり
君の声が聞こえる @yuusetu
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