第6話

「ふむ、ジエン・ステンツか」


床だ。


頭上より声をかけられているが、今の俺には床しか見えない。いや、床を見ることしかできない。そういう状況だ。そういう状況に連れ込まれた。


嫌な予感はしていた。してたんだ。だから、心の準備もしていた。それなりに。呼びに来たのがあのラムサスだったし、この部屋に入る前に体を洗浄された挙句、服も着せ替えられた。かなりの上位に位置する人物が出てくると思っていた。思って、準備をしてたんだ、心の……


「おや、兄さん。早かったね」


ガチャりと音がして、誰かが部屋に入ってくる気配がした。そして、何やら気さくな感じで部屋の中にいる人物に声をかけている。


「ああ、ラムサス。ごくろうさま、君はもう戻っていいよ」


隣で傅いていたラムサスが退場する。俺も退場したい。退場させてください。この部屋やばいよ。だって、ラムサスはああ見えても公爵家の嫡男なわけで、それを後から入ってきた男はある意味小間使いにしている。そして、あのラムサスが文句も言わずに従っているわけで。そんな人物が兄と呼ぶ存在もいるわけで……


なんかもういいや。考えるのが悲しくなってきた。俺はこのまま床とにらめっこしとこう。二人は二人で何やら話し合いしてるし。


「ジエン・ステンツよ、面を上げよ」


「はっ!」


しばらく放置されていたが、名を呼ばれてしまった。あのまま放置され忘れられてしまいたかったが無理だったようだ。思うところはいろいろあるが覚悟を決めて、向き合わなくてはならないか。


公爵家の嫡男を顎で使える人物。その男が兄と呼ぶ人物。それはつまり、上位の人物とかのレベルじゃない。本来なら俺なんかではお目通りがかなうようなことがない存在。このサンクディアム王国のトップ、ロータス・サンクディアム国王陛下その人だ。

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メインヒロインが、俺だと⁉︎ @razor

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