第5話

「出ろ、ジエン・スインツ」


思ってたよりも、迎えは早かった。もうしばらくは、この中で放置されるかと覚悟はしていたんだがな。


「へいへい」


鉄格子の扉をくぐり牢屋の外へと出る。特に拘束具などはされていない。まあ、逃げる気なんざないから必要ないとも言える。


「ついてこい」


俺を牢屋から出した男がそう言って、上へと昇る階段に向かって歩いていく。会話を試みようかと考えたが、無駄だな。まともな返答は期待できそうにもない。知ってる顔だが、向こうはあんまりこちらと関わりたくなさそうな顔をしている。


「了解、了解」


「ちっ」


返事をして、後をついていく。予想通りに嫌そうな顔をされ、舌打ちされたぜ。おいおい、あんまり顔に感情を出し過ぎると、やられるぞ。ここはそういう世界なんだからな。


「だいたい、なんでこんな奴に会う必要があるのか……」


なにやら、ブツブツ言っている。大分ご機嫌斜めの様子。仕方ないか、選民意識の強い奴だしな。今の俺の立場や身分を考えれば、イライラするのも分からなくはない。


でも、お前さんが任された仕事なんだから、割り切ってしっかり勤めてくれよ。若坊ちゃん。


「どこいくんだ?」


答えは期待できないが、一応聞いてみる。


「うるさい、黙ってついてこい」


にべもなし。


まあ、いいけどさ。


仕方がないので、黙って後をついていくか。つまらんなあ。


いろいろな展開を想定していたが、予想される最悪の事態ではなさそうだ。面倒ごとの匂いはビンビンにするがな。


はてさて、鬼が出るか蛇が出るか。一体、誰の差し金だ?



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る