第3話

卵を器に割り、箸でかき混ぜる。この箸と呼ばれる調理や食事に使われる道具。二本の細い棒を一組として使うのだが、こいつの登場は王国の食文化に革命を起こしたと言われている。お米というパンとは違う主食と共に王国に普及し始めて、もう結構立つ。今や一般的なものになった。


フライパンを熱して、バターを落とす。充分にフライパンが温まったところで卵を流し込む。今までに数百どころではない、数千は作っている。見た目は普通のオムレツだが、ナイフを入れると中がまだ半熟なため、花が咲いたみたいに広がる。その様子は、セフィリアが言ったようにシャイニーレオンに似ている。


さくっと人数分のオムレツを焼いて盛り付ける。二人分だけ持ってホールへと向かう。二人はどうしてるかと思ったが、スプーン片手に二人仲良く向かい合って座ってた。


「ほい、おまちどうさま」


「ありがと」


「そう! これですわ! 私が求めていたものは」


「いただきます」


「いただきますですわ」


二人とも、おいしそうに食べ始めた。ニコニコしている。こういう表情を見せてもらえるのは料理人としては最大の報酬と言えるな。美味しいご飯は人を笑顔にする。大事な事だ。


よしっ! このまま、有耶無耶にして流してしまおう。食後のお茶を用意するために、一度厨房に引っ込む。ふむ、いい仕事をしている。お茶を持ってホールに戻る。食べ終えてぽけーっとしている二人にお茶を出しで食器をさげる。あれのおかげで片付けもほとんど終わってるから楽でいい。


「やはり、もう一度考えていただけないでしょうか?」


「うん? またあの話か?」


「ええ、そうです。私は諦めるつもりはございませんわ」


あの話とは、勧誘みたいなものだ。このお嬢様・フィリアは俺の料理が気に入ってるのか、昔から何度も毎日食べたいから家に来てくれないかと誘われている。正直、貴族の館で料理人ってのは少し堅苦しそうなんで断っている。この学園には世話になってるし、俺の性に合ってるからな。


「前にも断っただろ、その話は」


「ええ、わかってます。ですが諦めませんわ」


「お前さんも、物好きだな」


「むう、そういうこと」


毎回断っているのだが懲りずに誘ってくるフィリアに呆れていると。隣にいたルインはルインで納得したみたいな感じで頷いていた。


「そういうことですわ」


「わかった、今回は引き下がる」


なんだかわからないが、二人の間で通ずるものがあったのか、話が付いたようだ。本人置いてけぼりで話が進んでいるが、とりあえずこれで一件落着だな。明日学園は休み、当然食堂も休み。のんびりしよう。

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