第2話

厨房から飛び出してきた人影は、空中でふわりと一回転して食堂のテーブルの上に着地した。そして、テーブルの上で、ズビシッと音が聞こえそうな感じにこちらを指さしている。ふむ、決まっているな。タイミングも含めて、かっこいい登場じゃないか。


ただ、口の端にハヤシライスのルウと思われる食べ残しが付いていなかったらな、ほんと残念だ。しかも、よく見ればこちらを指さす手にはスプーンを、腰に当てている方の手には皿がある。


「ルイン、待ちなさい。私は認めないわよ、そんな話」


「フィリア、お前また、つまみ食いか?」


「うっ、そ、それは・・・」


突然現れた少女フィリア・シャンデルは、俺の突っ込みに目線をそらせた。せっかく、救援に来てくれたところ悪いが突っ込まずにはいられなったのだ、許せ。フィリアはルインと同じく学園生だ。肩書なんかは似たり寄ったりだな。


「うん? フィリアには関係ない。これはボクたちの話」


こっちはこっちで、話すことはないとスルーするつもりのようだ。なんかルインの腕をつかむ力が強くなった気がする。いや、気のせいじゃないな。若干痛くなってきた。うそです。マジで痛いです。


「関係ありますわ! それにものには順序というものがあるのです」


どうやら、俺の突っ込みから立ち直ったフィリアが、そっけなく答えるルインにかみつく。頑張れフィリア、今はお前だけが頼りだ。


「いくらフィリアでも、邪魔をするなら」


ふっと、腕に感じていた痛みがなくなった。


「邪魔するなら?」


なにやら、挑発的な雰囲気を出しながら聞き返すフィリア。ルインは俺の前に出て、フィリアと対峙するような立ち位置に。なにこれ、怖い。こんなの魔王だって逃げ出すぞ。なんだろ、二人を中心に空気が歪んでないか? これが、あれか! ハルトのやつが言ってたゴゴゴ!って擬音が見える世界か。なんか、分かる気がするぜ。


雰囲気にのまれ動くに動けず、二人の様子をみていたら、フィリアと目が合った。すると、彼女は持っていた皿を俺の方に突き出し、こう叫んだ。


「オンザオムレツですわ!」


「はい?」


何を言っているのか、理解できなかった。


「ですから、私もふわふわのオムレツを所望しますわ。ルインばかり、ズルいです。私のにもシャイニーレオンのような花を咲かせてください」


なんだろ、懇願って表現がしっくりきそうな感じだ。いいのかお嬢さん、お前さんも、一応そこそこのじゃなくてそれなりの地位にある貴族だぞ。自覚を持とうぜ。さっきまでのピリピリした雰囲気は? どうすんのこの状況、と思ってルインの方を見た。


「おかわり」


目の前に突き出される皿。



……お前もか。


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