第4話 トンネルの男

高校生になったばかりの頃。夜に先輩達から呼ばれ、遊びに行こうという話になった。女友達がもう一人と男の先輩が一人に男の同級生が二人。

迎えに来てもらい、走り出した。心霊スポットでも行くか、カラオケに行こうか、などと話しながら車は山へ登る。(私の家の裏は山になっており、山の方からまわると下道よりも市内につくまでが速い)

途中に長くもなく短くもないトンネルがある。そのトンネルには幽霊が出ると有名だが、見たこともないし、どんな幽霊が出る、出た、など聞いたこともなかったので何も考えていなかった。大体どこのトンネルにもそんな話はあるのではないだろうか。

「あ、スピード落として。」同級生が言った。先輩は驚きブレーキを踏んだ。

「あそこ、何か立ってない?人?」

よく見るとトンネルの出口あたりに黒い人影があり、上部がぶれている。

その上のライトは切れかけ、チカチカと点滅している。

「なんか声聞こえる。音消して。」助手席に座っていた男が音楽を止める。

みんな窓を開け、聞くと微かに男の声が聞こえた。

「…ーい。おーい。」何かを呼んでいる。

車は人が歩くほどの速さでゆっくりと前進する。トンネルのライトに上から照らされ、良く見えないが、手を振りながら腹からポンプのように何か出ていた。

「おーい。おぉーい。」それは低い男の声でこちらを向き、呼び続けている。

さらにゆっくりと近付いていく。中年の男だ。レーシングスーツのような物を着て、片手を振り、片手で腹を押さえている。押さえた腹の部分は裂け、声に合わせてブシャブシャと血が噴出していた。

「事故じゃない?!やばいよあの人!」女友達は私の腕をつかみ、下を向いた。私は目を逸らすことができなかった。

男のすぐ近くまで近付いた。


手を横に振っていなく、縦に、おいでと激しく振っていた。その男の目は黒く横に倒れた三日月のような形になっており、明らかに笑っている。

近くに事故が起こったような形跡はない。先輩は急にアクセルを踏み、スピードを出した。下を向いた女の子以外はそれが人間じゃないと気付いていた。

猛スピードで男の真横を通りすぎる。男の足元には噴出した血が大きな溜りを作っている。通り過ぎる瞬間に聞こえた男の声は車内に響き、震え、血まみれの両手をこちらに向けた。

「ねぇえ…死んじゃうよぉぉおおお……」三日月の形の目がぐるりと回転した。目と同じ形で下がった口から黒い液体がダラダラと垂れていた。

振り返ると男の上半身はこちらを向いていたが下半身は車が来る方向のままだった。

しばらくみな無言で走り続け、コンビニに車を停めた。

「ねえ、あの人何やったん。本当に事故じゃないの?」

「もしかして事故って歩いて来て助けを求めてたんやったら…。」

「もし、見間違いやったら、見殺しになるよ…。」

人ではないと確信していたが、どこかで認めたくない気持ちもあった。

それに、それは「死んじゃう」と言った。もしかしたら、死んでいない人かもしれない。

先輩は震える手で携帯電話を取り出し、救急に電話をかけた。

10分ほどして、折り返しの電話がかかり、再びトンネルに向かった。救急車と救命士はいるが、男はいなかった。噴き出ていたはずの血の跡もない。

「さっきここに血だらけの人が…。」と先輩は言葉を詰まらせた。

「あぁ、はい。ここに同じ件で呼ぶ人、昔から多いんですよ。我々は報告があれば一応向かいますが…。実際人がいたことは無いですね。なぁ。」運転者も頷く。

「昔、事故があって死んだとかですか?」

「いやそこまでは調べてませんけど…。昔からあるもので、ちょっとした都市伝説みたいなものですね。」そう少し話し、解散となった。

今もあれは死んだと気付いていないままトンネルで助けを求めているのだろうか。

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