フィルタの底 2/4


 例えば、聞き慣れた音楽に嫌気が差したとき。行き交う人の中でふと孤独を感じたとき。何気ない時間の中で、僕はその伸ばされた白い手を思う。

 大抵の場合はそれが意識される前に感覚を宙に漂わせて、通り過ぎるのをただ待っている。まるで中学生がアイデンティティーを模索するような単純さで。その程度の事は学習していた。

 感情の奥にある藍色の眼で、景色を映すだけでいい。

 すると世界は色彩を失ってモノトーンに染まる。

 しかしその波が思いもかけない力強さで打ち寄せて僕をさらったときに、僕はその伸ばされた白い手を思うのだ。

 緩やかな波が狂気のように迫り言葉が散乱してそのたびに僕はミヅキに当り散らした。言いがかりに近い泣き言や強引なセックスにミヅキはいつも何も言わなかった。優しく僕を包みこみ、行き場のない感情を根気良く吸い取り続けてくれた。

 僕はその手に触れるまで限界まで自分を支え、しがみつき、噛みついて、実際に触れたと思ったときに始めて奥底からの平穏を得ることができた。

 硝子の蔦のような繊細さで絡み合ったそれぞれの自由意志を、僕たちは受け入れて、渡りあった。だから、今のままではいけない事に僕はもちろん気づいていた。

 僕たちの関係は等しく支えあう事で成り立っていたのに、お互いの部屋を等しく行き来し、同じ回数だけ暖めなければいけないのに。ミヅキに頼りすぎる事は僕にとっても彼女にとっても危険な事だった。

 彼女は最初から、それを知っていたのかもしれない。


 久しぶりにこれ以上ないというほど晴れ渡ったその日、午前中で授業の終わった僕がマンションに戻るとミヅキは駐輪所で既にヘルメットをかぶっていて、僕を見つけると飼い主を待ちわびていた子犬のような笑顔を浮かべた。今にも尻尾を振りだしかねない彼女の笑顔はこんなにもたやすく僕を軽くしてくれる。

「何やってんだか、髪の毛ぺったんこになっちゃうよ」

「だって久しぶりにバイク出勤なんだもん、なんだかテンションあがっちゃって」

 そう言っておどけた仕草でこつこつとヘルメットを叩く。

 春の空の下のミヅキ、僕の背中にぴったりとくっつくミヅキ、考えるだけで頬が緩む。

「三十過ぎた女がもん、とか言うなよな」捻くれた僕は素直になれない。

「そういうこと言いますかね」

 ぶすっとしたフリをするミヅキがつま先でバイクを小突く。二人でタンデムする時に、だってじゃまだし、と言ってゴーグルを付けないミヅキの姿はボンバーマンみたいで、キュッと眉根に力をこめたままの顔と釣り合っていなくて可愛らしかった。

「ほら、そんな顔しないで」

 肩を抱くとミヅキはすぐに素直になって顔を埋めてくる。いつまで経っても離れない彼女に「遅れちゃうよ」と声をかけるとミヅキは体をよじってヘルメットの留め金の部分を押し当ててきた。

「春斗」

 返事代わりに少しだけきつく抱きしめてみる。

「好きよ」

 僕を甘やかすその声に、僕も好きだとは答えてやらない。


 今からたった十年ほど前までは、この辺り一帯は夜空が美しいというだけが取り柄の何もない田舎だったらしい。山に囲まれていて土地の安かったこの場所に僕の通う二流の私立大学が新しくキャンパスを作り、それに付随するようにしてこの町は発展していった。

 現代の城下町、とどこか馬鹿にしたように呼ばれるこの町は今でも通りを一本間違えると何百メートルに一本しかない電灯や、風が吹けば砂埃が舞い上がる畦道、薄汚れた古めかしい電話ボックスなんかにお目にかかれて見慣れた通りに戻ったときには思わず文明の発展なんて事まで考えてしまうほどだ。一口で三度はおいしい多角的なこの町の、大学と駅のほとんど中間点にその店は建っている。

 名前は「ラレンタンド」。いかにも音楽かぶれしたその名前のうさん臭さにくわえて、近くの幼稚園とそのまん前に建てられた図書館、いつも動物のフン臭いペットショップに囲まれておよそ人が集まりそうにない立地条件を完璧に兼ね揃えていた。

 外観はログハウス風の小洒落た一戸建てで、店内もクラシックなランプの間接照明だけというこだわりぶりが哀れなほど周りの風景から浮き立っていた。

 昼間は軽食も出し夜は酒も出す、一応は喫茶店という名目のその店で、ミヅキは南国でバカンスを楽しむような気軽さと気だるさで職務を全うしている。店のマスター兼オーナーがいるカウンターの内側にちょろちょろと入り込んで勝手にカクテルを作っては昼間から気炎をはき、そうかと思えば客にタメ口を利きながら一緒の席でくつろいで、飽きると紙ナプキンでお手玉を始めたりとやりたい放題の彼女は、時折何かに目覚めたようにせかせかと仕事をしてオーナーの怒りの矛先から逃れるという特技も持ち合わせていた。

 オーナーにとって厄介なのは、職務怠慢の限度を超えた彼女の自由人ぶりに惹かれてこの辺鄙な場所に熱心な常連客が集まってしまうことで、辞めさせたくても辞めさせられないジレンマを日々募らせていた。


「澤井くん、あちらの席、下げてくれる」

「わかりました」

 声をかけられて手の空いていた僕が空いた皿を下げに行くと数人の客の目がついてくるのを背中で感じた。ミヅキはそれを知りながら目すら合わせようとしないで素早くシェイカーを振り続けている。シンプルなカッターシャツに身を包んだ彼女がこの店で唯一真面目になるのがこの時で、僕は純粋にかっこいいなと思う。

「ハルトくんは今日は大学お休みなのかな、いつもはこの時間いないよね」

 ミヅキが差し出したカクテルに口をつけながら職業不明な女が言葉の端に媚をたたえて話しかけてくる。変に大人ぶった声や下品な目線に嫌気がさしたがこれも仕事のうちだった。

 僕が黙っているときには視界の端に追いやってプライドを保とうとするくせに、小さな笑みを見せるだけで餌を与えられた小魚のように群れをなす、そういう女たち。

「いえ、午前中だけだったんです。ここのバイトは結構不定期に入れてるんで」

 思わず目をつぶりたくなるのを堪えて口元に控えめな笑みを作る。

「そうなんだ、一度ハルトくんにも何かおいしいのをお願いしたかったんだけどな」

 その声にミヅキの眉がぴくりと上がった。おそらく、他の客も含めてそこにいる全ての人がそのことに気づき、そっと距離をとりながら僕に采配を預ける。

「僕なんかまだまだ、うちで一番は海原かいばらさんですから」

 僕は海原美月の癇癪が爆発しないようにちょっぴり持ち上げたが、それを知ってか知らずか女は粘りつく目で喋り続けている。適当な相槌と笑顔で誤魔化しながら背中に冷たい汗が浮くのがわかった。


「海原さん、あなたって人は本当に」

 最後の客が帰ってから小一時間が過ぎてもオーナーの悲痛な嘆きはとどまることを知らないらしい。バイトの中でも古顔の男性スタッフはさっきからしきりに腕時計を眺めては小声で話しかけてくる。内容は今日ミヅキがやらかした事とオーナーの陰口、それにこの後のコンパの事などで、しかしそれもさすがにネタ切れ状態だった。

 普段は二人か三人のスタッフとオーナーだけで十分に機能するだけの広さしかない室内には、厨房係りも含めて五人の人間が窮屈に押し込められていた。

「それにしてもミヅキさんは度胸あるなー、あれはマネできないわ」

 彼は感嘆と呆れをごちゃまぜにした顔でもう飽きるほどに繰り返した同意を求めてくる。

「まあ、普通は石鹸でカクテルなんて思いつきませんよね」

「あの客の顔ったらなかったよな」

「全くです」

 確かに口から泡を吹きながら呆然していたあの顔はなかなかに忘れがたい。ほとんどのスタッフも気弱なくせにねちねちとくどいオーナーに比べて、普段からあっけらかんとしているミヅキに同情気味だ。もちろん、やった事が許される訳ではないのだけれど。

 当のミヅキはオーナーの声にも、うー、とか、あー、とか言葉にならない相槌を打ってのらりくらりとしている。カウンターに置いてあったランプシェードを磨いている後姿が哀れを誘うオーナーが結局根負けしてミヅキを開放するとそのまま解散になった。立ち上がったミヅキがオーナーの打ちひしがれた背がドアの奥に消えるのを見届けると、ほえー、と深く息を吐いて苦笑いを浮かべた。

「やっちまったあ」

「反省してないだろ」

「そりゃしてないけどさ」

 そこら辺がいかにもミヅキらしいと思う。その気になれば誰よりも人あしらいの上手い彼女だが、その能力が発揮されることは少ない。そんなミヅキにこっそり苦笑しながら帰り支度を終えて店を出ようとすると、彼女は、あっ、と言って小声で耳打ちしてきた。

「そういえば今日、ちいちゃんにあんたを紹介する約束してたんだった」

「あのさ、そういう事を勝手に決めないでくれる?」

 僕の声は何もなかったかのように無視されて、「ちいちゃーん」と大きな声でミヅキが呼ぶと小さなロッカールームからちいちゃんがひょっこり顔を出した。

「まあ改めて紹介するのもなんだから。あとはごゆっくりー」

 それだけ言い残して疾風のごとくミヅキが去っていくと僕は仕方なくちいちゃんと向かい合った。紹介、という言葉の意味をミヅキが理解しているかどうかは非常に怪しい。

「えっと、とりあえず時間もあるし。飯でもいこうか」

「うん。でも急なお願いでごめんね、用事とかなかった」

「大丈夫だよ、なにかリクエストは」

「うーん、お任せで」

「了解」

 そう言ってヘルメットを渡すと長い髪をなびかせてちいちゃんがおずおずと体を押し付けてくる。私、バイクって初めてだな、と小声で漏らすちいちゃんの濡れたように赤い唇に触れた。


 それはとても、些細な問題だったから。

 だから僕はちいちゃんを抱いている。目の前で大きく揺れるちいちゃんの胸を眺めている。ほとんど機械的に刺激を与えるたびに彼女は面白いほど簡単に反応する。相手に愛情だと感じさせる愛撫を無意識に与え、やがて一際甲高い声でちいちゃんが達したときに、その声にかぶせて小さく溜息をついた。


 事が済めば親密になったような気持ちになる。それは僕にも理解できるし、そうする事が最低限の礼儀だとも思う。

 彼女の部屋のベッドカバーはまだ高まった体温を残していて、その上でちいちゃんは柔軟だった体を横たえている。長い髪、半開きの目、厚い唇。僕の目にはそれが映っている。

 手馴れてしまった後戯を思って脱力しながら、煙草の煙を吐き出した。

「ハルトくん、なに考えてるの」

 決まりきった台詞。

「きみの事だよ」

 決まりきった台詞。

「ウソでもうれしい」

 そう言ってちいちゃんが僕の頬に触れる。単純だと思う。ただその単純さが純粋な分だけ、触れられる感触が嫌ではなかった。

 つけたばかりの煙草をもみ消すと、僕はちいちゃんの脇の下に腕を挟みこんだ。するとちいちゃんは腕の下から僕を見上げてとろんとした目になる。どうしてこんなにもしっくりくるのかと思って、それがいつもミヅキを抱いている時にする体勢だった事に思い当たった。

 ミヅキの声が振動する場所で、ちいちゃんの声が聞こえるのは我ながらいい気がしなかった。

「ミヅキさんって変わった人だよね」

「そうかな」

「そうだよ、でもちょっと憧れちゃう」

「ちいちゃんはあんな風になっちゃ駄目だよ」

「あんなってどんな」

「少なくとも、あの人といるとそこいらのベビーシッターよりは忍耐強くなるからな」

「ふふっ、優しい顔でときどき口が悪くなるよね、きみって。でもそういうとこも、大人なとこも、すっごくイケてると思うよ」

 やめてくれ。

「それだけ?」

「もっと。いっぱい。ぜんぶ」

 後ろ手に撫でられていた頬からちいちゃんの肉厚な手が離れて、そのまま胸を下りてきて腰骨をなぞられる。僕も同じ順序で彼女に触れる。

「私のどこが好き」

「全部。かわいいと思う」

「子ども扱いしないで」

「綺麗だよ、全部僕のものにしたい」

「ふふっ。いいよ。あげる」

 いらないけれど、僕は礼儀知らずじゃない。

 そして僕はまた、その白い手を思うのだ。


 明け方前に部屋に戻ると、ミヅキはテレビの前で舟をこいでいた。深夜のショッピング番組の流れる前でこくこくと揺れる後頭部を支えて伸びきったショートストレートに唇を当てると甘ったるいリンスの香りと精液の残り香がほのかに香った。

 何度か名前を呼んでみるとミヅキは頭を逸らしてぼうっと僕の顔を見た。

「おはよう、ミヅキ。ちょっと話しがあるんだけどいいかな」

 ずいぶんと時間をかけてミヅキが答える。

「いいですよー」

「今日のちいちゃん、何で紹介したの。あの子、思ってたよりもずっといい子だった」

「でしょ」

「でしょ、じゃなくて。何で」

「だって、いい子だから」

「そうじゃなくて。なあ、たまにはちゃんと答えろ。そういう意味のない冗談なんて煩わしいだけなんだよ」

 僕が珍しく押し殺した声で訴えるとミヅキが奥歯を噛みしめる音が腕を伝わってきた。

「今は、答えたくないなあ」

 間の抜けた声とは裏腹に、ミヅキの震える頭が頼りなく俯けられる。それだけで僕にはもうどうしようもなかった。僕が揺れているときに無言の声で癒してくれるミヅキを責める権利なんて、僕にはなかった。

「ごめん、髪切ってあげるよ。ほら、準備しよう」

 僕がそう言うと彼女は俯いたまま唇だけを動かして「私を坊主にするつもり、なんちて」と言った。ミヅキが苦し紛れに上げた笑い声が膨らんで、すぐに消えていく。

 僕は自分の部屋からハサミとクシを取ってくると、リビングのテーブルをずらして出来たスペースに広告のビラを引く。彼女をその上に座らせてシャツを脱がせてやると薄い胸に唇の跡があった。

「どうして…」

 わからなかった。ただ無性に寂しくて座ったままのミヅキの首に腕を回した。首から肩に伸びる骨の感触も、震えたままの首筋の匂いも、僕が誰よりも知っているはずなのに。

 だけど、今日は僕の番なんだと思う。優しくミヅキを包み込み、行き場のない感情を根気良く吸い取り続けてあげよう。

 フィルタ越しにでも、僕たちは繋がっていたいから。


 幾度となく僕を呼ぶ声に、二度射精した。ミヅキの高まりを、窪みを感じるたびに、持てる全ての力をかけて僕は彼女を愛撫した。これしかない、これしかないのだ、上下する僕たちには。

 彼女はうわ言のように語る。僕は超越感の中で知る。

「春斗、ねえ、わかって。とても苦しいの。とてもよ。涙を流して願っても苦しみはやってくるの。この、喉元から。そう、私は、履き潰すのよ、愛しいから潰しちゃうの。潰されたく、ないよね。私だって潰したくないんだって。けど。春斗だけは。どうしても。ちがうっ、ちがあう、そうじゃない!」

 僕は彼女のを素手で練り固め、彼女の体に貼りつけて、悲しみに塗られた今を重ねる。汚れきったその身体をねじらせ歪めてもなお、彼女は美しいままだ。

 彼女の声は少しずつ大きくなっていき今では渇いたように脆弱な喘ぎを奏でている。

「靴なの。本当に靴みたいだよ、男って。誰かの受け売りだけど好きな靴は毎日だって履いていたい。なのに誰も遠くまで連れて行ってはくれない。ちっぽけで、すぐに擦り切れてしまう。だから春斗にだけは、試さないんじゃない、試せないの。お気に入りの靴はふつう一生かけても見つからないのよ。似たものはたくさんあっても、どれだけたくさんの鼓動を知っても、これ以外愛せない。なんでかな、私のお尻にあんたが出入りするだけで、きもちよくなっちゃうの。ぶっとんじゃうの。世界中でこの人だけだと。体で達しても、意味ないのにね。どうやってこれ以上を示せばいいの。どうやって私は、春斗を愛せばいいんだよ…」

 ごめんね、ごめんね、とすがるように彼女はすすり泣く。

 人間じゃいやだ、人間になんてなりたくなかった。

 そんな悲しい言葉を、口にしないで。

 僕は容易く理解してしまうから。


 僕は夢の中で、初めから夢だと知っていて、暗緑色の深海に身を預けている。

 幾重にも折り重なった斑な帯は、縞模様になってそこを泳ぐ魚たちの体表に微妙な変化を与える。上に行くほどに明るく。底に行くほどに暗く。そこから離れる気はまるでないのに遠ければ遠いほど美しいと感じてしまうのは、僕の悪い癖だ。

 ゆらゆらと弛む水面は時折瞬いて岩陰の淵に隠れていた僕を驚かせる。目を凝らしてみると表面の裏側に沸き立つ楕円形の太陽が律動していた。

 少しだけ出てみようか。

 ハシバミの雌花のような好奇心が僕をそそのかす。けれど僕はとても用心深い。春だからといって無闇に巣穴から抜け出す小動物のように、僕はなれない。

 昔の僕なら。

 その光に幼い魂を震わせ続けることができたかもしれない。

 白い手が伸ばされ、救いを求めるその瞳が愛しい力で僕を動かした。

 その前だったなら。


 目を覚ますと覚醒しきらない嗅覚に違和感を覚えて、すぐに昨日のことを思い出した。ミヅキが僕の横で眠っている事に安心して涙が出た。嗚咽を繰り返しながら頭の隅は痛いほどの冷静で、声を上げて泣いたのは何年ぶりだろうと考えている。それができたのはそんなに昔のことではないはずなのに。

 ミヅキは摂食障害になっている。

 絶対に認めようとしないし普段は素振りも見せなかったが、夜中にこっそりと台所で音を潜めて、何時間もトイレで吐いては何事もなかったように僕の横に潜り込んで浅い寝息を漏らす健気さで。たまに僕が目覚めていることに気づいてしまった時には、一瞬の動揺を走らせて、でっかいうんこがでた、と笑って話すいじらしさで。隠し続ける。

 病院には行っていると思う。それらしい錠剤をミヅキがクローゼットの奥に忍ばせている事を僕はとっくに知っていた。

 しかし実のところ、僕は昨日初めて直接ミヅキの嘔吐を目にしたのだった。僕が突然訪れる憂鬱と倦怠を止められないように、彼女は過食と躁を繰り返す。


 一年という時間が訳もなく過ぎた。大学に入ってから、ミヅキと暮らし始めてから、十代と二十代と三十代の幼さを知ってから。年齢も早さも諦める場所が違っていても僕たちは出逢ってしまった。

 時間と共に変異していくその違いを知って、相手が目を離した隙に横たわる溝を掘り下げて、何もない顔をして二人で一緒に砂をかけた。

 いつも全てをさらけ出したフリをして臆病な僕たちは単純に複雑を交わし合う。

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