復讐の産声

「魔夜っ、白夜達を連れて逃げ


「おっと、それは困るなぁ〜」


母さんが逃がそうとするが、それよりも早く金髪の男がもう1つの扉の前に移動し退路を断たれる。


「それじゃ、楽しみますか」


金髪の男が下卑た笑みを浮かべながら魔夜達を品定めする。その顔を向けられた魔夜達は涙を浮かべる。


「待て。八神様が先だ」


黒髪のガッシリとした体格で頬に風の刺青を入れているリーダー格の男が金髪の男をたしなめる。


「お、おではごいづらがぼじい」


そう言って豚のように太った男が指をさしたのは魔夜、白夜、極夜の3人だった。

当然、魔夜達の顔は青ざめる。


「八神様には養ってもらっている恩がございますゆえ、どうぞその3人はもらってくださって構いません」


「だ、れが、やるか…!」


男達の会話に口を挟んだのは父さんだった。

瀕死の状態だが、それでも立ち上がり男達を睨みつける。


「ふざけないで。子供達には指一本触れさせはしないわ」


その横に並んだのは母さん。2人ともやる気満々で戦闘態勢をとる。そんな母さん達を見て男達は嘲笑う。


「威勢がいいな、ゴミ。お前の力じゃ敵わないことはさっきの一撃でわかったんじゃないのか?」


「……………」


押し黙る父さん。どうやら自覚があるみたいだ。それでも、目に宿っている闘争心が揺らぐことはない。


「ハァァァァ、これだからゴミは厄介なのだ。おとなしく遊ばれたあとに死ねばいいものを」


刺青の男はやれやれと肩をすくめながら父さんを見やる。


「ふざけるな!ゴミはお前らだ‼︎」


激怒した父さんは怒声を張りながらリーダー格の男に突撃する。


「虎爪‼︎」


父さんの手が虎の手に変形し、そのまま切りかかる。


「ハッ、その程度か」


リーダー格の男は避けずに攻撃をわざとくらう。明らかに舐めきっている刺青の男に父さんは全力で攻撃する。しかし、


バリィンッ


「なん、だと……⁉︎」


しかし、砕けたのは父さんの手だった。

全力の攻撃が通じないことに呆然とする父さん。

しかし刺青の男はそれを許さない。


「だから言ったろう?お前程度では俺に勝てないのだよ」


言い終わると同時に父さんの溝に拳を叩き込む。


「ゴフッ⁉︎」


「そら、まだまだだ‼︎」


ゴキッバコッドスドスバキィィィッ

殴打の音が鳴り響く。

顔を下げた父さんの顔に膝蹴り、浮き上がった顔に拳を叩き込み、再度溝に2発入れた後止めと言わんばかりの大振りな蹴りをかます。


「う、………」


まだ意識はあるが、戦闘はこれ以上無理だった。


「ゴミが、そのまま横になって見ていろ」


トドメに頭を踏みつけ床を突き抜ける。父さんはそのまま気絶し、刺青の男は冷たい眼差しを浮かべ父さんから目を離す。


「……何を…してくれてんのよ…!」


それまで魔法の準備をしていた母さんが怒りの表情で刺青の男を睨みつける。


「何か文句でもあるのか?ゴミが」


「!……クズにゴミとは言われたくないわねぇ‼︎」


言い終わると同時に準備をしていた魔法を解き放つ。


『竜王の獄炎』


竜の形を成した炎が男達に迫る。

この魔法は母さんの異名【女王竜】クイーンドラゴンを代表する最も強い魔法である。

これを完璧に防げたのは未だかつて誰もいない。

しかし…………


「貴様のことは調べ尽くしているぞ、【女王竜】クイーンドラゴンよ」


『竜王の獄炎』は男達にぶつかる前に霧散して、消えた。


「なっ⁉︎そんな⁉︎」


想定外の事態に思わず言葉を漏らす母さん。今まで一度も破られたことがない魔法が簡単に消されたのだ。


「うるさい」


「っっっ!」


刺青の男は母さんを蹴り飛ばす。

母さんは咄嗟に作った障壁で身を守る。


「まだだよ!」


金髪の男が母さんにカカト落としを放つ。母さんは障壁を張る。しかし


「無意味だよ」


母さんはカカト落としを脳天に落とされる。障壁はまるで消えたかのように霧散していた。母さんはそのまま意識を落とす。


「「「母さん!」」」


白夜達は悲鳴をあげる。


「それにしてもこの程度とは……話にならんな」


刺青の男は蔑んだ眼で倒れる母さん達を侮辱する。


「それでは、楽しむとするか」


そして、標的は魔夜達に変わる。


「ブフフフ、やっどあぞべる」


豚のように太った男、八神が気持ち悪い笑みを浮かべる。


「どりあえず、ごうぞぐじでおぐが」


「わかりました。『戒めの縄』」


白夜と極夜に、魔法で生み出された縄がまとわりつき拘束する。


「白夜、極夜⁉︎」


「外せっ、外せぇぇぇぇっ」


「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だぁぁ‼︎‼︎‼︎」


縛られた白夜と極夜はパニックに陥り、魔夜は2人の縄を解こうと躍起になる。

だが、魔夜に魔手が迫る。


「君はこっちだよ〜、可愛い子ちゃん」


金髪の男はそう言いながら魔夜を床に抑えつける。


「「魔夜っ⁉︎」」


「君らは自分の心配をしたほうがいいよ〜。

今から拷問されるんだし」


白夜達は拷問という言葉がわからず、首をかしげる。


「わからないなら教えてあげるよ。つまりは


ズブッ


「……え?」


「ごういうごどだ」


白夜と極夜の足に釘が一本ずつ刺さる。


「「がぁぁぁぁぉ⁉︎あっ、ああああぁぁぁぁ⁈⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎⁉︎」」


白夜達は悲鳴をあげる。


「君は体で遊ばせてもらうかなぁ」


そう言って金髪の男は魔夜をベットに連れて行く。

魔夜はこれから何をされるか想像し、絶望の表情を顔に貼り付ける。


「いや、いや……、イヤァァァァァァッッッ‼︎離してっ、絶対にヤダッ‼︎」


「いいねぇ、その反応。それでこそ壊しがいがある」


金髪の男はそう言いながら、奥のベットの部屋に消えていった…。


それからは悪夢だった。


「グフフ、いづまでもづがだのじみだ」


「殺す……、絶対に殺してやる!」


白夜は瞳に殺意を宿しながら八神と呼ばれた豚男を睨みつける。八神はフンッと鼻で笑いながら白夜に拷問を始める。


「やっでみろ」


そう言いながら白夜に油をかけ、火をつける。


「あ゛あ゛っ!あづいっ⁉︎がぁぁぁっ!」


白夜の絶叫が響く。全身を焼かれているのだ。痛みに慣れていない子供にとって地獄とも言える痛みだろう。八神はそれを見て満足そうに顔を歪める。八神はしばらくして白夜に水をかける。水をかけられた白夜の身体はすぐさま治っていく。しかし、白夜は今火炙りにされている。その状態で身体を治されるということはこの苦しみから逃れることができない。つまり、地獄の状態が続くということだ。

八神はさらに追い討ちをかける。火炙りにされている白夜の手に一本のナイフを突き刺す。


「っっっ!やめ」


さらにもう一本を逆の手に突き刺す。

八神はそのナイフに電流を流す。白夜は声も出せずひたすらに嬲られるしかなかった。

全身を火炙りにされながら高圧電流がナイフを伝い全身に流れる。さらにこのナイフを刺された時から白夜は痛みが増していることに気づく。なんらかの魔法が施された武器なのだろう。気づいたところで現状は変わらないのだが……。

白夜はその状態で放置され、八神は極夜に視線を向ける。極夜は先程まで恐怖に怯えていたが、今はどういうわけか怒りでその眼を血走らせている。八神はその態度が気に食わなかったのか、極夜の顔を殴る。

殴られた極夜は呻き声一つ上げずに八神を睨み、ペッと八神の顔に唾を吐く。


「……………」


八神は無言で極夜に殴打を加える。その拳の速度は1発ごとに増していき極夜も耐えていたが遂に呻き声を上げてしまう。それも仕方ないだろう、まだ子供なのだから。

八神はその姿に満足そうに頷くと腰に下げていた拳大のハンマーを躊躇なく極夜の足に落とす。


「あ゛っ⁉︎がぁぁぁっ、あ゛あ゛っ!!」


グブチャッと音を立てて極夜の足が原型を無くす。堪らず絶叫する極夜。八神はどこから取り出したのかチェーンソーで極夜の右腕を切り刻んでいく。


「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!!」


極夜は絶叫を繰り返す。血反吐を吐きながら、痛みに耐えながら、しかしそれでもその怒りの眼だけは変わらない。

そして右腕が切り落とされる。

極夜は顔面蒼白にして満身創痍になりながらそれでも睨みつけることはやめない。その態度に不服そうな八神はもう一本の腕を切ろうとするが



「おまえだち、いがいどいいがらだをじでるな。よろごべ、おれがじきじきにおがじでやる」


もはや逆らう気力さえなくしていた白夜と極夜は豚が覆いかぶさるのを死んだ目で見ることしかできなかった…………。



男達が侵入してきて1時間が経った頃、金髪の男が魔夜を抱えて戻ってきた。


「いやー、幼女って意外にいいっすね」


「くだらん。俺はそんなことに興味はない」


「またまたぁー、旦那も少しはあるでしょー。それで八神様は、うわー、もしかしてあの子供達を犯したんですか?」


金髪の男が視線を向けた先には、事が終わった後の無惨な姿をした白夜達だった。


「そうだ」


「やる〜」


金髪の男はそう言って魔夜を白夜達の方に放る。魔夜の体も白夜達と同じくらい汚されていた。


「いやぁ〜、それにしても気持ちよかったですよ。俺、3回も出しちゃいましたもん」


「おでは、ごのはくはづのガギに3回ど、ぎんぱづのガギに2回だ」


「マジですか⁉︎さすが八神様ですね!」


金髪の男と八神が下卑た話で盛り上がる。


「お前達はもう満足したか?」


黒髪の男の質問に金髪の男達が答える。


「この女の子持って帰っていいですかね?かなり良い体をしてたんで、まだ楽しめると思うんすよね〜」


「おでも、もぢがえる」


「ならば、親共は殺してもよろしいですか八神様?」


「ずぎにじろ」


その言葉に満足そうに笑いながら刺青の男は母さんと父さんを魔夜達の前に並べる。

魔夜達はそれを見て、母さん達のところに行こうとするが


「『戒めの縄』」


白夜と極夜は再び縄に体を椅子ごと縛り付けられ、口に猿轡をされる。

そして、刺青の男は魔夜達に悪魔の課題を押し付ける。


「今から1分以内にその2人の縄を解け。そうすれば俺達は大人しく警備隊に捕まってやろう」


その言葉に魔夜は泣きそうな顔をする。母さんと父さんをあしらうような男達の魔法だ。

子供の魔夜が逆立ちしたって魔法を解除できるわけがない。

そんな魔夜の胸中を知りつつ、刺青の男はさらに地獄を見せる。


「解けなければ、お前達の親を殺す」


「や、めて……!」


魔夜が土下座をして懇願するが


「それでは開始だ。1、2、3、……」


「っ⁉︎待って、もう、ああぁぁぁぁっ‼︎‼︎」


カウントダウンが始まり、魔夜は白夜達の縄を解こうとする。手の爪がはげても、御構い無しに解こうと躍起になる。しかし、所詮は子供だ。どんなに足掻こうが奇跡は起きない。


「……59、60。時間切れだ」


「あぁぁ、いや、やめて下さい!おねがいじまず‼︎なんでもじまずがらぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎」


魔夜は顔を涙と鼻水で濡らしながら、必死に足にしがみつきながら懇願する。それを刺青の男は嘲笑いながら見る。


「クククク、その表情を見たかったんだよ」


刺青の男は魔夜を足で払うと、母さんと父さんの顔が魔夜達に見えるように位置を変えた。


「喜べ、死に様をしっかりと拝ましてやろう」


「「んんんんっっ‼︎んんっ‼︎」」


「や、……め、て…」


白夜達は縛り付けられているので呻き声をあげることしかできない。魔夜は這いつくばりながらも、母さん達のところに近づく。

そして、魔夜が母さん達に辿り着いたその時


ザシュッ


ドンッ、ゴロンゴロン…


「「「……………」」」


母さんと父さんの首が宙を舞い、落ちた。


「い……、あ、ああ、あああああああぁぁぁぁぁっっっっっ‼︎‼︎‼︎⁇⁇⁇」


「あああああああぁぁぁぁぉぁっっ‼︎‼︎」


「ガァァァァぁぁ⁉︎⁉︎⁉︎」


魔夜、白夜、極夜は絶叫をあげる。

それを見て笑う男達。

この時、魔夜達は絶叫しながら思っていた。


なぜ、こんな目にあう?


なぜ、こんな仕打ちを受ける?


なぜ、自分達はなすがままにされ抵抗できない?


なぜ、親を殺される?


なぜ、自分達はこの外道に反撃できない?


なぜ、自分達は泣くことしかできない?


なぜ?


それは唯一つの理由。単純で簡単、誰にでもわかる理由。それはーーーー


ーーーー力が無い。唯それだけだ。


この時、魔夜達の心にはそれぞれある感情が暴れていた。


「憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎」


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺殺」


「潰してやる、潰して引き裂いて捥いで抜いて刺して切って剥いで…………」


次第に泣きやんだ魔夜達に様子がおかしいと思った刺青の男が近づこうとするが、


ドンッ


「大丈夫か‼︎」


そこに警備隊員達が突入する。


「チッ、逃げんぞ」


「マジですか⁉︎早すぎでしょ⁉︎」


「ごいづらをづれでいげ‼︎」


「無理です八神様!このガキ共を抱えて逃げるのは不可能です!」


「チッ、わがっだ。いぐぞ」


しかし、男達の逃げ足の方が早く、警備隊が部屋に入った時には姿を消していた。


「クソッ、逃げられたか…。生還者は、⁉︎」


そう言いながら警備隊員の男は子供達を見つける。死んだ母と父の頭と体を抱えた子供達を。

白夜と極夜の縄は男達が逃げた時に消えていた。


警備隊の隊長らしき男が子供達に話しかける。


「すまない、助けに来るのが遅かった…!」


土下座をして謝る警備隊の隊長らしき男に、魔夜達は


「今回の出来事は私達の力不足…」


「力が無い奴が悪い…」


「力がいる…、あのゴミ共に負けない力が……!」


狂気を孕んだ目を向け、そう言った。

この時、魔夜達の心は一致していた。

一寸の狂いもなく一致したその思いは


「「「ブチ殺す」」」


魔夜達の将来を復讐の道へと誘った…………。

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