夜の悲鳴

「な・に・をしてくれてんのよぉぉぉ⁉︎」


「「「何かした?」」」


「ハモんなぁぁぁぁ‼︎」


魔夜が転移した場所は俺達の部屋だ。部屋、というかボロ小屋に俺達は住んでいる。


「ここが、魔夜様のお部屋…?」


水川はこんな所に住めるのか?というような顔で部屋を見回している。一応整理整頓はされているのだが、元々はボロ小屋なのでかなり汚い。


「ハァァァ、もう何なのよ。あなた達は何で私のギルドを選んだの?」


ハデスの問いに


「子供みたいで可愛かったから」


魔夜が真顔で答える。


「その喧嘩買ったわ表に出なさいこのヤロォォォォ‼︎」


ハデスは顔を真っ赤にして魔夜に喧嘩を申し込む。…………、やってしまったな…。


「じゃあ表に出ましょうか」


「え?ホ、ホントに?」


ハデスはまさか乗ってくるとは思わずあたふたする。


「そうね、負けたらずっと私の奴隷として動いてもらいましょうか?」


「すみません調子に乗りました」


即座に土下座をするハデス。神を土下座させるとは、我が姉ながらおそるべし…。


「わかればいいのよ」


魔夜はハデスの土下座に満足すると話始めた。


「神・ハデス様。私達兄弟がハデス様のギルドを選んだ理由を説明します」


「え⁉︎土下座させた後に言われても困るんですけど⁉︎」


あ、魔夜がイラッとしたのがわかった。


「まぁ、その話は後にしようぜ。今は荷物まとめて逃げねーと」


極夜が荷物をまとめながら提案する。俺と魔夜もその言葉に頷き、必要な物をバッグに詰めていく。

必要な物を詰め終わると魔夜は水川に必要な物があるか聞いたが


「ワタシは特にまとめるものとかないので気にしなくていいですよ!」


そう言われたので次はハデスに聞いた。


「アタシには1人だけ部下、というより仲間がいるの。その場所がアタシ達の今の拠点だしね」


この答えには驚いた。


「味方がいたんですか⁉︎」


水川が驚きのあまりハデスに詰め寄る。


「そ、そりゃあ1人くらいいるわよ。長年の付き合いだしね」


「では、その近くに飛びますか。場所はどこですか?」


魔夜が場所を聞いて転移をしようとする。


「別に遠くないから転移しなくても大丈夫よ」


「そうなのか?」


「そうよ。無駄に転移して疲れるより歩いて行った方が楽と思うくらいには近いわ」


「何だその例え…」


とにかく場所も近いというので俺達はそこに向かうのだった。


「タナトスー、今戻ったわよ」


ハデスはギルドハウスにいるタナトスに呼びかける。


「ハデス様⁉︎戻るの早すぎま、せん…か?」


タナトスは俺達を見るなり目を大きく見開いて絶句している。

たっぷりと思考停止して我に帰ると


「ハデス様、ハデス様‼︎もしかしてこの方達は⁉︎」


「え、ええ。新しく、入る、ってタナトス揺さぶるのやめてよ‼︎」


ハデスの肩を鷲掴みにして揺さぶりながら聞くタナトス。それに気持ち悪くなったのかハデスの顔が少し青ざめている。


「す、すみません!少し興奮してしまいました…」


タナトスは大きく深呼吸をして自分を落ち着かせる。

魔夜はタナトスが落ち着いたのを見て自己紹介をした。


「初めましてタナトス様。この度、ハデス様のギルドに入らせていただきます白崎 魔夜と言います」


「同じく、白崎 白夜です」


「同じく、白崎 極夜」


「私は水川 時雨です。これからよろしくお願いします」


タナトスは俺達の自己紹介に涙ぐんでいた。


「タナトス様、どうかしましたか?」


魔夜がタナトスの様子に不安そうに聞く。

タナトスは首を振りながら答えた。


「申し訳、ございません…。今まで、誰1人として、ギルドに入ってくれませんでした…。今回の眷族戦武でも、誰も入らないと、考えておりました…」


タナトスは涙を拭いながらも続ける。


「ですから、初めてギルドに人が入ってくれたことに、つい感極まってしまって…」


タナトスは手で顔を覆い、嗚咽を漏らし始める。そんなタナトスの様子に俺達は暖かい眼差しを向ける。水川は泣いていたが。

ハデスは泣いているタナトスの頭に手を乗せようとするが、身長が足りず赤面しながら背中をさする。赤面しているのは俺がニヤニヤ笑っていたからだ。


「タナトス、今まで辛い思いをさせてごめんなさい。でも、2度とあんな思いはさせないわ。なんたって彼女達はトップスリーを独占しているんだから!」


「ハデス様、私を元気づけるためとはいえ、嘘はいけませんよ」


タナトスは涙を拭い、ハデスに説教を始め出した。……、今の流れで⁉︎

俺達は戦慄した。

ハデスのあまりの残念さに。


「ちょっ、タナトス⁉︎今の嘘じゃないわよ‼︎」


「ハデス様、この弱小ギルドにトップスリーの人が入ってくると言われて信用できますか?」


「それは、そうだけど…。でも


「でもじゃありません。水川様、あなたは本当にトップスリーに入るのですか?」


タナトスは近くにいた水川に聞く。


「私は初戦敗退しました…。トップスリーを独占したのは魔夜様と極夜さん、あとそいつです」


なぜ、俺だけそいつ呼ばわりなんだろう?


「……、すみませんもう1度お願いします」


タナトスがもう1度聞く。


「だから魔夜様達が独占したの‼︎」


タナトスは信じられないという顔で俺達の顔を見回す。まぁ、今まで誰も入ってこなかったのに急にトップスリーって言われても現実味がないか。


「ハデス様…、ホントですか?」


「ええ、ホントよ」


タナトスは恐る恐るハデスに聞き、ハデスは微笑を浮かべながら優しくタナトスに教える。タナトスの肩がプルプル震えている。

よっぽど嬉しかっ


「ハデス様!大変ですよこれは‼︎」


…………、かなり慌て出すタナトス。


「タナトスもそう思うのね」


ハデスはそれに深妙な顔で賛同する。

魔夜は2人の様子を見て、何かに気づいたようだ。


「魔夜、どういうことだ?」


「他のギルドが攻めてくるってことよ。またはそれに近い決闘を挑んでくるわ」


魔夜の言葉に俺達はやっと気づいた。

あれだけ派手な戦いをしたのだ。他のギルドが手に入れようと躍起になる可能性を懸念しておくべきだった。


「どうする?きたら殺しちまうかもしれないぞ?」


「どうしましょう。正当防衛で何とかならないかしら?」


「あっちからくるんだからそれで通るだろ」


「「それだ!」」


「そっちの心配ですか⁉︎」


俺達にツッコむ水川。ハデスとタナトスもこちらにジト目を向けている。すると魔夜が優しく水川に諭す。


「私達に勝てる人がいると思う?」


「魔夜様に勝てる人などいませんね‼︎」


水川は考えることを放棄し、魔夜の言葉を肯定する。………、コイツ大丈夫か?

まぁいいや。それより本題に入ろう。


「ハデス様、さっき魔夜が言いかけた俺達がハデス様のギルドに入る理由を説明してもよろしいですか?」


「いいわよ。その前にちょっといいかしら?」


ハデスは少し不機嫌な顔をしている。何故だ?


「もうギルドに入ったんだし、「様」をやめてほしいんだけど」


神様なのに「様」がいやとは、珍しく神様もいるもんだな。


「わかった。じゃあ、ドチビ。話を始めるぞ」


「ドチビ⁉︎⁉︎様をやめてとは言ったけどドチビと呼ぶのは酷くない⁈」


「あれは、今から8年前のことだ…」


「シカトかぁぁっ⁉︎⁉︎」

ハデスの抗議を全てスルーし、話は8年前に遡っていくーーーー

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る