夜の兄弟
神様がこの世界に降臨してから人々の生活は大きく変わり、2つの恩恵を授かった。まずは魔法が使えるようになったこと。
使えるようになっただけで誰でも簡単に使えるわけではない。適性がある者は例外だが。まず、魔法を使うためにはイメージが必要だ。例えば水道管の中に魔力を流して魔法を使う人やバケツから水を出して使う人、魔法陣を構築して発動させる人など様々なイメージで魔法を使う。なかにはあらかじめ紙などに魔力を込めながら魔法のイメージをして、それに魔力を込めると発動するなどといった画期的なものもある。
しかし、適性がある者はこのようなことをせずにどのような魔法を使うかイメージしただけで使えてしまう。これは一見簡単そうに見えてかなり難しい。それでも、魔法を人類が使えるようになってからはほとんどの人間が使用している。といっても、魔力が少なくてあまり使えない人もいたりする。そういった人達は魔法ではなくステータスを上げることで補っている。
ステータスとは神様から授かった2つ目の恩恵である。ステータスは筋力・耐久力・敏捷力・魔力の4つにスキルがある。
筋力は言葉通りの力のことをあらわす。
耐久力は身体の硬さのことで、高ければ高いほど攻撃が効きにくくなる。
敏捷力は速さ。速さは足の速さや回避力、攻撃の速さなどに関係している。
魔力は魔法を使う際に消費するいわばスタミナである。
最後にスキルだが、これは謎だ。
例えば鍛冶をしている人はみんな鍛冶スキルが手に入るが、同じ訓練を受けているのに取れなかったりすることもある。さらにごく稀に起こることだが、生まれた時から持っていた、命の危険や感情が昂ぶった時に取れる特別なスキル、オリジンスキルを習得することがある。この他にもスキルをたくさん使えば派生スキルが出たり、スキルが進化するなんてこともある。このようなことからーー
「おーいゴミ屑野郎!何してんだぁ?」
そう言いながら近寄ってきたのは同じクラスメイトの十一神 良介。苗字に数字と神が付いているのは神様を崇拝している証とこの世界の権力者の証、『12神族』だ。
「何してるかって、聞いてんだろぉがぁっ!」
そう言って読んでいた本をぶんどりいきなり顔に投げつける。
ガスッ
本を顔にぶつけられても無言で反応をしない。
この手のことは日常茶飯事でこの男は俺を学校から追い出そうと嫌がらせをしてくる。
「チッ、何でお前みたいなゴミ屑がこの学校にいんだよ。さっさとやめろよ」
「…………」
何も言い返さずに無言で見続ける。
そんな俺に苛立ったのか今度は拳を振り上げる。
「返事もできねぇのか、白崎ぃぃ!!」
十一神は目の前の男、白崎 白夜を怒鳴りつける。
怒鳴られている本人、白夜は「うわ、メンドくさ…」と表情と態度で示し、思い切りシカトしている。
「ふざけんなぁっ!」
叫びながら殴りかかる十一神。
「どうしましたか?」
ちょうどよくそこに現れた白夜の姉、白崎 魔夜の登場により、白夜を殴ろうとした十一神の拳が寸前で止まる。
「十一神さん、愚弟が何かしたのでしょうか?」
さらりと白夜を馬鹿にしながらの質問に十一神は即座に笑顔で応対する。
「ええ、実は先ほど、この読んでいる書物が何か聞いたところ、睨みつけられたのでその制裁をしようとしたところです」
と、ぬけぬけと嘘をついた。
その問いに対して魔夜も笑顔で返す。
「そうですか、なら構いません。どうぞ再開してください」
ここで止めないのが白夜の姉である。
そもそも白夜達兄弟に助け合いの精神はない。
最終的な目標は同じだが、この魔導学園で助け合うことを互いに禁止したのだ。
ちなみに兄弟は3人だ。上から魔夜・白夜・極夜の順だ。
魔夜はこの魔導学園で最も魔法に長け、その力は『12神族』に匹敵すると言われているほどである。容姿も整っており黒髪黒目と今では少ない純日本人風の顔にパッチリとした目がさらに人気を上げている。身長が158センチも低いことがコンプレックスのようだが、そこがいいと学園の一部の間では歓喜をあげている。
次に弟の極夜は魔法の適性は普通だがステータスが異常だ。ステータスの筋力、耐久力だけで言えばこの学園最強と言っても過言ではない。こちらも容姿が整っており赤髪黒目でどこかチャラ男に見えるかもしれないが力強い目と元々のコミニュケーション力の高さでこちらも人気がある。当然女子にモテるのでいつも女の子が周りをうろついている。
最後に俺、白夜だが、魔法は平均以下でステータスも下から数えた方が早い。それに実戦訓練でも全く勝てない、いわゆる雑魚である。それに加え、目つきが悪くて雰囲気も暗く、友達もできずという状態で学園生活を送っている。白髪黒眼と言うことも不気味さを上げている要因だ。オマケに入学式初日、『12神族』の十一神がクラスの女の子に執拗に話しかけていたので「ウワァ〜、モテナイ男が権力かざして迫ってる……。引くわぁ〜……」と馬鹿にしたせいで学園のすべての生徒からいじめというには生温いほどの迫害を受けている。
この兄弟達が素晴らしすぎるせいと兄弟達の容姿がかなり整っているせいで白夜は「失敗作」と呼ばれ、学園ではイジメの標的とされている。
魔夜と十一神が話をしている間、そんなことを考えていた白夜は魔夜達に意識を向ける。
十一神は魔夜に許可を殴ることを許容されたが、殴りはしなかった。
「魔夜さん、ここで殴るのはやめておきます」
突然そんなことを言い出す。その言葉に魔夜は不思議そうに首を傾げる。あれはワザとだと確信している白夜はジト目を向ける。
「あら、私は別に構わないけどいいの?」
「ええ構いません。どうせこの後に潰されるのは目に見えてる。今潰すより公衆の面前で潰される方がいいと思いませんか?」
魔夜のあざとい仕草に顔を赤くしながら十一神は魔夜に自分の考えを伝える。
そわな十一神に魔夜は凍りつくような視線を一瞬だが向ける。
そんな魔夜の視線に一気に背筋が凍る十一神。
さっきまで同調していた相手が急にそんな視線を向けるてくることに理解が追いついていないのだろう。
魔夜は一回瞬きをすると視線を凍りつくようなものから一転、楽しそうな目をしながら十一神に告げる。
「確かに、その方が面白いかもしれないわね」
魔夜は笑顔で十一神の言葉に賛同する。
十一神は魔夜の凍りつくような視線が忘れられないのか口元が引きつっていたが、最後の魔夜の言葉に安堵した表情になった。
「そろそろ集合場所に行った方がいいんじゃないかしら?」
そういえばもうすぐか。集合場所は魔導学園の闘技場で、確か…13時に集合だったっけ?
俺が今いる場所は魔導図書館だから10分もあればつくな。今何分だ?
白夜がそんなことを考えていると
「あと15分で始まるわよ」
俺の考えを察して魔夜が残り時間を教えてくれた。それを聞いた十一神もさすがにまずいと感じたのか
「それでは魔夜さん、僕はこれで失礼します。それと、これは忠告ですがそいつとは家族の縁を切った方がいいでしょう。今までの実戦訓練で1回も勝てないようなゴミは魔夜さんと極夜さんにふさわしくありません」
いや、帰れよ。これで失礼しますとか言いながら話し始めんなよ。白夜はうんざりしながら終わるのを待つ。
「ありがとう。でも、こいつには家事などの雑用を任せているから縁は切らない方が楽なのよ」
俺は専業主婦じゃねーよ⁉︎そんな白夜の心のツッコミは魔夜には届かない。
「それを聞いて安心しました。では、後ほど」
何を安心してんだ!
やはり白夜の心の声は届かず、十一神は魔導図書館を出て行った。
魔夜と俺は少しの間何も話さずそこにいた。
が、さすがに時間がやばそうなので歩き出そうとすると
「転移魔法を使うから、一緒に送ってあげるわよ」
と話しかけられた。
この提案は願ったり叶ったりなのでその提案に白夜ともう1人は乗らせてもらった。
「極夜、隠れている意味あるかそれ?気配がだだ漏れなんだけど」
「わざとに決まっとろーが。お前が本読みすぎて集合時間に遅れると思ってきたけど、意味なかった」
「そりゃどーも」
もう1人は俺の弟、極夜である。
「それで、今日はどうすんの?」
「どうするって、今からある眷族決めのことか?」
「それ以外に何もないだろ。俺達の目的のためにもしっかり決めねーと」
眷族決めとはこの世界にいるゼウス・ポセイドン・ハデス・ヘラ・アテナ・アルテミス・アレス・ヘファイストス・デュオニュソス・ヘルメス・アポロン・アフロディーテ・デメテルの13の神々がいる。なぜオリンポス十二神だけではなくハデスもいるのかというと、この世界の現状を作ってしまったのがハデスらしいということだ。
この世界に神々が降りてきたとき、神々が最初に行ったのは謝罪だった。ハデスにこの世界の管理を任せており、他の神々はこの世界の現状を知らなかった。故に、ハデスがこの世界が破滅に向かっていてそれを止めようとしたが1人では何もできずこのようなことになってしまった。ではなぜハデスは他の神々に助けを求めなかったのか?それはハデスの傲慢な思い上がりが招いた結果らしい。ハデスは1人でできると自惚れ、俺達人類の破滅を止めれなかった。そこにちょうど様子を見に来たゼウスがこの事態を重く見てこの世界に降臨したということだ。
これを知った人々は驚いた。ハデスとは冥府の神で死んだ人間を裁定するだけと思っていたのだ。
伝承とは違い、ハデスが女性であったことも驚愕に拍車をかけた。
あとに聞いた話では人間達が昔から信仰していた『オリンポス12神』や『八百万の神』などはいるが、その他は天使に分類されるのだそうだ。
一番位が高いのが『オリンポス12神』、次に『八百万の神々』、そして『天使』。
これが存在している神々だということらしく、また性別が違う神もいるとか。
それから約2000年経った今では神が取り仕切るギルドが作られ、訓練を受けた者は神々のギルドに入っていく制度が作られたのだ。
そして今日がその神々のギルドに入る日なのだ。ギルドを決める方法はトーナメント戦を行い、優秀な者からギルドを決めていく。
最も強く人気があるのはゼウス・ポセイドンのギルドだ。構成員も多く、全員が手練。人数制限があるのはこのギルドだけで、その人数もたった5人と少ない。傘下のギルドから上がる者もいたようなのでそこを目指す人も少なくない。それに対してら他のギルドは人数制限がない。あるとすれば、ヘファイストスのギルドだけは鍛冶をするのが必須条件となっている。
そして、このギルドの中で最も弱いのがハデスのギルドだ。当然といえば当然である。この世界の現状を作った張本人なのだから。構成員は0、ギルドハウスも幽霊屋敷と見紛うほど汚いが、それもお金が払えないとかで撤去されたらしい。逆にゼウスのギルドは王族でも住んでいるのかと勘違いしそうになるほどのバカでかい豪邸に構成員は千人を超える。ポセイドンも同じような者でその他は見劣りするものの立派なギルドハウスがあり、構成員もいる。
そんなギルドに入る大事なトーナメント、『眷族選武』なのだが、この学園の成績で考えれば白夜は絶望的だ。
1回も試合で勝っていないのだから。
「やっぱりゼウスのとこに入るか?それかポセイドン?」
極夜が魔夜にどこに入るかを聞く。
正直その2つが白夜達の目的を遂行するのにいいのかもしれない。ある程度の力があるギルドに入れば融通が利くかもしれないし。
しかし、魔夜の考えは全く違った。
「いいえ、ゼウスでもポセイドンでもないわ」
「は?じゃあヘラとかアフロディーテのとこに入んの?」
この極夜の質問に魔夜は口角を吊り上げて笑った。………この笑顔のときはマジでヤバイんだよなぁ。極夜も魔夜の笑顔を見て頬が引き攣ってしまっている。
そして、白夜と極夜の姉、魔夜は楽しそうに白夜達に自身の考えを告げた。
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