クリスマスイブの夜②
佳代を家へと送り届けて、自宅へと帰ってきた。玄関を開けるなり、とても美味しそうなニオイが私達の鼻をくすぐった。しかし、ご飯を食べるにも微妙な空腹具合。数時間前に食べたご飯が、まだ消化されていないように感じる。
私と礼奈ちゃんが「ただいまー」と言いながら靴を脱ぎ家の中に入ると、父親が「おぉ、おかえりおかえり。ちょっと来なさい」と、リビングから少し大きな声で私達二人を呼んだ。
まぁ、予想はしていたが、恐らくクリスマスプレゼントが用意されているのだろう。礼奈ちゃんはともかくとして、私は来年もう二十歳だ。親からプレゼント貰う年でも無いとは思うのだが、父親は私にメロメロなので、絶対に買っていると思う。
そしてプレゼントも、大体想像がつく。恐らく上着だろう。私自身の持っているコートは、ことごとく駄目になってしまい、今は母親のコートを借りて着ている状態だ。むしろ上着以外のものが思いつかない。
「なんでしょうか? 珍しいですね、呼び出されるの」
礼奈ちゃんは少しだけ緊張した表情をして、おずおずと私の後ろを付いて歩く。
リビングへと入り、私は父親の姿に思わず「ぷっ」と吹き出した。後ろに居る礼奈ちゃんも「あははっ」と、笑っている。
父親は白い付け髭をしており、お腹に毛布か何かを丸めたものを入れ、その他は普段通りの格好で私達を出迎えた。なんて中途半端なコスプレなんだ。
よく見たら付け髭も、クッションか何かの白い綿を無理矢理、髭の形にして作ってあった。急ごしらえなのがバレバレだ。
「メリークリスマース! 良い子の二人には、とてもナウなプレゼントがあるんだぜーっ!」
父親はそう言い、ソファーの上にあった包装されている大きな箱と、割りと小さめの袋を手に取り、これ以上無い笑顔を見せて「メリークリスマース!」と言い、私に大きな箱を手渡し、礼奈ちゃんには小さな袋を手渡した。
「えっ……? わ……私にも、ですか……?」
「そうさっ! うちの子はみんな、クリスマスにプレゼントが貰えるのさっ!」
「あっ……あぅ……あ、ありがとう、ございます」
礼奈ちゃんは困惑した表情を作りつつも、口元をニパッと開き、本当に喜んでいるように見えた。
家族として認められている事に加えて、事故に合った後に、父親と呼べる人から初めて貰った、クリスマスプレゼントが嬉しいらしく、礼奈ちゃんは目をつぶり、ギュッと抱きかかえる。
良い子だ。本当に良い子だ。
「ありがとう父さん。あとで背中でも流すよ」
「はっはっは! 父さん、体がくたびれてきてるから、遠慮しておく」
そういえば中学三年の時、私から一緒にお風呂に入るのを拒んだのでは無く、父親が「恥ずかしい」と言い出して、一緒に入らなくなったという事を思い出す。私としては今でも別に、そんなに抵抗は無いのだが、やはりくたびれた体を見られるのは、恥ずかしいらしい。
「これコート?」
私がそう聞くと、父親は一瞬、表情を固めて「それはどうだろうねぇ」と、言った。どうやら図星らしい。これはコートだ。
しかし、礼奈ちゃんのほうは分からない。礼奈ちゃんに必要なものとは、一体なんだろう。小さな紙袋には、一体何が入っているのだろう。
「……安奈ちゃん、開けてみなよ」
家族の前では、礼奈ちゃんは未だに安奈ちゃんである。
説明しなくてはいけないのだが、出来ていない。そろそろ本当に、覚悟を決めなくてはな……と、思う。
「あ……はい。そうですね」
礼奈ちゃんはそう言いながら、ゆっくりとテープで止められている紙袋の口を開き、中身を確認する。そして中を見た瞬間に、凄く凄く驚いた表情を作って「わあぁっ!」と、大きな声をあげた。
袋の中に手を突っ込み、勢いよく中身を取り出すと、そこには小さな箱が握られており、良く見るとそれは、私が使っているスマホと同じシリーズの、最新作の化粧箱であった。
「おおぉお! それスマホの箱じゃん! すげぇっ!」
私は本当に驚き、大きな声を出してしまった。
まさか、スマホだとは……太っ腹過ぎる。
「えっえっ……? これって……私に……なんですか?」
礼奈ちゃんはやはり困惑した表情を作り、父親に向かってそう問いただした。
「うんうん。一応ネットも通話も使い放題のプランだからいくら使っても構わないが、依存症にならないようにね。それと、有料のサイトに登録とか、しないでくれよ」
父親は私と礼奈ちゃんの反応に満足しているようで、とても機嫌良さ気にニコニコと笑いながら、そう言った。
当の礼奈ちゃんはと言うと、やはりまだ困惑しているようで、化粧箱を持ったままキョロキョロと視線を動かしている。きっと私が貰っていても、困惑していただろうと思うので、無理も無い。
「良かったね礼奈ちゃん。ほんとーにほんとーに、大事にするんだよ。落としたりしたら駄目だからね。明日ケースと首から下げれるストラップ買いにいこう」
「あぁ~っ……うぅーっ……」
礼奈ちゃんは泣きそうな表情を作り、私の顔を見て、首を上下にコクコクと動かした。
「お……お父さん、あ……ありがとう、ございます……私この携帯、ずっとずっと大事にします……」
「うん。さぁ、ご飯にしよう」
父親は満足した表情をしながら髭を取り、お腹の中に入れていたクッションをソファーの上に置いた。
どうやら父親は礼奈ちゃんにもメロメロになっているようだ。本当に、溺愛してくれる。
母親も一切、嫌な顔をする事が無くなり、ちゃんと礼奈ちゃんの居場所を作ってくれているし、普段は掃除や料理を礼奈ちゃんへと教えてくれているのだ。
温かい家族で、嬉しい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます