クリスマスイブの夜①
私と彩ねぇと佳代ねぇは、そのままフードコートで食事を取り、彩ねぇの職場があるショッピングモール内で三人デートをした。私を挟み、彩ねぇと佳代ねぇが私の手を握り、並んで歩いている。
夜も遅くなってきて、人の数が少なくなってきたと感じた頃、私達はショッピングモールの中心にある、大きな大きなクリスマスツリーの前へと、やって来た。電飾がキラキラと輝いており、とても綺麗だと感じるクリスマスツリーの前には、沢山のテーブルが並べられており、そこに座る人のほとんどがカップル。家族連れも居るには居るが、圧倒的大差でカップルが多い。
佳代ねぇはこの場所に近づくなり「ここは、聖域だね」と言い、顔を歪ませながらクリスマスツリーを下から眺めた。やはり、寂しいと感じるのだろうか、佳代ねぇの表情は、優れない。
「せっかく楽しく過ごしてきたんだから、そんな顔しないの」
彩ねぇが佳代ねぇの顔を覗き込み、空いているほうの手で佳代ねぇの体をチョイチョイと触った。
その姿を見ていた佳代ねぇは、複雑そうな表情を浮かべつつも「ごめんなぁ……」と、申し訳無さそうに、そう答える。
「佳代ねぇは、どんな男の人が好みなんですか?」
私が何の気無しにそう問いただすと、佳代ねぇは更に複雑そうな表情を作り「んー……」と、考えこんでしまった。
ついには腕組みをし、眉間にシワを寄せる。そんなに悩む事なのだろうか……自分の好みの話なのだから、理想像とかが、あるだろうに。
「そうだなぁ……男だとして、見た目は、私より小さくなくて、よっぽどの不細工じゃなきゃいい……性格はねぇ、礼奈ちゃんと彩子を足して二で割って欲しい感じ。楽しく過ごせて、何でも話せて、一緒に泣けて、笑えて……なんだろう、臭い言葉だけどさ、絆を感じれる相手がいいな。彩子と礼奈ちゃんみたいな、関係になりたい」
「私と、彩ねぇ……?」
私がそう聞き返すと、佳代ねぇは私の顔を見て、困ったような表情で笑いかけた。
「二人が羨ましい。妬ましいんだ、私」
……やっぱり、そうなんだ……。
この間、彩ねぇが言った通り、佳代ねぇはかなり思い詰めている。
私と彩ねぇが、揺るぎない絆で結ばれているのを知り、目の当たりにし、羨ましい……妬ましいという感情が、生まれてしまったのだろう。
「……佳代、ごめんね」
彩ねぇが佳代ねぇに向かって、謝った。頭を少しだけ下げ、冗談抜きの、謝罪を送っている。
「ご……ごめんなさい」
私も思わず佳代ねぇに対して、頭を下げてしまう……下げないといけないような気がしてしまった。
「……ううん、私、二人が好きだよ。それに、エッチしようエッチしようって言うけど、全部冗談だからね? 二人の仲を割こうなんて、これっぽっちも思ってない。末永く、二人幸せに過ごして欲しいって、心から思ってる」
「……ありがとう、佳代。私は、佳代にも幸せになって貰いたいよ」
「私も、そう思っています。佳代ねぇ取られるって思うと、寂しいけど……佳代ねぇが幸せになる事が、一番だと思ってます」
私がそう言うと、佳代ねぇはニコリと笑い、私の頭へと手を乗せて、グリグリと撫でた。
少し乱暴だと思えるその行為には、愛情が感じられる。
「もし。私に彼氏が出来て、二人みたいに絆が生まれたとしてもさ、私と、彩子と、礼奈ちゃんの絆だって、あるんだよ。だから、取られるとか取られないとか、そんなの無いよ。旅行行く時は、また三人で行こうね」
彩ねぇは、少し驚いたような表情をして、佳代ねぇの顔を見ていた。
「……佳代も変わったね。大人になった」
「あは、そっかな?」
「そんな立派な事、言えるようになったんだなぁって感激したよ」
佳代ねぇは私の頭から手を離し、今度は彩ねぇの頭へと手を乗せて、やはりグリグリと頭を撫でた。
私に対して撫でていた時よりも、力が篭っているように見える。
「だって、そうでしょ? 私達三人は、三人と安奈ちゃんで、ひとつのグループ。あの日に出来た絆は、揺るぎないでしょ」
佳代ねぇはそう言いながら、首から下げていたネックレスの指輪へと手を伸ばして、クリクリと手で回して見せた。
「そうですよね……ごめんなさい、私、佳代ねぇに幸せになって貰いたいって思いながらも、その相手に、嫉妬してました……彼氏に佳代ねぇが取られるって、思ってました……でもそんなの、関係無いですよね。私達三人は、ずっとずっと、絆で結ばれている筈なんですから」
私は本当に、そう思う。
彩ねぇと佳代ねぇ、この二人以外には、私の過去を明かした事が無い。明かすほどの信頼を、置ける相手が居ないんだ。記憶の荷物を背負ってくれるほどの、優しい人は、日本中探しても、この二人だけだった。
話せていない事や、細かい話なんかは、もちろんまだまだ沢山有るのだが、その全てを、この二人になら話す事が出来ると、思っている。
それほどの、人。絆はもう既に、深い。私の手から、離れる事は無い。
きっと、私が死ぬと言えば、全力で止めてくれて、それでも死ぬと言えば、一緒に死んでくれる。
私と、彩ねぇと、佳代ねぇは、一緒に死ぬ。
「そうだよ礼奈ちゃん。でもま、それでもクリスマスイブの夜が寂しい事には変わりないんだけどねー。あーあぁ」
佳代ねぇは大きな声で「せっ!」と叫び、そして私達二人だけに聞こえる声で「ックスしたいなぁ」と、言った。
佳代ねぇは何やらニヤニヤと微笑んでおり、私と彩ねぇの反応に期待しているように思える。なんて露骨な人なんだ……。
「まぁ……私にその欲求を責める事は、出来ないな……」
「そうですね、私もです」
私達は猿のように、毎晩エッチをしている。それも、足腰が立たなくなるまで。体力の限界が来るまで。気を失って眠ってしまうまで。延々と、快楽を貪り続けている。
……やはり佳代ねぇには、早く彼氏を見つけて欲しい。体の芯から、気持よくなって貰いたい。
「今度、気持よくなる方法、教えますよ」
「へ……? え?」
「あ、私も教えられる。教えてあげるよ、有料で」
「な……なんか思ってた反応と違うっ! 有料ってなんだおい!」
「それだけの価値があるってこった」
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