その㉑ 愛と愛にまつわるもの
私は彩子と礼奈ちゃんの体に抱きつき、もたれかかりながら、幸せを感じていた。
あぁ……この時がずっとずっと、続けばいいのに……そんな風に、考えてしまう。
そんなの、絶対に無理だって事は、わかっている。この二人には、この二人の人生があり、それは私の人生と交わる事はあるが、二人としての人生のほうが、遥かに長く、硬いものなんだという事を、感じている。
二人は、特別過ぎる。こうして私が混ざっていられるのは、二人が優しいからなんだ。
だから、エッチしようエッチしようと言ってはいるが、そんな事、出来る筈が無いと、わかっている。
そんな風な事を考えてしまい、私はそっと、パーカーのポケットの中に手を入れた。そこには、今日購入した、指輪の箱が、入っている。
なんだか、取り出して、二人に見せるタイミングを逸してしまったような気がして、ずっと出せない。
いや、タイミングじゃない。元々、悩んでいた。引かれるんじゃないかって。なんて思われるかって。
私は指輪の箱を、グッと握りしめて、二人の胸元を見る。そこには、同型の指輪が、キラキラと輝きながらぶら下がっていた。礼奈ちゃんは、左手の薬指にも同様のものを、付けている。
二人の顔は、本当にニコニコとしていて、完全に、私を受け入れてくれているようだ。
見せるなら、今しかない。そう思う。
「ね……ねぇ二人とも」
私がそう言うと、二人が同時に「ん?」という声を発して、私の顔を見た。
二人とも、瞳が綺麗だ。彩子は左目だけ、まだ充血しているというか、赤い部分があるのだが、瞼は綺麗に治っている。
そんな二人の綺麗な瞳に見られて、私はやはり、なんだか、物怖じしてしまう。
指輪を、見せてもいいのか……と、不安になる。
「あの……寒くない?」
やはり、言い出せない。どうしても、言い出せない。
この二人は、絶対に受け入れてくれるという事は、わかっているのに。どうして、言えないんだろう。
「え? いえ、特には……」
「うん、私も別に」
「……そか。あは。それなら別にいいんだけどさ」
私は体を起こして、二人から離れようとする。すると彩子が「うわっ寒い! 佳代いないと寒いなー」と言い、私の腕をギュッと掴み、再び彩子と礼奈ちゃんの体に、もたれかけさせた。そして私の頭の後ろを、グッグッと押している。どうやら、軽いマッサージをしてくれているようだ。
「あははっ。ホントですね、佳代ねぇいないと、ちょっとヒヤッとしました」
礼奈ちゃんはそう言い、私の背中を優しくさすってくれた。
確かに、こうしていると、温かい……凄く凄く、温かい。
体もそうだが、心も、暖かくなる。彩子の気遣いが、礼奈ちゃんの優しさが、身にしみる。
なんで、三人で付き合えないんだろうな……いいじゃないか、そんな形の、愛情も。
「佳代、なんか隠してるでしょ」
彩子が私に向かって、そう言った。その言葉を聞いた瞬間、私の体はビクッと跳ね上がる。
何故、バレたのだろう……恐ろしい観察眼だ。
「えっ……えー? 何が?」
「ほら、やっぱり……佳代はすぐ顔に出るし、声がどもるんだよね」
「えっ……佳代ねぇ、何か隠してるんですか……?」
礼奈ちゃんが、本当に心配している声で、そう言った。私の背中をさする手も、止まってしまっている。
「う……やっぱ分かるぅ?」
「分かるよ。何年付き合ってると思ってるの」
私はドキドキしながら、パーカーのポケットから指輪の入っている箱を、取り出した。
「……同じの買っちった」
ソレを見て礼奈ちゃんが「あっ! 私達のとお揃いの箱っ」と、嬉しそうな声で言った。そして彩子も「あぁ……なんだ、そんな事か」と言い、再び私の頭をグッグッと押し始める。
「寂しかったんでしょ? お揃いいいじゃんか」
「うんうんっ! うわぁー嬉しいなっ! 佳代ねぇも一緒だねっ」
礼奈ちゃんは満面の笑みを浮かべて、自分の左手を私に見せて「ふふふっ」と笑った。
やっぱり、そうだよな……受け入れてくれる事くらい、分かっていた。考えすぎだって事くらい、分かってはいたんだ。
だけど、勇気が無かった。少しでも嫌な気持ちにさせる事を、恐れていた。
怖かったんだよ……拒否られる事が。その可能性が……。
「でも、サイズってたしか、大きいのしか残ってなかったですよね。大きいの買ったんですか?」
「あぅー……そうなんだよ。私もネックレスにするから、別にいいんだけど」
「刻印は?」
彩子は、当然の疑問を投げかけてきた。その質問にも、答えるのに勇気がいる……。
「えっ……S&K&R……」
「へぇ。先頭私なんだね」
「私最後なんですね。あははっ、まぁそうですよね、順番的に」
「きっと寂しいから自分を真ん中に入れたんだよ。んもぉ可愛い奴め」
そんな事まで、分かってしまうものか……最近の彩子は、読心術が凄いと思う。
滅多な事が、出来なくなってしまったな……と思うが、そこまで分かってくれる事には、素直に嬉しい気持ちになる。
「でも、私のイニシャルまで入れてくれて……嬉しいです。大好きです」
礼奈ちゃんはそう言い、前屈みになりながら、私の体をギュゥっと抱きしめた。
その時に、礼奈ちゃんのおっぱいが、私の顔に当たる。
「うわっ……! れれれ礼奈ちゃんっ!」
「ん……? なんですか佳代ねぇ」
「お……おっぱい顔に……」
「ははっ。女性同士なんだから、気にしないでくださいよ」
そう言いながら礼奈ちゃんは、さらに強く、ギュゥっと、私を抱きしめ、おっぱいを押し付けてくる。
あぁ……大きなおっぱいが、こんなにも柔らかいものだったなんて……私はCカップで、平均程度しかないので、この感じは、味わった事が無い。
「……まぁ、佳代だから、いいか」
彩子はそう言い、今度は私の背中を、グッグッと押している。
本当に、優しさに包まれているのを、感じる。二人の愛を、感じる。
愛とは、こういうものなのだろう……高校時代の恋愛は、お遊戯だった事を、知った。
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