その⑰ ほっぺにちゅう
佳代ねぇは口を半開きにし、プレゼントの箱を手に持ったまま、子供みたいに目を輝かせて、固まっている。
喜んでくれているみたいだが、早く包装をといて、中を見て貰いたい。
私と彩ねぇの、心が詰まっているのだから。
「ユー、遠慮せずに開けちゃいナよ」
彩ねぇがよく分からない言葉遣いで佳代ねぇへと話しかけた。その声を聞き、佳代ねぇはピクッと反応し、私と彩ねぇの顔をチラッと見た。
「うん……あぁでもっ! 凄くドキドキするっ……」
佳代ねぇは口元をニカーッとさせ、頬を赤く染めている。
本当に、ドキドキしているようだ。
期待には、添えると思うのだが……そこまで溜められると、ハードルが上がっているような気がして、ちょっと焦ってくる。
「あ……あの、ホントに、早く開けて下さい」
私がそう言うと、佳代ねぇは「うん」と呟き、ようやくゆっくりと包装をといていく。
ペリペリ、ペリペリと、とても丁寧に紙を剥がし、箱の本体が見えてきた。
「お……お? これって……」
佳代ねぇは箱を取り出し、マジマジと見つめる。
箱には、英語でデジタルフォトフレームと書かれていると、彩ねぇに教えてもらった文字。
そう、これは、デジカメや携帯電話のカメラで撮った写真が見れるという、スーパーハイテク機械である。
「フォトフレーム? おぉ、フォトフレームだっ!」
佳代ねぇは再び立ち上がり、デジタルフォトフレームの入っている箱を高らかに掲げ「おぉーっ!」と、大きな声を上げた。
目を見開いて、口を大きく開けているその表情は、凄く嬉しそうに見える。
「すげぇーハイセンスだねぇ。これって礼奈ちゃんが選んだの?」
「はいっ。昨日、宗谷岬で撮った写真とか、小樽で撮った写真とか、これからも増えていく写真を、それで見て欲しくて」
「佳代いっぱい撮ってたからねぇ。礼奈ちゃんがその事を思い出して、自分で考えて選んだんだよ」
彩ねぇが佳代ねぇに向かって、ニコッと笑いながらそう言った。
そういう風に言われると、なんだか照れてしまう。
「礼奈ちゃん……そんなに私の事を、見ててくれたのねぇ……嬉しい。私嬉しいよ」
佳代ねぇは半笑いの表情で、涙を拭うような仕草をしている。
またまた大げさな……と、言おうと思ったのだが、どうやら佳代ねぇは、本当に、涙を、流している。
……佳代ねぇって、感動屋さんな所がある。ちょっとした事でも、すぐに泣いてしまうような、綺麗な心を、持っている。
もし、彩ねぇと先に出会っておらず、佳代ねぇと出会っていたなら……と、少し思って、小さく首を横に振った。
そんな事、考えてはいけない。今を、受け入れないと。
「本当に、本当に……嬉しいから、私の体、自由に」
「言わせねぇよ! お前が猿じゃ!」
「お前のほうが猿じゃ!」
彩ねぇは立ち上がり、佳代ねぇに向かって「キーキー!」と、猿の真似をして襲いかかった。それを迎え討つかのように、佳代ねぇも「ウキャキャー!」と、猿の真似をして、手を出したり引っ込めたりしている。
なんだかんだ、この二人はとても仲良しだ。親友というものなのだろう。
そんな楽しくて優しい、仲の良い二人から、私は本物の愛情を感じる。今までの人生では、考えられなかった事だ。
佳代ねぇ。私も、嬉しいよ。本当に、嬉しいよ。
そう思うと、私の涙腺も、ゆるくなるのを、感じる。
「あはははっ! んもー笑いすぎて、涙出てきましたっ」
私は指先で、スッと涙を拭った。
佳代ねぇは早速、携帯電話からカードを抜き取り、デジタルフォトフレームの中に入れた。
私が買ってきたものは、デジタルフォトフレーム自体に写真を入れられるというもの。よく分からないが、写真にすると、何千枚という数の写真が入るらしい。
佳代ねぇは付属のリモコンで、何やら色々と操作をしている。説明書も見ずに、サササッと作業が出来るのは、さすが現代っ子といった所だ。機械音痴の私には、絶対に無理だろう。現代のものが、分からない。
「おっ、入った。これで見れるはず」
佳代ねぇはそう言い、リモコンのボタンを押して、写真を表示させた。
そこには、私と彩ねぇが宗谷岬の石碑の前で、満面の笑みを浮かべながら、抱き合っている写真が映しだされている。まだ彩ねぇの左目には眼帯がされており、私の首からは、すでに安奈の指輪が下げられていた。
その写真を見て、私はつい、ネックレスの指輪を触る。
「うわぁ、綺麗に写ってますね」
「いい笑顔だね」
佳代ねぇはそう言いながら、ニマニマと笑っている。
「……三人で、撮った写真もあるでしょ。それが見たい」
彩ねぇがそう言いながら、佳代ねぇの顔を見た。
「ん」
佳代ねぇは短く返事をし、再びリモコンを動かす。何枚かの私と彩ねぇの写真の後に、小樽で撮った三人の写真が表示された。
彩ねぇと佳代ねぇが私を挟み、ギュゥーッと抱きしめながら、笑顔で写っている。
本当に本当に、楽しそう。仲が良さそう。三人合わせて、ひとつのグループのように、見える。
私は、二人の仲に、上手く溶け込めているという事が、よく分かる一枚だ。
「……昨日の事、なんだよね。信じられない」
佳代ねぇは、小さく呟いた。
「なんかさ、ずっとずっと前のように思える。礼奈ちゃんとは、ずっと友達だったみたいに思えるんだよね」
佳代ねぇはニコッと笑い、私の顔をジッと見つめる。
そんな風に言ってもらえるなんて、嬉しい……心の中が、ポウッと暖かくなるのを感じた。
「私もそれは思うよ。なんだか最近、時間が濃密。この短い間に、私は何年もの時間を感じてる。きっと本当に本当に、充実してるんだよね。礼奈ちゃんが居る事によって、本当に楽しくて、幸せなキモチになれるんだよ」
彩ねぇは、佳代ねぇの顔を見て、ニコッとほほ笑みかけた。
「わ……私もです。難しい事は、分からないけど、凄く凄く、生きてるなぁーって、お二人に出会って、感じるようになりました」
私がそう言うと、彩ねぇも佳代ねぇも私を見て、優しい微笑みを見せてくれた。
本当に、優しい微笑み。愛に満ちていて、愛しか、感じない。
愛、愛、愛だ。こんな私が、こんなに愛されるなんて……。
「礼奈ちゃんは私達と、ちゃんと生きてるよ」
「うんっ。ほっぺた赤くして、生き生きしてるくらいだよんっ」
私はそう言われ、もう、我慢が出来なくなっていた。
「お姉ちゃぁんっ」
私は二人のお姉ちゃんに、飛びついた。
抱きしめたかった。一緒に幸せを、感じたかった。
「おぉっ? 礼奈ちゃんに襲われるぅっ」
佳代ねぇはそう言って、私の頭を撫でた。
「……佳代、礼奈ちゃんのほっぺくらいになら、チュッてしていいよ」
「えっ……えっえええっ! ほ……ほんと……?」
「ん……佳代だけ、特別。いいよね、礼奈ちゃん」
「はい。いいですよ、佳代ねぇ」
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