その⑭ どこでも発情

 雑貨屋さんで目当てのものを購入し、私と彩ねぇはウキウキな気分で電車に乗り、私達の家がある駅へと降りた。

 どうやらまだ佳代ねぇは着いていないようで、私と彩ねぇは改札を抜けた先のベンチに腰を下ろす。

 駅員さん意外の人間は誰も居なく、駅構内はシンと静まり返っている。

 私は紙袋に入っている、ラッピングしてもらったプレゼントを、ギュッと抱きかかえて「佳代ねぇ喜んでくれるかな」と、彩ねぇに話しかけた。

「うん。アイツは絶対喜ぶよ。保証する」

 私はその言葉に満足し、自然と口角が上がるのを感じた。

 佳代ねぇなら、絶対に喜んでくれる。だって、私達が佳代ねぇの事が大好きなように、佳代ねぇも私達の事が、大好きなのだ。

 佳代ねぇの恋人作りを妨害しているようにも、思えるが……それでもこのプレゼントは、絶対にいいもの。

「佳代ねぇまだかなー。早く会いたいな」

「そうだけど、あんまりそんな事言うと、嫉妬するよ、私」

「んもぉー、困ったお姉ちゃんですねっ」

 私は彩ねぇのほっぺたに、チュッとキスをする。そして耳元で「ワたシのォ、コこロとかラだはぁ……サイねぇのモノですヨぉ……」と、色っぽい声で、そう言った。

 すると彩ねぇの体はブルッと震え、私のコートをグッと掴み、私の体を引き寄せた。私の口は、彩ねぇの耳に当たる。彩ねぇの耳が熱くなっているのを感じ、私はそれを、ペロッと舐め、口に含む。

「はむっ……あむっ……」

「うぁっ……」

「耳……好きですね……キもチ……イいでスかぁ……?」

「うんっ……いい……脳が溶ける……」

 彩ねぇの例えは、いつも正確だ。私も、彩ねぇとエッチをすると、脳が溶ける感覚を覚える。という事は、今彩ねぇは、感じている……嬉しい。可愛い。

 基本的に私と彩ねぇは、同時に感じる事を前提にエッチをするのだが、こういったように、片方が攻めるといった事も、嫌いじゃない。相手が感じている姿を見ると、二人ともイジメっ子になってしまう。

 私は彩ねぇの耳を口に含み、その中で耳を、ペロペロと舐める。耳の中にまで舌を侵入させ、その全てを舐める。

 耳垢なんて、関係ない。私は彩ねぇの、全てを受け入れる覚悟なんて、とっくに出来ている。

 彩ねぇの全身を舐めて、汚れを全て取り切る事くらい、なんでもない。それほどに、彩ねぇを愛してる。

「はぁぁっ……あんっ」

「彩ねぇ、エッチな声出てる……キモチいいんだ……濡れてる……?」

「んっ……はっ……うんっ……」

 私が攻めに回ると、彩ねぇは本当に、可愛い。凄く凄く素直になり、しおらしくなり、従順になる。

「もぉー……こんな所で濡れちゃってっ……トイレで、一回イきますか……?」

「うんっ……トイレ……いく」

 私と彩ねぇは立ち上がり、駅の校内にあるトイレへと向かって歩き出した。

 彩ねぇは目を細め、頬を真っ赤に染めて、口に手を当てて、俯いている。

 その姿が凄く凄く可愛くて、私をさらに興奮させた。


 私は彩ねぇを満足させて、意気揚々とトイレの個室から出る。

 すると目の前には、苦笑している佳代ねぇが、立っていた。

「あっ……か……佳代ねぇ」

「なんか変なうめき声がするっていう通報があって来たんですがぁー」

 佳代ねぇは私の後ろをチラッとのぞき見て、彩ねぇの姿を確認した。

「おや? そこに居るのは彩子さん。おやおや? 非常に顔が赤いようですが、どうかなさいました? 気分でも悪いんでしょうかぁー?」

「そうだよ……もうゲロゲロ吐いちゃって」

「嘘こけ。気分悪いどころか気持ちいい事してたくせに。猿かアンタ達は」

 佳代ねぇは両手を肩の上まであげて、やれやれと言った感じに首を横に振る。

 悔しいが、反論出来ない……確かに私達は、いつでもどこでも、発情しすぎだ……。

 本物の快楽を知ってからというもの、とにかく私が遠慮をしない。気持よくなりたいし、気持よくなって欲しいと、思ってしまう。

「……ごめん佳代。我慢できんかった」

「いーよいーよ。今度エロってる所見つけたら、ガチで混ざってやるから」

「あは……ガチなんですね」

「ガチだね!」

 佳代ねぇは親指を立て、力強い声と瞳で、そう言った。


「彩子、眼鏡めっちゃ似合ってるじゃん。なんか頭良さそうに見える」

 駅からの帰り道、佳代ねぇは彩ねぇの顔を見つめ、笑顔でそう言った。

 その言葉を聞き、彩ねぇは眼鏡をクイッと上げて「似合うでしょ。礼奈ちゃんが選んでくれたんだぜ」と、自慢気に微笑む。

「いーないーな。礼奈ちゃん私にも選んでー」

「あ、いいですよっ。佳代ねぇも顔濃いから、枠なしが似合うかもですね」

「アンタ目悪くないでしょ」

「ブルーライト対策だぜ!」

 また出た、良く分からない単語、ブルーライト。

 なんなのだろう、ブルーライト。

 きっと、一般的なものなのだろう。一般から離れて生きてきた私には、知らなければいけない事が多い。


 私達は佳代ねぇの家に到着し、佳代ねぇが開ける玄関の扉を、くぐった。

 特にこれと言った特徴の無い家の中だが、綺麗にしているという事は、よく分かる。玄関に靴が一足も置いておらず、きっと毎回、靴箱に閉まっているのだろう。

「ささ、上がって上がって」

 佳代ねぇが一番に家へと上がり、そそくさとスリッパを並べた。こういった細かい気配りは、流石女性と言った所だろうか。良い見本になる。

「お邪魔しまーす」

「お……おじゃまします」

 私と彩ねぇは同時に靴を脱ぎ、スリッパへと足を通す。

 すると彩ねぇはしゃがみ込み、自身の靴をクルッと反対側に向け、玄関の扉のほうへと向けた。

 私はソレを見て、自分のブーツをクルッとさせる。きっとこうする事が、他人の家に上がった時の、礼儀なのだろう。

 私のその姿を見た彩ねぇは、立ち上がったと思った矢先、突然「だっふんだ」と、言う。

 私も彩ねぇを見習い「だっふんだ」と、言った。

「ぶほっ! なんなんだお前たちは!」

 佳代ねぇは、笑った。

 何か、間違っていたのだろうか……。

「あはははははっ! いやさ、もしかしたら、言ってくれるかなって思って」

 彩ねぇも、お腹を押さえて爆笑している。

 ……どうやら、だっふんだは、言わなくて良かったらしい。騙された……。

「もぉー彩ねぇっ! なんでからかうんですかっ!」

「いやぁーもぉー礼奈ちゃん大好きっ! 一生面倒みるからねっ」

 彩ねぇは私に抱きつき、ギュゥーッと力を込めて、なおも笑っている。

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