4-2. 尾行

 俺は待ち合わせ時間の二十分前に、待ち合わせ場所の街にある噴水へ着いた。

 二十分前に行ったのは、彼女を待たせてはいけないという、これまたギャルゲの教えのためである。

 ――何気に役に立っているな、ゲームでも。

 ちなみに、まだどこに行くのかも聞いてはいない。たぶん、その場の雰囲気で決めるのだろう。

 そのため、俺もなんらかの準備は特にしていない。

 ただ、いつもどおりを主旨においた形でこのデートに臨んでいる。

 けれども、何らかの準備をしてきた奴らがいるということに、俺は気づいていた。

 ――なんでいるんだよ、お前ら。

 俺はその場所から、近くにあるカフェのテラスを見る。

 そこには、サングラスをかけている優里と、帽子を深くかぶっている花音がいた。

 優里のほうは、しぶい緑色のジャケットとジーパンで、メンズ風に仕上げており、花音のほうは、ブラウンのトレンチコートを羽織っており、中には白いシャツに、カーキ色のチノパンを着ていた。

 俺は素早く携帯を取り出し、優里と花音宛に、メールを送りつけた。

 この場から、向こうにメールが届いたことを把握すると、メールの返信が届いた。

 優里の返信は、

『葵っちから聞いた! どう動くか気になったから尾行させていただきます!』と。

 ――尾行する気満々かい。

 そして、花音の返信は、

『昨日言った通り、尾行させていただきます』と。

 確かに昨日、電話がかかってきた内容を伝えたとき、

『物語的に、面白い展開きたわね!』とテンションが上がっていたのを覚えている。

 その後『どういう展開になるか気になるから、尾行させていただくわね』と、堂々と宣言されてしまった。

 ――っていうか、そもそもデートって尾行されるためにあるのか!?

 これまたギャルゲの話なんだが、初めてのデートで、他のキャラに尾行されていたのであった。

 ――何回か、ギャルゲって言っているが、そんなにギャルゲしているわけじゃないからな!

 あくまでも参考ということで、花音とやってきたギャルゲを参考にしているまでである。

 俺は二人にバレないように気をつけろというメールを送りつけ、携帯をしまった。

 カフェのテラスにいる二人をよく見てみると、仲良く話しているようにも見える。

 ――あいつら、あんなに仲良くなってたっけ?

 と、疑問を持ちながらも、葵が来るのを待っていると、葵が歩いてくる姿を見つけた。

 葵もこちらに気づき、小走りで待ち合わせ場所へ向かってくる。


「ごめん、待った?」

「いや、俺もさっき来たところだから」

「そう?」


 葵はほっとした表情をして、数歩後ろに下がる。


「ね、ねぇ、どう、この服?」


 葵が着ている服を見てみると、白色のジャケットに、ジーパンという、白を基調とした服装をしている。


「うん……可愛いと思うよ」

「そ、そうかな」


 葵の顔がほころぶ。とてもうれしそうだ。


「あ、あのね、確か遥くんはスカートがあんまり好きじゃなかったなーって、思い出したから、これにしてきたんだけど、良かった」

「よく思い出したな、俺がスカートがあまり好きじゃないって」

「だって、子供の頃言ってたでしょ? 『スカートとか、男が女を連れて歩くとき、いろいろと対応するのが面倒じゃん』って」


 ――子供の時の俺、よくそんなことを言ったな。

 確かにそうだけど、ここは、とりあえず褒めておくべきところなのだろうか。


「まぁな――それで、行き先を聞いていないんだが、どこへ行くつもりなんだ?」

「うーんとね……」


 葵がどこへ行くか考え始める。


「服見たいし、映画もいい作品が上映しているなら見たいな、ゲームセンターはあんまり好きじゃないから行きたくないし、体動かすのもいいけど、そういう気分じゃないから――」

「それじゃ、映画を見に行って、待ち時間とかで服を見ようか」


 葵がたくさん意見を言ってくれた中で、大丈夫そうなものを選んで(二つしか行けそうなのを言っていないが)言ってみた。


「うん、それがいいかも」

「それじゃ、まずは目的地へ行きますか」

「うん」


 すると、葵は恥ずかしそうに左手を差し出した。

 俺はその動作がどういうことなのかを、ゲームのおかげで何だかわかり、右手でそれを取る。

 ――手を握りながら、歩くっていうやつだろ。

 手を握ってみると、柔らかい肉付きで、しかも手に収まるサイズであって、こちらも少し恥ずかしかった。それに、周りの人たちから見られるため、より恥ずかしい。


「い、いこっか」

「そうだな」


 俺たちは映画館のあるショッピングモールへ歩き出した。


   ◇


「映画、どれ見ようか?」


 映画館に着いた俺たちは、上映中の作品を眺めていた。


「んーとね、遥くんはどれがいい?」

「そうだな……」


 パッと見て、いいなと思うものが少ないが、見るとしたらならば、


「あの、アクションのやつか、このコメディのやつかな」


 ここで恋愛物を選ばなかったのは、それを見てから俺たちだったら、どのような行動を取るか、予想がついたからだ。

 ――きっと、途中で切り上げることになるんだろうな。

 でも、それはできない。それは昨日花音と作戦を立てていたとき、

『もし、話せる雰囲気だったら、さっさと終わらせなさい』

 という、通告があったからだ。

 ――今日で決めるのか、俺は。

 そして、このデートには、俺にとっての目的もある。それは、自分が葵のことをどう思っているか、確認するためだ。

 それらを持って、話すにいたっても、答えを決めるつもりだ。


「それじゃ、コメディのやつにしよっか、うさぎさん可愛いし」

「わかった、それじゃ、チケット買うか」


 俺は受付に行って、高校生でチケットを二枚購入した。

 チケットを受け取り、葵のところへ戻って、チケットを一枚渡す。


「ほら」

「あ、ありがとう……」


 葵は頬を染めながら、チケットを受け取る。


「それじゃ、上映時間までまだ時間あるから、どっか行くか」

「うん、そうだね……」

「どこ行きたいんだ?」

「うーんとね……」


 葵が考え始めるのを見計って、あたりを見回す。

 すると、上映中の作品の前で、どれにしようか迷っている二人の女子――花音と優里を見つけた。

 どうやら、俺たちと一緒のものを見ようとしているみたいだが、何を見るのかわからないらしい。

 俺が二人を見ていると、見られていることに気づいた花音が、アイコンタクトを送ってきた。

 ――どうやって教えるべきか。

 ここで、二人のところへ行ってしまうと、尾行されていることが葵にバレてしまう。

 それは二人にも、最悪のパターンになってしまう。

 だと言っても、ここでメールをしてみろ、葵が不安がるじゃないのか。

 ここでサインを出せるとしたら、指でしかないのだけれど……。

 何かいいものはないかと周囲を見渡すと――あった、いいものがあった。


「葵、ちょっとごめんな」

「――ん?」


 俺が葵のそばを少し離れると、映画のチラシが置いてあるブースへ着いた。


「何々? 見たいと思うのがあるの?」

「いや、ちょっと気になってな」


 そう言って、俺は今から見る映画のチラシを手にし、


「これだよな、今日見るやつ」

「うん、そうだよ、可愛いよね、これ」


 手にしているチラシを見てみると、軍服を着ていて、左目に眼帯をしているうさぎが銃を持っていて、戦車に飛びかかろうとしている。そしてその背景には、敬礼をしている、これまた軍服を着ているリスの絵が描かれてあった。


「そうだな、まぁ、可愛いっちゃ可愛いか」

「もう、これは可愛いんだよ」


 そんな会話をしながら、俺はそのチラシを遠目に見ようとして――花音と優里に見える角度で――腕を伸ばす。

 すると、花音はそれを確認して、優里の手を引きながら、受付へ歩いていった。

 ――これでいいのかな。

 チラシを元にあった場所に戻し、他の映画のチラシを眺める。


「――さて、それでどこに行くんだ?」

「え、ええっとね……、服を見に行きたいな」

「オーケー、それじゃ行くか」

「うん」


 俺と葵は、服がたくさん置いてあるエリアへ移動した。

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