3-3. 策動
俺と花音は、俺の家に着き、いつもの通りに俺の部屋へと足を運んだ。
俺はパソコンの電源をつけ、起動するまでゆっくり待つ。
花音は黒いボールペンを片手に、メモ帳に何かを書き込んでいる。
「なぁ、花音。何を書いているんだ?」
花音は目線をメモ帳に向けたまま、
「小説のアイディアが思いついたから、書き留めているだけよ」
「そうか、お前、小説書いているんだっけな」
「……何のためにあなたの手伝いをしているか、わかってる?」
花音が視線をこちらに向ける。
「いやー、すっかり忘れてた、すまん」
「いいわよ、謝らなくて」
メモ帳をぱたんと閉じ、俺にボールペンの先を向けて、
「さて、遠足のことなんだけど」
「おう」
「たぶん、遠足が決め所だと私は思うのよ」
「決め所って、俺の気持ちをちゃんと葵に言うっていうことでいいのか?」
「それ以外に何があるのよ?」
「そうだよな、続けて」
花音はため息をして、話を続ける。
「なるべく早く、このことを早く済ませたほうがいいと思って。あなたとあなたの幼馴染——篠木さんの関係がいつバレるかわからないし、いつバラされるかわからないから」
「なるほどな——って、バラされる?」
——バラされるってなんだよ? 誰か知っているのか、このことを?
「まぁ、とにかく、そのためにも早めにこのゲームを終えましょう」
花音が話を切り上げ、俺をパソコンの正面に向かせて、背中に体をくっつけ、マウスを動かす。
「顔近くないか?」
俺が横目で、花音を見る。
「そう、まぁ、気にしないで」
そう言い、花音はギャルゲを起動した——しかし、画面をデスクトップに戻した。
「ん? どうし——」
「お兄と久東さーん、お茶持って来ました!」
突然、ドアを開けてきたのは、妹の遥奈だった。
「お、お前、急にどうしたんだ?」
「いやいや、いつも来てくれているのに、何も出してなかったなって、思ったから、持ってきてみた——って、な、ななななな、何しているんですか!?」
遥奈は俺たちを指さし、あたふたしている。
今の俺たちの状況を見てみると、花音が俺の背中にくっついて、俺の手の上からマウスを扱っていて、顔が横にある。
——普通の人がみれば、仲のいいカップルっていうとこか。
「っておい! そういう関係じゃないからな!?」
「……そうね、私はただ、遥斗が私がいるのにブラウザを開いて、変なサイトを見ようとしたから、止めに入ったまでよ」
「なーんだ、それなら安心しました」
遥奈は胸を撫で下ろす。
「ちょっと、お二人さん? してもないことを言って、それならってちゃっかり認めちゃってるよね? お前ら俺をそういう奴だと思ってんの?」
「あ、そんなことより、お茶どうぞ」
「あら、ありがとね、遥奈ちゃん」
俺を無視して、二人はまったりとお茶を飲んでいる。
——っていうか、きっと遥奈が飲んでいるやつ、俺のだろ!
二人がお茶を飲んで、ほっこりしたところで、遥奈が切り出した。
「ところで、いつも謎に思っていたんですけど、放課後毎日うちに来て、何やっているんですか?」
——ピンポイントでついてきたか、そこを。
遥奈の質問に対して『ギャルゲをやっています』なんて言えるはずがない。
「えーとね、ゲームをしているわ」
「ゲーム……ですか?」
「そう、ゲーム」
花音は堂々とゲームと発言した。
「ゲームって、どんなゲームをしているんですか?」
「そうね、ビジュアルノベルっていうのをやっているわ」
「……なんですか、そのビジュアルノベルっていうの?」
——俺も聞いたことがないな。
花音は遥奈の質問に答えていく。
「ビジュアルノベルっていうのは、文字を読んでいくゲームのこと。普通に読んでいくだけではなくて、効果音やちょっとした演出が入ってくるのよ」
「へぇー、なるほど」
「私、こうみえて、小説家を目指していてね、この話を遥斗くんにしたら、一緒にやらないかって誘われたの。うちにパソコンがないから」
「なるほど、小説家を目指しているんですか! すごいですね!」
「それほどでもないわ、その小説を書くためにも材料が必要で、こうやってゲームをやって、何かを掴んでいこうと思っているの」
花音の話が、きちんとできていて正直驚いている。花音は嘘をついていないのだろう。ゲームの説明を聞いて、ビジュアルノベルの中にギャルゲも入っているのだろうと思う。
「ちょっと気になるんですが……」
「他の質問?」
「はい、久東さんが小説を書いているっていうのはわかりましたが、どんな小説を書いているんですか?」
「——っ! それはね……」
そう言えば、俺も花音に聞いたことがない。
俺も花音の方をみて、回答を待つ。
「——す、推理もの……とかかな?」
「本当ですか?」
「うぅ……」
遥奈が花音をまっすぐ見ているのに対して、花音はその眼差しを避けようとしている。
——推理ものって、たぶん嘘だろうな。
ギャルゲをやって、推理ものの小説が書けるのだろうか。
「本当なんですか?」
遥奈が言葉を強くして、花音に尋ねる。
「そ、そんな大それたことをしているわけじゃないわ。ただ……あまり人に言いたくないっていうのを察してちょうだい」
「……そうですね、厚かましい真似をして、すみませんでした」
「いいのよ、別に」
遥奈は花音にお辞儀をして、お茶の入っていた容器を手にとる。
「それじゃ、ごゆっくりどうぞ」
そう言って、遥奈は去っていった。
「……なんかフォロー入れなさいよね」
「いや、俺も気になったから」
「……そう」
花音は立ち上がり、俺の隣に立った。
「さぁ、はじめましょうか。今日で終わりにするわよ!」
花音の気合の入った声に、俺も答えるように、
「おう!」
と、返事をしてギャルゲを始める。
——ギャルゲじゃなかったらどれだけかっこいいセリフだったであろうか。
◇
「終わった——っ!」
「おつかれさま」
今パソコンの画面には、エンディングが流れている。
「いやー、武彦が言っていたことが少しだけわかったような気がする」
「どういうことかしら?」
「前に武彦がな『ギャルゲは感動するものなんだぜ!』って言ってたからさ、実際にやってみて、エンディングを見たら、結構面白いなって」
「それは、作っている人側も必死にストーリー考えているんだからね」
「そういうものなのか?」
「そういうものよ」
花音が肯定する。結構この手のゲームについて花音は知っているように見える。
「そうだ、もしかして、なんだが」
「何よ?」
「お前、小説とか言っているけど、実はこの手のゲームのストーリーを考えていたりするのか?」
「———っ!」
花音の顔がこわばる。
「……あれ? もしかしてビンゴ?」
「……他の人には言わないでね」
「お、おう」
図星だったらしい。俺は正直驚いている。まさか、女子がこんな話を考えていたなんて。
「バレちゃったから仕方ないわね……」
花音はベットに腰掛けながら、話し始める。
「うちの親が、この手のゲームのストーリーを考える、言わばシナリオライターの仕事をしているのよ、やっぱし、親の影響っていうものがあるもので、私もストーリーを書くっていうことに興味を湧き出しちゃって」
花音はさらに続ける。
「どんどんゲームをね、やっていくうちに、もしかしたら自分は主人公かも知れないっていう、馬鹿な妄想を持っちゃって、『私を中心に世界は回っているんだっ!』とか、ホントばっかみたいなことばっか考えていたときがあったわ」
花音の口が止まった。言いにくいことでもあるのだろうか。
「しゃべりたくないことは無理に言わなくていいぞ」
「……わかったわ、ありがとう」
花音は俺に微笑みかけてきた。笑ってきたとき、若干ドキッとした。
——こいつ、ちゃんと笑うと、いい顔するじゃん。
「話さなければならないときが来たら、またその時話すわね」
「そうしてくれ」
話を終え、花音が立ち上がり、伸びをしてから、カバンを持った。
「さて、そろそろギャルゲも終わったことだし、私は帰るわね」
「おう、これまでありがとな」
俺はこれで花音とギャルゲをやることが終わりになるのだと、しみじみしていた。
「……何言っているの? 問題が解決するまで、ちゃんと面倒みるわよ」
「そ、そうなのか?」
「遥斗、あなたこれだけのことをして、恋って何なのか理解できたっていうわけ?」
「それは……、はっきりとした答えは出てないけど、大体は」
「そう、だったら言ってみなさい」
花音は腕を組んで、俺をじっと見つめる。
「そうだな……、恋っていうのは、いつも一緒にいると楽しいっていうか……、一緒にいてもぎこちない動きをしないで、相手のことを思いやることができる、お互いを認めているっていう感じが発展して、恋かなって」
俺が言い終えると、花音の顔が真っ赤になっていた。
「あ、あんた、よくそういうことを平気で言えるわね……」
「お、俺も恥ずかしいに決まっているじゃんか……」
今更ながら、自分が言ったことが恥ずかしくなってきた。
——お互い恥ずかしい思いをするんだったら、言わすなよ!
「そ、それじゃ、私帰るから」
「おう、見送っていくよ」
そう言って、玄関まで行くと、そこには遥奈の姿があった。
「あ、お兄に久東さん、今帰りですか?」
「ええ、というあなたは?」
「あ、少し出かけるつもりです」
遥奈の格好をみると、ダウンジャケットを着ており、防寒対策がしてあった。
「遥奈、早めに帰ってこいよ」
「わかってるって」
遥奈がピースを俺に向ける。
花音は靴を履き、遥奈のほうを向く。
「どこまでいくの?」
「あ、近くの公園まで」
「それだったら、私通るから、一緒に行かない?」
「い、いいんですか?」
「いいわよ、構わないわ」
「それじゃ、お言葉に甘えて」
「それじゃ、帰るわね」
「お兄、行ってきまーす」
「おう、気をつけてな」
俺は花音と遥奈を手を振って見送った。
花音と遥奈がその場からいなくなり、静かになった。
——ってか遥奈、何しにいったんだ?
と、疑問を浮かべながら、自分の部屋へ戻った。
◇
「それで、今日は何をしたんですか?」
「いつもどおり、ゲームをしてたわ」
「ですよねー、お兄の部屋にパソコン以外、遊ぶものありませんからね」
「そうね、まぁ、遊ぶのが目的じゃないから、別にそのことについては不便に思ったことはないわよ」
「へぇー、遊ぶためじゃなくて、自分の小説を書くため、と?」
「そういうことになるわね」
「お兄、うまく利用されているなー」
「でも、あの人って、ときどき、おかしな発言するわよね。例えを言うなら、おみくじで大吉ではなく大凶でもなく、まさかの凶を引き当てるような」
「た、例えはおいといて、ホント、時たま驚かせるような発言しますよね」
「やっぱりそうなのかしら?」
「そうですよー、でも、そこがお兄の良いところだったりします」
「へぇー、というと?」
「お兄、小さいところに気がつくっていうか、やっぱり頑張ったことを褒めてくれるんですよね、それに自分の思いをちゃんと貫いたり、自分の意思を通そうとするところが……かな? ちょっと、恥ずかしいな」
「ふふっ、大好きなのね、お兄さんのこと」
「いや、大好きじゃありませんよ」
「あら、即答しちゃうんだ」
「そうですとも、あの人、ああ見えて、朝起きるのが遅くて困っているんですから」
「そうなんだ」
「そうなんですよ、だから毎回私が起こしにいっているし、何か隠し事をしていると、そのことに関しては本当に他人に漏らさないんですよ」
「ふーん」
「ですから、お兄に秘密を話しても、黙っててくれますから、安心してくださいね」
「そう、覚えておくわね」
「と、いう面から考えて、私はお兄が私のお兄さんでよかったなって思うんです」
「よく喋るわね」
「ま、まぁ、いいじゃないですか」
と、話しているうちに二人は公園までやってきた。
「それじゃ、私はこれで、失礼します」
「ええ、それじゃ、帰り気をつけるのよ」
「はーい」
遥奈はそう言って、公園の中へ入っていった。
花音は気になるものの、後をつけるのが癪だったので、そのまま帰宅することにした。
◇
遥奈が公園内を走って、待ち合わせしていた場所に向かう。
待ち合わせをしていた場所に、ちゃんといてくれていた。
「おーい、葵ちゃーん」
「あ、遥奈ちゃん」
「ごめんね、こんな時間に呼び出しちゃって」
「いいのよ、別に。で、話って何?」
「ええっとね、お兄のことなんだけど——」
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