#3
3-1. 胎動
あれから俺と花音は、放課後俺の家でギャルゲをやっている。
もうだいぶ話が進み、他の攻略対象の女の子が登場していくにつれて、花音のテンションが上がっていったのだが、攻略対象が決まっているということで、悔しがりながらも、選択肢では、好感度が変わらない程度の選択を指導してくれた。すごく、残念そうだった。
何はともあれ、順調に攻略しており、そろそろ終わりに近づいて来ていた。
「なぁ、花音」
俺はテキストを進めながら、花音に話しかけた。
「何よ?」
「お前実は、ギャルゲ好きだったりするのか?」
花音はビクッと肩をあげ、ぎこちない動きで俺のほうを向き、
「な、ななななななーにを言っているのかなー、そんなわけないじゃないー」
俺がみる限りでは、目の焦点が合っていない、明らかに。
「そうだよなー、女子がギャルゲが好きだとか、武彦曰く『アニメ、マンガ、ラノベの中に限る!』らしいからな」
「そうよ! 現実に女の子がギャルゲをやっているなんて、おかしいことじゃない」
「だよな――って、あれ?」
画面を見てみると、主人公のクラスの友人であり、攻略対象の女の子が、泣いている場面に入っていた。
「あーっ! もうこのシーン!? 早いわね、さすがに一人キャラ攻めだとそうなるか……」
花音はあごに手を当てながら、画面を直視している。
「……お前、やったことあるだろ、このゲーム?」
「い、いや、そんなことはないわよ」
「…………」
「…………何よ、じっと見ちゃって」
俺は花音を視るのをやめ、率直にこう言った。
「いやぁ、お前って、こういうことに関しては嘘つくのが下手なんだなーって」
「う、嘘じゃないわよ!」
花音が俺の発言に動揺している。
――わ、わかりやすいな、おい。
「わかった、わかった、そういうことにしてやるよ」
「……あなたって、嫌なところもあるのね。例えるなら、キムチのふたを開けてくれない人みたいだわ」
「いや、お前のほうがひどいと思うけどな。……それとその例えはましにならないのか?」
と、お互い言い合っていると、そろそろ親が帰ってくる時間帯になった。
「それじゃ、私そろそろ帰るわね」
「おう、分かった」
花音が部屋のドアを開けようとすると、ドタドタと、慌ただしい物音がする。
それを気にせず、花音はドアを開けると、
「遥奈ちゃん、何しているのかな?」
「あー、いやー、そのー、なんというかー……。ちょうどお兄の部屋の前を通っただけですよ」
「そう? それならいいけど、家のなかを走るのは危険だからね」
「あ、はい、わかりましたっ」
そう言って、遥奈は自分の部屋へ急いで入っていった。
その光景を椅子に座りながら見ていた俺は、
「……何やってんだ、あいつ」
「まぁ、気になるお年ごろなんじゃないの」
「わかんねぇわ、俺には」
「わからなくてもいいわ、あなたには」
俺は花音を見送るため、一緒に玄関まで付いて行った。
「それじゃ、また今度」
「おう、ありがとな」
花音を見送ったあと、俺は背伸びをした。
「さて、課題でもやっておこうかな」
と、自分の部屋に戻った。
――本当あの二人何をしているのだろうか。
妹――遥奈は、部屋で考えていた。
――今度は、積極的に攻めてみようかな。
遥奈の追求はまだまだ続くのであった。
◇
「お兄、朝だよ!」
遥奈が、ぐっすり寝ている俺の上にのしかかってくる。
「――ぐふっ!」
俺はたまらず、体をくの字にし、目を覚ます。
遥奈の格好は、まだ制服ではなく部屋着だった。
少し大きめのTシャツを着ていて、首元から可愛らしい下着が見えそうである。というか、俺に乗っているわけあってか、見えてしまっている。このような状況においては平常心をもって対応することが大切だ。
「お前……、俺を朝から殺す気か?」
――二つの意味で。
「いや、だってお兄起きないんだもん」
遥奈は笑いながらそう答える。
「ったく……、しょうがないか、俺も起きなかったことだし」
「そうそう」
俺は遥奈をどかし、立ち上がり背伸びをする。
「あ、そうだお兄」
「ん、どうした?」
「朝からこんなことを聞くのはおかしいと思うけど……」
遥奈は手をもじもじさせて、俺の顔を直視して、
「本当に、久東さんとはどういう関係なの!?」
「いや、だから……、ただの友達であって」
「そんなわけないよ! だって放課後毎日家に来ているでしょ!」
「それは……、そうだけどな……」
「はっきり言ってよ! 私だって、お兄の妹なんだよ! そこら辺のことを把握しておきたいの!」
「……妹だからって、教えるっていうほどのことでもないからな」
――実際、教えると、ややこしいことになると予想がつくため、話したくない。
「――そう、だったら、私だって考えがあるんだからねっ! 覚悟しててよ!」
と言って、遥奈は部屋から出ていった。
「……なんだ、あいつ」
本当、お年ごろの妹のことがまったくわからない。
◇
「おはよー、遥くん」
「あ、あぁ、おはよう」
いつもどおりの時間に葵が家へやってきた。
あれからというもの、どのように対応していいのかまだ自分でもわからない。
お互い意識しあっているためか、無言になることが今までより多くなってしまった。
「そ、それじゃ――」
言い出そうとした時、廊下からどたどたとすごい勢いで遥奈が飛んできた。
「はぁはぁ……、おはよー、葵ちゃん」
「お、おはよー遥奈ちゃん。大丈夫? 家の中で走ると危険だよ?」
「はははっ、大丈夫大丈夫、昨日も同じようなこと言われたし、うん」
「?」
葵が首を傾げる。昨日花音に言われたことを言っているのだから葵が知っているわけがない。
「でも、お前、家の中走るなよ、母さんに起こられても知らねぇぞ?」
「ま、まぁ、そうなったらその時だよ」
遥奈が苦笑いをする。次いでカバンの中から一枚の折りたたんだ紙を取り出し、
「はい、葵ちゃん。あとで読んで、これ」
「ん?」
葵にその紙を渡した。
「何が書いてあるの?」
「いいから、いいから」
と遥奈は葵の耳元に近づいて、
「お兄に見られないようにしてね」
「?」
とささやいていた。声を抑えたつもりだろうが丸聞こえだ。だが聞こえなかったことにしよう。
――女子たちの会話を盗み聞きする男は嫌われるからな。
事実、武彦は中学の時にすごく嫌われていた。いや、今でも嫌われているの間違いだったな。
「それじゃ、用も済んだようだし、学校行きますか」
「う、うん、そうだね、それじゃ遥奈ちゃん、またね」
と、葵は遥奈に手を振って、俺たち外へ出ていった。
ドアを閉めたあと、遥奈は靴を履きながらこうつぶやいた。
「うん、また――今夜、会おうね、葵ちゃん」と。
◇
「ね、ねぇ遥くん」
登校中、葵が俺に話しかけてきた。
「どうした?」
「あの、その……、久東さんとはどういう関係なの?」
意外な質問に俺は驚いた。
「な、なんでそんなことを聞くんだ?」
「いや、だって……、久東さんと遥くん仲がいいなって思うから」
「あ、いや、それはな、あいつ転校してきたからって、いろいろこの街のことをだな」
俺はすごく見苦しい真似だが言い訳をしようとする。俺たちがやっていることを特に葵にはバレたらまずいことになる。
「それに、転校初日から遥くんを屋上へ連れてって……、何を話してたの?」
「それはだな、俺を見たら、何か誰かと間違えたらしい。てっきり似てたから間違えたって、花音はそう言ってた」
「か、花音!?」
葵は驚きの表情を見せ、俺のほうを見てくる。
「遥くんが女の子の名前を呼ぶなんて……、どういう仲なの!?」
「いや、あいつが名前で呼べって言っているから」
「――本当なの!?」
「おい、葵。顔が近いって」
俺は顔をそらしながら、そう言う。そして葵もそれに気づいたのか、顔を赤くしながら、俺から離れる。
「ご、ごめんね、つ、つい……」
「い、いいって」
お互い意識してしまったのか、それから学校に着くまで、一言も話をしなかった。
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